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86 氷炎の越境

 黒いドラゴンが吹雪を吹き飛ばしながら羽ばたいている。

 クリスティーナの盾の後ろから顔を出す。

「ゼロ兄!」

「はっはっはっはっ、わーっはっはっはっ」

 ゼロ兄の笑い声と羽ばたきと吹雪でゼロ兄に声が届いているのか不安になる。

「クリスティーナ、ゼロ兄の後の補助は頼む」

「しゃーない、しゃーない、わたしに任せて」

「ウィル、ナビゲートよろしく」

「ザイン君、頑張って」

「虎助さん、影月、やるぞ」

「うむ、久々の戦だ、腕が鳴るな」

「せやな、ま、どうせ、最後はザインはんが決めてくれるやろうけど」

 影月の口から俺の名前が出た途端、それぞれが勝ちを確信した顔になる。

「僕らも全力でやるで!」


「ゼロ兄!」

 ドラゴンの顔が俺の方に向いた。

「兄弟! どうだ? 凄いだろ?」

「ああ、確かに、カッコいい」

 ドラゴンが空中で一回転した。

「インフェルノプラン発動だ!」

「任せろ!」

 ゼロ兄は急上昇し分厚い雲に大きな穴を開けた。

 漆黒の巨躯を持つドラゴンが太陽を体で隠し雪原を見下している。

 ドラゴンが口を大きく開ける。闇の黒紫色の炎がドラゴンの口の中で渦巻いている。

 ドラゴンの少し上に大きな魔法陣が出現する。魔法陣が雲を押し除けて空に展開される。

 太陽の光に雪原が照らされ、吹雪の中から6人のガスマスク達が姿を現す。

 そのガスマスク以外の敵を見つけたという合図は無い。太陽に照らされている範囲は半径1キロメートルだ、それよりも外側にイリヤは居る。

 魔法陣が闇の炎で燃え上がる。ゼロ兄の魔法の準備が出来た合図だ。

 クリスティーナの後ろでその時を待つ。

「ゼロ! やれー!」


 クリスティーナの叫びにドラゴンが呼応する。

「インフェルノ・グランド・ブレス!」

 ドラゴンが天から地へ闇の炎を吐く。

 降り注がれた炎を地を這い、ありとあらゆる物を焼き焦がして征く。

 炎に飲まれたガスマスク達は灰すら残らさず燃え尽きていく。

 地面を覆っていた雪も水になる事なく蒸発する。

 クリスティーナが守ってくれていなければ、俺達も一瞬で消し炭になっていた。

 天まで届く闇の炎が半径2キロメートルの雲と地面を焼き焦がして、全てを無に帰す。

 超巨大魔法の溜めをドラゴンに変身する事で防ぐという流石魔法の達人ゼロ兄だ。クリスティーナが居なければ味方を巻き込むという点さえ除けば。


 炎の勢いが収まってきた。

 そして、MP切れで元に戻ったゼロ兄が落ちてきた。

「ぐはぁっ」

 首から地面に行ったが幸いな事に致命傷で済んだ。HPやMPを盛るスキルを大量に付けているだけある。

 半径2キロメートルが焼け焦され、雲も消しとばされたが、イリヤ達はまだ倒れていない。

 気になってフィールドの最大の広さをヘルプで調べてみると、半径3キロメートルの円まで広がるということが分かった。そこから正確に頭部を狙撃しているとなると、かなりの腕だ。それも2メートル先も見えない吹雪の中だ、どうやってこちらの位置を把握しているのか。

 大方の予想はつく。


「ザインはん、ザインはん」

 軽快な表情の影月に呼ばれた。嫌な予感がする。

「僕、イリヤはんの力が何か分かったわ」

 自信満々、満面の笑みだ。悪寒がする。

「イリヤはんの力は、ずばり、予知能力や!」

 呆れて何も言う気にならない。

「こんな吹雪の中狙撃してくるなんて、見えとらんはずなんやから、予知しか無いやろ。こう最初っから僕らの動きをバーって感じでな」

 誰も影月に何も言わない。面倒くさそうに話を聞いている。

「つまりな、予知が外れるような動きをすればええんや!」

 話の内容が驚くほど薄い。

「ほら、行くで虎助はんもザインはんも」

 影月に背中を叩かれてながら2人はクリスティーナの盾の後ろから出てくる。

 そしてウィルに耳打ちをした後、影月も出てきた。

「さあ、行こか」




「ふふっ、活きの良い獲物はわたくし大好きですわ」

 イリヤは対物ライフルのスコープをのぞき影月に照準を合わせる。

「ターゲットの位置を北に5、西に3修正」

 イリヤの指示によりガスマスク達が影月に気がつかれないギリギリの位置で待機する。

「楽しい狩りの始まりですわ」

 イリヤが引鉄を引いた。


「くっ!」

 影月はギリギリで弾丸を避けた。3発の弾丸が寸分の狂い無く衝突し潰れる。

「どんな腕やねん! 流石にありえへんやろ!」

 ゾロゾロとガスマスクの連中が吹雪の中から現れる。

「ほぉ、挨拶も無しに囲んでくるやなんて、エラい挨拶やわぁ」

 ガスマスク達は無言で大きなナイフを2本取り出した。

「僕をとろうなんて千年早いわ」

 静波をゆっくりと抜く。

「あれがサムライ! 良い物を見ましたわ!」

 次の弾丸を込めながらイリヤは喜んでいる。

 ガスマスク達は一斉に影月に襲いかかる。

 影月はまず目の前に居たガスマスクの攻撃をすり抜け、背後にまわる。

「甘々やな」

 横からの攻撃が見え、影月は慌てて背中を蹴って倒し、横からの攻撃を回避する。

「おっとぉ? まだまだやなぁ、そんなんじゃあ、僕のタマは取れへんで」

「タマ? もしかしてヤクザとかあっち側の人ですの!? それはちょっと怖いですわー!?」

 イリヤが再び照準を影月の頭に合わせる。ボソッと呟きながら驚いている。

「ちょっと! 僕は一企業の社長やで! ヤクザ扱いされたら名誉毀損、威力業務妨害もんやで!」

「ええ!? もしかして聞こえましたの!?」

「なんやろ、何かヤクザ扱いされた気がしたから言うたけど、やっぱり何も言われてへんな……」

 ガスマスクの攻撃をいなしながら影月が呟いた。

「結局聞こえてないんですの!?」


「これで終わりですわ!」

 イリヤが引鉄を引いた。

 ガスマスクの姿に隠されて影月は弾丸に気がつかなかった。

 そして、影月の頭は撃ち抜かれた。

 叫ぶ余裕も無く影月は倒れた。

「なんや、呆気ないもんやな。後任せるで、虎助はん、ザインはん」

 影月はHPが無くなり消えた。

「うむ、任せておけ」

 影月が倒れた場所の後ろから虎助が現れ、ガスマスク達は驚き体勢を崩した。

「え!? 何で……何でそんな所から現れるんですの!?」

 虎助の出現にイリヤは目を丸くして驚いた。

「さあ? 何でだろうな?」

 イリヤは背後から聞こえてきた声にまた驚き、ゆっくりと後ろを振り返る。

 そこにはザインが立っていた。


 不敵に笑って、雪の上に寝そべり対物ライフルのスコープを覗き込んでいたイリヤを見下す。

 イリヤが立ち上がり体勢を整えるのを待つ。

「進化の力を持つ者同士、楽しくやろうぜ」

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