83 大人の意地
「第3戦の作戦会議始めるで!」
声を張る影月に誰も返事をしない。
「みんなテストで疲れてるんです。影月君」
「学生はテストかぁ……もしかして、死にそうな顔のザインはんも?」
「人を何だと思ってる、俺も学生だろ」
「いや、まあ、そうなんやけど、そうは見えんっていうか。学生にしては修羅場をくぐり過ぎて落ち着き過ぎとると言うか……学生らしくは無いやろ」
「分からなくもないけど、俺は学生だっての」
「どうしたんだ? 兄弟、影月、ベルさん」
ゼロ兄とクリスティーナがやってきた。
「学生はみんなテスト週間らしくてな。今日は大人組が頑張らんとな〜って、な? ゼロはん」
ゼロ兄が驚きたじろいでいる。
「いや待て、オレも学生なんだが!?」
「……え?」
「ゼロ君もまだ大学生ですよね?」
ゼロ兄が頭を縦に振る。
「あれぇ……僕結構覚えてへんもんやなぁ」
「じゃあ、わたしは?」
「クリスティーナはんは覚えとるで、大学生でモデルやからな」
「なーんだ。それとも、わたしに気があったり?」
モデルがやるセクシーポーズをクリスティーナがやる。ゼロ兄がクリスティーナから目を逸らした。
「ロリコンだから無いだろ」
「ザインはん!?」
「影月……良くないよ、大人として」
「っていうか僕、前にクリスティーナはんに説教された覚えがあるんやけど!」
「わたしも覚えてる、中学生に手を出すとかサイテーだからね」
「だから、僕からやないんやってー!」
「作戦会議始めるで!」
影月の号令でギルドメンバーが集まってくる。
「作戦は2回戦の時と同じやから。メンバーはザインはんと大人組やな」
影月がビシッと人差し指を立てる。
「影月、どういう選出なんだ?」
イケイケな影月に対してドウジは冷ややかな目だ。
「大人の意地って奴やで」
楽しそうな影月に対してドウジのイライラが溜まっていっている。
「そろそろドウジがキレそうやからホントの事を言うけどな、学生はみんなテスト週間やから、ここは大人がバーンと活躍して、安心してテスト受けさせた方がええんやないかって思っただけやで」
ドウジは、最初から言えよって言いそうな顔をしている。
「最初から言えよ」
言った。
試合は難なく終わった。
「お疲れさーん、良い試合やったな」
特に反省する事は無い試合だった。
「それじゃ、解散する?」
「ヒメキチはん、運営から連絡があるらしくてな」
「うん、分かった。それが終わるまでは居ようね」
ギルドハウスで寛いで待っているとモニターが点いた。
有馬が映っている。その後ろにはメタトロン・システムが鎮座している。
「いきなり申し訳ありません、私は主催者の有馬です。次回の試合、運営の都合で2日延期となりました。大変申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いします」
映像が切れた。あっさりとした連絡で終わった。たぶん、残りの8ギルドに同時に連絡したのだろう。
「やってさ、もしかして、テストに気回してくれたんちゃう?」
「何を馬鹿な事を」
一蹴された影月は露骨に凹む。
「今日は解散ね」
ヒメキチの指示で続々とログアウトしていく。
「ねえ、ザイン」
呼び止めたのはルイスだった。
「どうした?」
「ぼく、凄いなって思ったんだ」
「……何が?」
凄いと思われる事が思い当たらない。
「ええ!? 世界大会だよ! ベスト8だよ!? 感覚おかしいんじゃ無い?」
「そうだな。常に世界一の俺からしたらベスト8くらいでは凄く無いし喜ばないだろうな」
ルイスのドロップキックを顔面で受ける。
「……何で」
「ぼくの気持ちを考えないからでしょ」
「兎の表情が読める訳ないだろ」
「表情を読むんじゃなくて、心を考えるの」
くっ、面倒くさい。
もう一度ドロップキックを喰らう。
俺の膝も届かない小さな兎のボディからどうやったら顔までジャンプで届かせ、強力なキックを繰り出せるのか。
「結局何が言いたい?」
「え、うん……」
ルイスが口籠る。モジモジクネクネしていると確かに乙女っぽい感じがする。
「ありがと」
「そうか」
「ええ!? それだけ?」
それだけって何だ? どういう事だ?
「人に感謝するだけで何を口籠る事があるんだか」
「違う! そうじゃない!」
訳が分からない。
「もしかして、おまえわざとやってるな?」
「はぁ?」
そして、3発目のドロップキックを喰らった。
「もういい、テストで撃沈してしまえー!」
ルイスは何処かに行ってしまった。何だったんだ?
「兄助、遅かったね、テスト勉強の時間だよ」
姫花が俺のベッドの上でゴロゴロしながらこっちを見ている。流石にモコモコのパジャマは暑くなったのかキャミソールとショートパンツになった。目のやり場に困る、特に胸。
「ルイスと話してた」
「ルイスちゃん? 何の話?」
「お礼を言われた。あと3回もドロップキックされた」
「ドロップキックはいつもの事じゃん。お礼は珍しいけど」
顔を蹴るにしても靴はやめて欲しいものだ。
「兄助、足フェチでも良いけど、私のにしてね」
変な事で釘を刺してくるな。
姫花の足はスラっとしていてすべすべ、足フェチにはたまらないだろう。
「兄助には助けられてばっかりだもん、みんな心の中ではとっても感謝してるんだよ?」
「ふぅん?」
「今度は私達が救ける番なんだけど、上手くいかないんだよね、ごめんね」
「別に謝る必要ないだろ、テストとか助けて貰ってるし、悲しい事に」
2年の内容を1年の姫花に教えて貰うのは少し悲しくなる。
「兄助、勉強すれば出来る方でしょ」
「世の中、面倒な事だらけだな」
「そうだね。それじゃ、テスト勉強しようねー?」
姫花に引っ張られ凛さんが待っているリビングに連れて行かれた。