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82 救世の真理

「外山さん」

 ハチマンホールディングスのビルの会議室に役員が揃っていた。

「リスタートワールドオンラインの普及率をお願いします」

 有馬頼は理路整然と会議を進める。

「は、はい、かしこまりました」

 副社長の外山がボードの前に立つと、グラフが映し出される。

「先週月曜日の90%から5%アップしております」

「あと5%は間に合いそうですか? 間に合わないのであれば決勝を延期するしかありませんが」

 頼の質問に外山は冷や汗を流す。

「社長、流石に100%とというのは」

「無理ですか?」

 外山は答えない。

「確かに医療従事者など特定の職業の人は間に合わないかも知れませんね。なら、出来る人をまず100%にする、という事で行きましょう」

 聞き分けが良すぎる、さっぱりしていて何を考えているのか顔に出ない。私達のような人間、いつクビにされるか分からない恐怖がある、それが幹部達が有馬に抱いた感情だ。

「別にとって食おうなどと考えていませんよ。仕事を全うしている限りは……これはどの会社でも同じ事では?」

 幹部達はぐうの音も出なかった。

 笑えない、若くしてここに居る幹部の誰よりも経営能力があり、会社をまとめる力もある。欲に塗れているわけでもなく、社員思いでもある。そして、容姿端麗。天から全てを与えられた人間、それが有馬頼。

 みんな喜んでついていくだろう。彼が全人類を救うという狂気に囚われていなければ。

「私もザイン君を見習って、表情から感情を読み取ってみました。ですが、流石ですね、あなた達は多くの修羅場を乗り越えている。簡単には読ませていただけませんね」

 有馬は仏のように笑った。それがかえって怖かった。




「兎乃はん、ソフトの解析終わったで」

 月さんからメールが届いていた。

「端的に言うと、害意のあるもんやないで。ちょっとしたファイアウォール機能とネットの閲覧履歴をメールで送信する機能がついとったで」

 普通にストーカー行為なのだが、害意が無いとはいったい……

「メールの送り先は西園寺霧人、つまり親御さんやな」

 なるほど、それは害意とは言い難い。

 メールはどうやらそれだけのようだ。月さんから聞いた事を加恋にメールで送る。


「兄助ー、デザート作ったよー」

 姫花が部屋のドアを開ける。時々、ノックをせずに急に入ってくるからびっくりする。

「何してたの?」

 姫花がペンギンの足の形のモコフワのスリッパでペタペタ歩いてくる。

「加恋から頼まれてた事があったから」

「ふーん? 明日のテスト?」

 ……明日の……テスト?

 1年の姫花が2年の小テストを知っている訳が無い。

「明日からの期末テスト、忘れてたんだね」

 そうだ。世界大会と期末テストが被っている事を思い出してしまった。

「兄助には2つの選択肢があるよ」

 姫花がピースする。

「1つは一緒にデザートを食べて一緒に勉強する事」

「もう1つは?」

「一緒に勉強してからデザートを食べる事」

「朝三暮四という奴だな」

「分かったから、どっちにする?」

「デザートは後で……」

「うん、頑張ろう」




「良かったねー、凛さんも居てくれて」

 ある意味何時もの光景だ。右に姫花、左に凛さん、2人に挟まれて勉強会をする。

「姫花はさ、自分の勉強……」

「私は大丈夫だもん。これでも中間試験の時は学年トップだったし」

 学年……トップ……!?

「人の心配より自分の心配をしてください。姫ちゃんはコツコツと勉強してましたから」

「うぐぐ……」

「大丈夫だよ、兄助。私、2年の範囲までなら教えられるから」

「はぁ?」

「来年には飛び級して兄助と一緒のクラスになるつもりだよ?」

「……え? マジで言ってるの?」

 姫花は悪い笑みを浮かべる。

「さあ〜? どっちだろー? 答えは来年の4月だよ」

 姫花の事だ、マジでやりかねない。


「兄助、それスペル違うよ」

 指摘された間違いを粛々と直す。

「兄助、その計算はこっちの式を使うんだよ」

 姫花に言われた式を当てはめると、今まで解けなかった式が解けていく。

「兄助」

「兄助」

「兄助」

 ……ヤバい、ほとんど姫花に教えてもらっている。

 凛さんも教えようとしているが、姫花が早すぎて、口を開けたまま固まっている。

 姫花が教えてくれる度に姫花のおっぱいが腕に当たっているのもヤバい。

 姫花が教えようとすると凛さんも近づいてくるから凛さんのおっぱいも当たる、これもヤバい。

 あと、教えてもらうばかりで立つ瀬がない。

 これでは本当に来年は同じクラスだ。

「兄助、あーん」

 姫花が作ったプリンをすくって俺の口まで運ぶ。

 これでは赤ちゃんみたいだ。

 まあ、いいか。




「あの、兎乃君?」

「ゔぁ……」

 肩凝りなどなど、疲労がヤバい。今日の3教科分のテスト勉強を一夜でやった。やりきった。

「今にも寝そうです」

 ふらふらと玄関に仰向けに倒れる。

「ねっむぅ……」

 まぶたが重い。

「ダメだよ、兄助、テストなんだから」

 頑張って目を開ける。

 3人が心配そうな顔で俺を見ているのが見える。あとパンツも。

 やっぱり、うちの学校、スカートの丈が短いんだよな。

「ゔぁっ!」

 莉乃に顔面を踏まれた。

「オマエ! 姫花ちゃんはまだしも姉様のパンツを見るとか言語道断!」

「私は良いの!? あ、でも、兄助ならいつでも見せてあげるよ? でも、せっかくなら2人きりの時が良いかなぁ」

「……朝からこの展開は重いです……あと、学校遅れますよ?」

 莉乃に踏まれたお陰で目が覚めてしまった。加恋が丁寧に莉乃の足を顔から動かして、顔をハンカチで拭いてくれる。

「私だってパンツくらい見せて差し上げても……」

 加恋がボソッと呟いた。

「姉様!?」

 絶望と驚きで莉乃の顔が凄い事になっている。

「遅刻しますよ」




「テストどうでした?」

 テストが終わり家に帰って来た。道場で師範の仕事を早めに終えてきた凛さんが家で待っていた。

「いつも通り」

「それ、私と凛さんのおかげでしょ?」

 姫花にうなずく。

「まあまあ、それなら良かったじゃないですか」

「うんうん、今日も頑張ろうね。兄助、ね?」

 姫花からの圧が凄い。

「頑張ったら、ご褒美見せてあげるから」

 姫花がスカートの端を摘んでパンツが見えないギリギリまで上げる。

 凛さんが固まった。これはまずい。

 全神経を集中し、力を使い凛さんの動きを読む。顔にパンチがくる!?

 咄嗟に全力で屈む。

 突風を背中に感じる。カーテンが荒ぶっている。さっきまで顔があった場所に凛さんの拳がある。

 凛さんのパンチなら虎くらいはヤレるんじゃないかと思う。

「エッチな事は結婚するまでダメなんですよ!」

 凛さんは照れと怒りが混じった声に恥ずかしさで真っ赤になった顔になっている。凛さんはハッとして手を戻した。

「あわ、あわわ、ご、ごめんなさい!」

「大丈夫、生きてる」

 正直、危なかった、死ぬかと思った……

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