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81 荒天の中心

 2回戦試合前。

「あー、影月?」

「どしたん? そんなえろう改まって」

 メールで加恋のパソコンに入っていたソフトを送る。

「このソフトを解析すればええん?」

「頼んで良いか?」

「別にかまわんけど、どしたん?」

「カレンのパソコンに入ってた」

 少しの間沈黙が流れた。

「え? 女の子の部屋に入ったん?」

「カレンの父親に呼ばれて」

 また沈黙が流れる。

「そのことに関しては僕は何も知らんから。ソフトはちょっと見てみるわ。たぶん、2、3分もあれば分かるやろうし」

「頼む」

「はぁ……しゃあないわ」




「はいはい、全員居るな? 作戦会議するで」

 影月を中心にしてギルドハウスのリビングに集まった。

「作戦、名付けて、ザインはんバケーションプロジェクトや!」

 影月のしてやった顔と反対に聞いていたメンバーの顔が冷めていく。

 しかし、影月はめげずに作戦を説明し始める。

「4回戦目、つまり、準々決勝まではマオはんが言っとったギルドとは当たらん、その間はザインはんを温存してハイドはんを中心にするで」

 冷めた顔ながら異議は出ない。

「ハイドはんともしもの時のザインはんは確定、後は、調子とか見て僕が決めるって感じでええかな?」

 誰からも返事が無い。決め兼ねていると言ったところか。

「いいと思う。あと影月、同意は要らない」

「ここまで反応が鈍いと、話聞いとるんかなって」

「あはは……ごめんごめん、なんか、影月1人だと変な感じ? で黙っちゃった」

「そうですね、影月さん1人だとちょっと変?」

「クリスティーナはんもウィルはんも酷いわぁ、こっちは真面目に頑張っとるのに」

「時間無いし、そろそろ頼む」

「はいよっと」




 試合はハイド達の活躍により、出番無く終わった。

「良い圧勝やったな」

 試合に出てない影月がご満悦だ。

「出なくて良いのか?」

「僕? 次は出る予定やで。腕が鈍りそうやしな」

「ふーん」

「興味無いなら聞かんでええんやけど」

「いや、別にそういうわけじゃないんだけどな。単に影月が出たら誰がデータを取るんだろうって思っただけ」

 影月が固まった。

「忘れとった!」

 ダメージを受けそうな程大きな声が聞こえて来る。

「うるさい」

「忘れとったんやから仕方ないやろ、ああ、どうしよ……」

「分かるの僕とザインはんくらいやろ」

 全ての試合のデータはカインドさんが作った暗号によって隠されている。その暗号が分かるのは、今では俺と影月だけだ。

「……そういえば、そうだった」


「これ何ですか?」

 2人で悩んでいるとカレンがやってきて暗号化されたデータを見ている。

「あ、試合のデータですね」

 全く見たこと無いはずのカレンが言い当てた。

「え」

「……どういう事なんや?」

「ザイン君? 影月さん? 目が怖いですよ」

 カレンが後ずさる。

「いやいやいや、何で分かったんや? パンの種類が並んであるだけやろ?」

 パンの種類と数字が並んでいるが、実は数字も暗号になっていてそのまま読めるわけではない。

「暗号ですよね? 見たことあるんです。どこだったが覚えては無いんですけど、面白い暗号だったので覚えてました」

 見たことある? そんなバカな……

「もしかして、情報が漏れてる?」

「ゲームの、それもギルド戦のデータの?」

「そうやけど、カインドはんとカレンはんに接点は無いはずやろ?」

 カレンがうなずいている。

「……俺のデータ?」

「んんん?」

「いや、バルキリーが俺の行動を読んでたけど、それがこのデータを基にしたって事なら……」

「流石に無いやろ。データ盗み見せんでもデータ持っとるやろ」

「……確かに」

「アホなザインはんは置いてといて、カレンはん、僕が試合出る時は、暗号でデータ作ってくれへんかな?」

 アホ、言い返せない……

「はい、あ、でも、完璧に覚えているわけでは」

「そこはほら」

 影月が俺の肩を叩く。俺かよ……




「あらあらあらあら、まあまあまあまあ!」

 外に出てカフェのテラス席でカレンにデータ用の暗号を教える。

「ふふっ、わたくしのあまりの眩しさに、声をかけることも憚られるのも分かります」

 カフェでは、クエストで攻バフや防バフを得られる料理が食べられる。

「あ、あの?」

「パンの方は大体分かりました。でも、個数が」

 カレンが今日の試合のデータを暗号で入力する。

「個数は数字だから、面倒なんだよな……」

「お願いし〜ま〜す〜! わたくしを無視しないでくださ〜い〜!」

 よく分からないが、俺の顔を見て近づいてきた、金髪の女が泣き出した。

「すみません、誰ですか?」


 親衛隊らしきガスマスクの連中が驚いている。

 今は大会出場者か関係者以外からは話しかけられないようになっている。

「名前を見ても分からないのですか!」

「名前表示して無いじゃん」

 正論を投げ返すと、石化した。何だこのポンコツ。

「あ、ザイン君、ここが分かりません」

「はいはい」


 金髪の女はガスマスクの連中とドタバタ何かしている。

 こっちはカレンにデータの記録方法を教え切った。カレンは飲み込みが速く教えるのが楽だった。

「影月が出る時だけだから、そんなに気難しく考えくても良いと思う」

「はい。ありがとうございます」

「感謝するべきなのは影月だけどね」

「夜ご飯の時間なので、私ログアウトしますね」

 試合があったので9時は越えている。カレンの家はまだ夜ご飯を食べていなかったようだ。

「そうか、それなら俺も……」


「ちょっとお待ち下さいませ!」

 ログアウトしようとしたところを止められる。

 金髪の女の頭の上にはIDやジョブ、レベルは表示されているのに名前だけが表示されていない。

「何ですか?」

「名乗りますので待ってくださいませ!」

 深呼吸をして、髪を靡かせた。

「わたくしは氷女君イリヤですわ」

 目を閉じて、腰に手を当て、胸を張って仁王立ちしている。

「それはどうもご丁寧に、ザインです。失礼します」

「あ! カレンです。失礼します」

 ログアウトしようとするとイリヤに止められた。

「ちょ、ちょちょちょちょーっとお待ちくださります?」

「デザートの時間なので手短にお願いします」

「あっはい、分かりましたわ」


「フィクサー様とわたくし達の野望の為にあなた方をボコボコのケッチョンケチョンにしてやりますわー!」

 高笑いするイリヤにカレンは口を押さえて驚きの表情を隠している。

「……対戦、次じゃ無いですよ?」

「……え゛?」

 イリヤはガスマスクの連中の所に戻っていく。

「本当ですわ!?」

 イリヤが顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら戻ってきた。

「対戦が次じゃないとか関係ありませんわ!」

 関係無かったか、というか開き直ったな。

「進化したわたくしやあなたが負けるはず無いじゃありませんか?」

「それは違うだろ。俺達だって負ける可能性は十分ある。ここには世界の強い奴しか居ないんだから」

「……そうですわね」

 イリヤは目を丸くして、そして、認めた。

「と、とにかく、首を洗って待っている事ですわー!」

 イリヤが消えた。置いて行かれたガスマスク達も慌てて消えていく。

「何だったんでしょう?」

「気にするだけ無駄」

「はい」

 カレンとログアウトした。

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