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8 凛の聖女

「はぁ」

 結局、無駄骨だった。

 影月はかなり頑固だ。聞き出すことは不可能だろう。


 これがゼロ兄だったらすぐに口を滑らせてくれるんだが。


「はぁっくしょん!」

 ダンジョン攻略中のゼロはダンジョンに響き渡るほどのくしゃみをする。

「魔王様お風邪ですか?」

「ゲームだから風邪ってことは……おほん! ふっ、天下布武のこのオレの噂がそこかしこでされているようだな」

「……流石魔王様!」

「だろう? あっはっはっは、あーはっはっはっ、げほっ!」




「たっだいっまー!」

「ただいま帰りました」

 姫花と凛さんが帰ってきた。

「おかえり」

「見て見て! じゃーん、新しい服! ティナちゃんと偶然会って選んでもらったんだー!」

 ティナはクリスティーナの本名だ。ティナ、渋谷ティナはよく雑誌の表紙になるくらい人気のモデルだ。クリスは誕生日でもあるクリスマスから取っているらしい。


 桜がチャームポイントのワンピースにビシッと決まっているアウター。モデル顔負けで超可愛い。

 可愛いが過ぎて言葉が出ない。

「どう……かな?」

 くるっと回る姫花、それがまた可憐で可愛い。

 深呼吸をして感情を整える。

「可愛い」

「今度、デートする時はこれ着るねー」

「可愛い」

「女の子は可愛いって言ってもらえるほど可愛くなるんだよ?」

 これ以上可愛くなるのか!? 上目遣いでしっとり見つめてくる姫花はこれ以上なく可愛いのに。


「くぅ」

 姫花のお腹が鳴った。

「可愛い」

「もぅ! 今じゃないってー!」

「お昼ご飯にしましょうか」

 凛さんが買ってきていたハンバーガーを開ける。




 お昼を食べ終え、ソファーに寝転がる。

「兎乃君は夜しっかり寝てますよね? 昼も眠れるものなんですか?」

「俺、いつも眠いんだけど」

「凛さん、兄助は凄い集中力と引き換えに疲れやすいんだよ」

 姫花がドヤ顔で適当なことを言っている。

「そうだったんですか!?」

「いや、勝手なこと言うなよ」

「えー、違うの?」

 分からないので答えようが無い。


「相手ギルドが全員銃持ちで銃弾の嵐の中を無傷で全滅させたこととかありましたよね。確かに凄い集中力じゃないと出来ませんよね」

「別に銃口が向いている方にしか弾は飛んでこないし、現実と違って銃弾もかなりゆっくりだぞ?」

「それでも無傷はヤバいです。私でも数発は当たりますよ」

 凛さんも数発で済むんじゃないか。


「兄助、前はギルド戦に単騎で出て、それも全部勝ってたよね」

「そうですよね。アイン単騎より他全員の方がまだ勝ち目があるなんて言われたんですからね」

「何だそれ、初めて聞いたんだけど」

 ギルド戦は最大15人まで出ることが出来る。もちろん、多少の人数補正があるので全員で出なくても差が出ないようにはなっている。

 それでも、単騎で出るという無謀なことをするのはソロ専か俺くらいのものだったが。


「肩揉んであげようか? あ、凛さんは左ね!」

 引っ張って起き上がらされる。

 二人が肩を揉み始める。

「あ、あ゛!? ストップ! 痛い! 凝って無いから痛いって!」


 やっとのことで肩もみから解放されたと思ったら、2人の監視の下で学校の課題が始まった。

 根が真面目な二人から逃れることは出来ない。

「えっと、分からないので教えてもらっていいですか?」

「何処?」

「全部」

 笑って答えてみる。

「もう少し頑張ろう?」

 そうですよねー。


 逆に姫花はうずうずしながら黙っている。姫花は凛さんから口出しを禁止されている。

「学校サボっているのに解けるんですね」

「まあ、復習ばっかりだったしな」

「兄助はね、出る時はちゃんと真面目に聞いてるんだよ。出る時はね……」

「出ないことが問題ですけどね……」

 二人が俺を見てため息を吐く。見なかったことにして課題を進める。




 課題も終わりやっと解放された。リスタートワールドオンラインで装備集め兼レベル上げに勤しむことにしよう。


 ギルドハウスを出て、大通りに出る。街中ではギルド戦の様子が中継されている。

 ウィルの居る凛聖女協会と聞き覚えの無いギルドが戦っている。


 ギルドマスター、凛の聖女カレン、槍によるリーチと二槍による手数が特徴の攻撃的な守護騎士のようだ。ジョブによる防御ステータスの高さを活かし、攻めに重きを置くタイプか。

 本人は純白のウェディングドレスを思わせるような鎧に、フワッとしたロングで茶色の髪、人形のような顔立ち、美人だ。しかし、何処かで見たことあるような。


 鉄の聖女、リノ、顔まで隠した重厚な鎧でハルバードで戦っている。重騎士というジョブのようだ。男か女かも分からない。VRの使用上、基本的には本人に体を似せなければならないが、肌一つ見えないあの鎧では何も分からない。


 そして、ウィル。攻撃のカレン、防御のリノ、回復のウィルと、バランスが良い編成になっている。


 ギルド戦は凛聖女協会の圧勝に終わった。

 相手ギルドは文字通り手も足も出ていなかった。攻撃はリノに阻まれ、その隙にカレンが攻撃をする。傷ついた時はウィルの的確な回復、主戦力のこの3人をどう攻略するかにかかっているだろう。




「どう思われますか? 今回のギルド戦」

「そうだな。リノという防御役を崩せなかったことが敗因だろうな。そこさえ崩せれば幾らでもチャンスは出来たはずだ」

 聞かれて答えてしまったものの、誰だ?

 横を見るとカレンが立っている。ワープしてきたのか。


「慧眼ですね。流石は天下のアイン様と言った所でしょうか」

 遅れてウィルとリノがワープしてくる。

「ちっ、こいつが」

 リノは悪態を吐き、ウィルはボーっとしている。

「どうした? ウィル」


「あぁ、やっと会えたよぉ……アイン君、私ね。仕事辞めたの!」

 腰くらいある長い金髪、謙虚な胸、質素なゴシックの服、緩い雰囲気のたれ目、ウィルだ。何にも変わってない。

 周りの視線が集まる。ウィルは看護婦だったのだが、辞めたいとは以前から言っていた。


「ああ、そうか、ニート?」

 ウィルは首を横に振る。

「我が西園寺製薬のゲーム部にお越しいただくことになりました」

「ほー」

「ああ? 姉様の御言葉だぞ? オマエ、ちゃんと聞けよ」

 キツイ言葉とは裏腹にリノの声は幼く聞こえる。

「リノ、止めてください」

 リノは渋々下がった。




「えっとね、あ、アイン君! じゃなかった、ザイン君! カレンさんのギルドに入って欲しいの!」

 名前が変わったことに気が付いたのか言い直すウィル、また勧誘か。

「ウィルさんが言った通り、ぜひ、あなた方ギルド全員に私のギルドに入って欲しいのです」

 カレンが頭を下げる。

「……一応、私達のギルドは日本でトップ10に入る。オマエに頭を下げる理由は無いが、姉様は優しいから下げてるんだ、分かるよな?」

 日本でトップ10に入る、か、ウィルが居るだけのことはある。

「……はぁ、俺はギルドマスターじゃないから、そういう話はちょっと、あと、引き抜きは受けない」


「そうですか、では、一つ、私達のギルドとギルド戦をしませんか? 私達の実力を見れば、また、意見が変わると思います」

「それはまた、随分と上から来たな」

「世界を獲るギルドになるつもりですから」

 凛とした表情を崩さないカレン、先程のギルド戦も含めて、かなりの強者ということは分かる。

 面倒なのに目を付けられてしまったようだ。

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