78 略奪の流儀
「何で……全滅してるんだ……」
気がつくとティーチと俺しか居ない。何があったらそんな事になるんだ。
「ま、良いじゃねえか、どうせ俺様かお前、勝った方が残りも倒す事になるだけだったんだから」
「その自信は何処から出てくるんだよ」
何故かヒメキチに援護に来るな、と念を押されていた。
全滅するくらいなら助けを求めれば良いのに……
「まあ、アンとメアリー相手に相打ちならよくやった方か」
「あいつらの事そんなに買ってんのか」
ティーチが髭をさすっている。
「まあな、泣かれた時に比べると、びっくりするくらい強くなってるよ」
「あったな、そんな事も」
「まだ3年くらいだろ」
「3年も経てばボートから海賊船よ」
ボートから海賊船、例えが分かり辛い。
「そもそも、最後に戦ったのはいつだったか、覚えてない」
白い目で見られた。
「お喋りは終わりにして始めようぜ」
ティーチが大砲を振り上げる。
「そうだな、お前の顔も見飽きたし」
ラブリュスを振り上げる。
「良いぜ、その煽り、お前はこうじゃねぇとな!」
ティーチの大砲から砲弾が発射されるのに合わせて、ラブリュスを投げつける。
ラブリュスが砲弾を真っ二つにし、ティーチに飛んでいく。
「おっと」
ティーチはラブリュスの刃を掴み、キャッチした。
「わざわざ海賊にプレゼントを渡してくれるなんて親切な奴だな」
ティーチに武器を投げると必ず奪われる。完全にメタを張っている。
「……ソウダナ」
「ガッハッハ、もしかして忘れてたのか?」
答えず、水晶突剣を構える。
「……本当に忘れたのか?」
憐んだ目で俺を見ている。
「何も言ってないだろ」
木箱を駆け上がり、ティーチの頭を狙う。
「空中戦は得意なんだ」
「なるほどな、それでここに落としたって訳か」
ティーチが振ったラブリュスを蹴り、他の木箱に飛び移る。
ラブリュスの当たった木箱は粉々に砕け破片が飛ぶ。
破片でカモフラージュさせナイフを投げつける。
「ふんっ!」
ナイフは叩き落とされた。
「腕が鈍ったんじゃねぇか?」
「チャンスだろ? 良かったな」
「ガッハッハ、それなら遠慮なく勝ちは奪わせて貰うか」
ティーチはラブリュスを振り回しながら大砲を撃ってくる。
木箱の上を渡りながら回避していく。
「澄ました顔して何か企んでんのか?」
ティーチが追いかけてくる。
「どうだろうな?」
天井から吊り下げられている照明にジャンプしてぶら下がる。
「逃げてばっかじゃ勝てねえぞ?」
「先に謝っておく」
照明からまた木箱に飛び移る。この船デカすぎだろ。
「ほう?」
床に降り、ティーチの方を向く。
「お前との勝負、本気だが手を抜く」
「ガッハッハ、何だそれ。いいぜ。負けて後悔しろ」
ティーチが砲撃する。
水晶突剣で砲弾を防ぐ。爆発と煙でティーチからザインが見えなくなった。
「オラァ!」
ティーチは煙にラブリュスを振り下ろす。
手応えがあった!
ザインは食いしばりのスキルがあるはず、ラブリュスがある場所に砲撃を打ち込む。
「やっぱりか」
「なぁ!?」
煙の中からザインが出てくる。
「お前どうやって」
ラブリュスが動かない。判断が遅れ、ラブリュスから手を離せなかった。
「どうって? 砲弾が爆発した直後に隣にあった木箱に穴を開けてそこに逃げただけだが?」
煙が晴れ、穴のあいた木箱が見えるようになる。
動かなかったティーチの懐に潜り込む。
「それなら、斧は……」
「壁に当たっただけ。戦斧を使った事が無いから感触だけでは何に当たったか分からなかったって事だ」
ティーチの腹を蹴り上げる。
「ぐぅ! わざわざその為に斧を!」
「ああ、最初から俺の手の上で踊ってただけだ」
蹴りと水晶突剣の斬撃を交互に入れる。
「スーパーアーマーは、1つだけ落とし穴がある」
「武器に依る攻撃にしか効果が無い……」
蹴りが入る度にティーチは体勢を崩される。後はされるがまま、ティーチはHPが減らされるのを黙って見ているしか無い。
「これで34勝4分だな」
試合が終わり、ギルドハウスに戻ってきた。
出ていたメンバーがお通夜モードに入っている。
「おかえり、楽勝そうだったやん?」
影月に声をかけられる。
「まあ、あいつは見飽きるくらい倒してるしな」
34勝してれば言うことは無い。4分もゼロ兄の自爆が無ければ勝ってた。
「それで、ザインはんからは何か言うておきたい事ある?」
死屍累々なヒメキチ達を見る。
「特に無い。自分で考えてくれ」
「放任主義って奴やな」
「知るかよ。それより、他の結果は?」
「はいはーい、パピー、私が教えてあげるからねー」
マオが手招きしている。
「残りの人達はこっちで反省会するで」
マオから聞いた結果は概ね予想通りだった。
注目度が高い、ダンテやイリヤ、アンフィニティは勝っていた。
この3つのギルドの動向は、マオさんに探ってもらう事にした。
「で? 僕、もう眠いんやけど」
パソコンから月さんの声が聞こえる。
深夜1時、姫花が寝静まるのを待ってから、月さんに連絡した。
「反省会とこれからの事、姫花に聞かれるのもどうかと思ったから」
「はいはい、ホント姫花はん思いやな」
呆れられてしまった。
「反省会は、兎乃はんが言った通りやな。僕らが横から口を出すよりは、本人が考えた方がええと思うわ」
「ふぅん」
「ふぅん、て」
「それ以上に言うことが無い」
「で、これからの事なんやけど」
「うん」
「手の内を明かし過ぎたハイドはん中心に作戦立てるつもりやけど、どう思う?」
「それで良いんじゃね」
「テキトーに投げとるな」
「俺は元々作戦には関わる事が無いからな」
「それ、自慢げに言う事ちゃうで」
「そうは言ってもカインドさんとお前が居れば俺は要らなかったんだから」
「そのカインドはんはもう居らんのやから」
「分かった分かった、小言はやめてくれ」
「……ふぅ、当初の予定通り、兎乃はんには下がってもらって、ピンチの時以外は動かず待機、ハイドはんを中心としたチームで戦うという作戦にするで、詳細な作戦は試合前やな」
ため息を吐かれた。
「分かった」
スマホの通知音が鳴っている。
「こんな時間に誰やろうな。重要な事かも知れんし、はよ出てやり」
月さんにも聞こえたようだ。
表示は加恋からになっている。メッセージが届いている。
「明日の放課後、家に来てくれませんか?」
たった一文、それだけだった。
「珍妙な顔しとるで」
「いつもの月さんみたいな顔の事?」
「そうそう、って何でや! 僕そんな変な顔しとらん!」
「夜中にうるさい」
「はいはい、もう切るからなぁ!」
月さんは怒って通話を切ってしまった。しょうがない寝る事にしよう。