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76 信頼の犠牲

 ラカムが倒される少し前。

 ザインはティーチが撃ち出す砲弾を処理していた。

「おいおい、どうした!」

 波に揺れる足場が砲弾の爆発でさらに揺れる。気分の悪さが限界まで来ている。

 それもティーチは砲弾をヒメキチ達の方に放っている。処理しておかなければ、戦いに集中しているカレン達やドウジは対処出来ず爆発に飲まれる可能性がある。

 このまま船の上で戦うのは避けたいが……

 何か無いかと周囲を見る。ティーチがサーベルで傷付けた床の傷跡から下の階が見える。

 床に穴を開ければ、叩き落とす事が出来るか?


 考えても仕方が無い、やるしか無い。

 ティーチに気づかれないように砲撃を誘う。

 ティーチが撃ち出した砲弾をラブリュスで叩き斬りながら、床に傷を作る。

「仲間思いなこった」

 砲弾の爆風に俺が煽られるのを見てティーチは笑う。

「お前ほどじゃねえよ」

「ガッハッハ! それもそうか、俺様達のギルドは最強だからな!」

 凄く嬉しそうだ。

 その隙に床にラブリュスを叩きつける。

「……お前、何やってんだ?」

 戦斧が床板を破る大きな音に気がついたようだ。

「自分で考えてみろよ」

「はっ、お前がどんな策を練ろうと俺様は正面から叩き潰すだけだ」

 脳筋馬鹿みたいな事を言っているがティーチには真っ向から潰すだけの度量があるから厄介だ。

 だがもう遅い。


 床に思いっきりラブリュスを叩きつける。

 バリバリと木が折れる音が聞こえる。叩きつけた場所から傷を付けた場所へと床が破れていく。

「な、何をした!?」

 ガタガタと震える床にサーベルを突き立て、揺れに耐えている。

「さっきも言ったけど、聞く前に自分で考えろよ」

 そして、足場が円形に破れて、ティーチは、船の内部、下の階に落ちていった。

 穴をのぞくと、ティーチはまだピンピンしている。急に10メートル以上落ちたはずなのになぁ、普通ダメージ喰らうはずなんだけど。

 ティーチが上がってくる前に穴に入る。たくさん置いてある木箱の上をピョンピョン飛んで、ティーチの前に降り立った。

「ふっ、面白い事考えるじゃねえか。ガッハッハ」

 ティーチはまだ余裕綽綽だ。

「ここからが俺の本気だ」




 一瞬でハイドがアンとメアリーに倒され、ドウジは目を疑った。

「ドウジさん、来てます!」

 ヒメキチの声にドウジは我を取り戻す。

 凄まじい速さでメアリーが走ってきている。

「油断ダメだよー?」

 ドウジが大太刀を構え直す。

 しかし、遅かった。メアリーは大太刀の下を潜ってドウジの懐に入る。

「っ!?」

 笑顔のメアリーに圧倒され、手が出なかった。

 メアリーがドウジの腹をX字に斬り、ドウジの横を通り抜けていった。

 ドウジは腹を斬られうずくまる。

 その隙だらけの頭に影が迫る。

「トドメ、行きますね」

 アンはジャンプして高さを稼ぎ、モーニングスターを振り上げる。そして、ドウジの頭をカチ割りながら着地した。

「楽しゅうございました……おや?」

 モーニングスターの協力な一撃を喰らったはずのドウジが消えていない。まだHPが0になっていなかった。

「あら、耐えるんだー、凄ーい」

 ドウジは何とか起き上がろうとする。

「でも、ダメですね。囲んでますから」

 合図をした訳でも無いのに、アンとメアリーは同時に武器を振り下ろした。

「ラカムが狙われるのは、まあ仕方ないしー」

「はい、その分、私達が活躍しませんと」

 2人かゆっくりとヒメキチに歩き始める。


 カレンもリノも戦意喪失していた。明らかに強さが違う。ザインレベルが何人も居るなんて考えもしなかった。ただただアンとメアリーの強さに打ち砕かれるだけだった。

「ヒメキチちゃんも剣と銃持ってるし、遊んでくれるんだよね?」

「私、はしたなく楽しみにしておりました」

 楽しそうなアンとメアリーと対照的にヒメキチは凄く真剣な顔をしていた。

「カレン先輩、リノちゃん、よく見てて。必ず勝つ方法はあるから。1対2では無理でも、2対2なら……」

 ヒメキチがウタヒメを抜いた。戦う凛とした少女の表情になっていた。

「兄助なら、全部勝てるけど、今負担をかけたら、決勝まで保たないかもしれない。フィクサーとか、メタトロン・システムとか、ソウセキとか、兄助が立ち向かおうとしてる相手は沢山居るから。後託すね、カレン先輩、リノちゃん」

 カレンとリノはヒメキチの後ろ姿を見ている事しか出来なかった。


「アンちゃん、メアリーちゃん」

 ヒメキチが2人の前に立ち塞がる。

「ヒメキチ様?」

 2人は怪訝な顔をして立ち止まる。

「勝負だよ!」

 威勢良くヒメキチがウタヒメを掲げる。

 アンとメアリーの顔が花開くように明るくなる。

「まあ!」

「やってくれるんだって! アン!」

「はい! とても嬉しゅうございます!」

 メアリーが走る。見失いそうになるほど速い!

 ここでメアリーに目を奪われてしまうとアンの連携を喰らってしまう。

 兄助なら、兄助ならどうする? 兄助ならどうやって勝つ?

 兄助がここに居ても、多分、答えてくれないだろう。自分で考え抜き、それで勝負する、それが兄助の理念だから。


 左手の銃をで、メアリーの足元に威嚇射撃をする。しかし、メアリーは華麗に避け、迫ってくる。

「あははー、ザインの後ろでバフしかしないと思ってたけど、強かったんだねー!」

 メアリーの銃弾が何処に当たるか分かっているかのような動きにどうすれば良いのか分からなくなる。

「ヒメキチ!」

「……兄助?」

 兄助の声が聞こえたと思ったが、違ったようだ。穴にティーチを落とし、兄助自身も降りていったのだから。

(カレンやリノに情報を託すんだろ? 重要な事は何だと思う?)

 和やかな顔の兄助が見えた気がした。

 分からないよ……私、どうすれば良いの?

(もし、立場が逆だったら、何を伝えて欲しい?)

 少し考えると、すぐに思いついた。

 長所と弱点……かな?

 妄想の兄助は返事をしなかったが、優しく笑ってくれた。


 アンとメアリーの長所は一糸乱れぬ連携、弱点は分からない。なら、私は連携を崩す為の何かと弱点を探すしかない。

 メアリーが急接近してX字にサーベルを構えた。

 冷静に考える。この後、アンの追撃が来るはず、それなら、今、アンは?

 神経を全て集中させ、アンを探す。

 ……居た。もうジャンプしている。

 アンに銃口を向け、引鉄を引いた。

「あら、あらららら!?」

 ジャンプ中のアンに銃弾を避けられるはずがなく、銃弾を受けたアンはバランスを崩し尻から落ちた。

「アン!? 大丈夫!?」

 メアリーはアンの方を見たまま、こっちに走っている。そして、正面から激突した。

「痛たたた……ごめんね、ヒメキチちゃん」

「大丈夫だよ。メアリーちゃん」

 分かってしまった。アンちゃんは攻撃全振りで、攻撃中に避ける事が出来ない。連携を崩すのも、弱点も攻撃中のアンちゃんにある。


 だけど、ここまで。私1人では詰めきれず立て直されてしまう。

 カレン先輩とリノちゃんの方を見る。

 たぶん、大丈夫、2人なら勝てるって信じてる。


 足を斬り裂かれた。次は、スカートやお腹、メアリーに次々と斬られる。

 ウタヒメでガードしようとしているのにすり抜けられ、懐に入られる。

 今までずっと兄助に守って貰ってたからほとんどダメージを喰らった事が無かった。

 メアリーの攻撃で、よろけたタイミングでアンが攻撃をしかてくる。

「……ごめんね、兄助」

 メアリーが野球のバットのようにモーニングスターを振る。避ける事が出来ず、頭に直撃し、HPが0になった。

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