72 強者達の話
ギルドマスターの命令で、ギルドハウスにメンバーが集合した。
ヒメキチとマオさんと影月が横に並んでいる。
「今日呼んだのは他でも無い明日から始まる世界大会に出場する相手の情報を共有しようと思ったの」
情報と言えば情報屋のマオさんだ。
「はいはーい、パピーにみんなに、初顔さん? お久しぶり、私が情報屋のマオね。今後ともご贔屓にね」
ドウジの顔が曇っている。
「おい、ザイン、大丈夫なのか?」
「お抱えの情報屋なんだ、あれで」
マオがこっちに投げキッスをする。ドウジはマオを睨んだ。
「そんなら、まず、僕から話そか、世界大会は日本大会と同じくトーナメント式、敗者復活戦は無く全6回戦勝ち抜けば優勝ってわけや」
世界大会は全6回戦で1日置きの12日間が予定されている。
「基本的なルールは日本大会と同じなんやけど、一つ違うのは参加権やな、国や地区大会で優勝したギルドしか出られへんな」
「そんな基本的な事は要らないだろ」
影月の話を止める。
「パピーも私の話が聞きたいんだよねー? という事で」
マオか影月を押し除けて前に出てくる。
「勝ち上がってきたギルドの情報持ってきたよ」
「で、報酬は?」
「今回はね、何とタダなのよ」
新顔のカレンとリノとドウジ以外が驚きのあまりソファーから落ちそうになる。
「要らない、要らない、信用出来ない情報は欲しくない」
いつもは結構な金額をふっかけてくるマオがタダで情報を売るなんて何かろくでもない裏があるに違いない。
「ちょっとパピー、失礼過ぎ、後から運営が発表するんだから、情報としての価値が最初から無いのよ」
マオに言われて納得する。
「今回の大会、凄い事が起きててね。ブックメーカーが完全に割れてるのよ」
ブックメーカー、誰が優勝するかや、どちらが勝つかを対象とする賭け事だ。
割れているという事は有力な優勝候補がかなり居るという事になるが。
「パピーに比肩しうるギルドが出てきてるって事よね」
「へー」
「あら、パピー、嬉しくないの?」
「別に。フィクサーの部下がその中に何人居るんだって感じ」
楽しそうなマオに呆れる。
「パピーは現実的ね」
「まずイギリスかなぁ」
嫌な顔が浮かんでくる。黒いもじゃもじゃの髭の巨漢、勝手にライバル視して何かと絡んでくる面倒な男、それは……
「クイーンズレイダースのティーチ」
予想通りマオの口から最悪な名前が出てきた。
「ティーチ居るの? 面倒くさいんだけど」
頭を掻きながらため息を吐く。
勝手にライバル認定してきたくせに、戦績は33敗4分と俺に負けた回数トップと引き分け回数トップという酷い有り様だ。それなのに全く挫けない暑苦しい奴だ。
「なら、中国の仙人爺はんやアメリカのグレートマンはん」
「中国は今回棄権なのよ。バックにマフィアがついてた事が表に出てきたからね。グレートマンは負けたよ」
「負けたの? あいつ国内負け無しだっただろ?」
ベルと同じ格闘タイプのプレイヤーのグレートマン、ヒーローみたいな格好で殴り合いをしてくる変な男だ。
「完敗してたよ」
ヒーローを気取っているだけに諦めの悪さと最後の足掻きは世界一だと思っていたが、それが完敗ってどんな奴なんだか。
「次はダンテかな」
ダンテ、いきなり襲ってきたよく分からない奴だ。カインドさんの事を崇拝していて、一度見た技は完全に覚えるという力を持っている。
「イタリアでしょ?」
「そうそう、もう知ってるし、次行く?」
「内容薄くない?」
マオがきょとんとする。
「だって、詳しい事を言っても対戦相手に当たらなかったら意味無いし」
「分かった。次行こう」
「ロシアのギルド、氷原猟団の氷女君イリヤ。圧倒的な力でロシア大会を優勝した実力者ね」
「厨二病が過ぎる」
「破壊者の一閃がそれを言うのか」
ハイドが生暖かい目で俺を見ている。
「それ自称した事無えけどな!」
ハイドを睨む。
「二つ名なんて誰も自称しないだろ」
ハイドが呆れ笑う。
「イリヤって人はしてるよ」
「は?」
ハイドは驚きマオに顔を向ける。
二つ名を自称している奴が居るのか……氷女君とはかけ離れた行動にどんな人物かイメージがつかない。
「私が嘘ついたら商売にならないからね」
それ以降ハイドが何かいう事は無かった。
「パピーと人気を二分する。今大会の本命の1人、アメリカ大会を勝ち抜いたギルド、ワールドテイカーのアンフィニティ」
脳に電気が走るような感覚がした。アンフィニティ、間違いなくこいつがフィクサーだ。証拠は何も無いのに何故かそう思わずにはいられなかった。
「アンフィニティ……」
「パピー? 何か思い当たる事でもあるの?」
「いや、別に」
思い当たる事が無いわけでは無いが、今は何も言わないでおこう。
「其れにしても、ザインと同等となると、私らの耳にした届いてもおかしくないと思うのだが」
虎助さんがぽつりと呟くと。
「結構話題になってたと思うんだけど、アメリカの決勝が日本の準決勝の時だったからじゃない?」
準決勝、シューベルトと戦った時か。確かにあの時は他の国の大会なんて気にかける余裕は無かった。
「この3人とパピーが今のところ注目されてるよ」
「3人?」
ティーチとダンテとイリヤとアンフィニティ、1人足りていない。
「だって、ティーチはパピーに勝てないでしょ」
苦笑いをする。まあ、戦績が俺に勝てない事を物語っているが、そこまでストレートに言い切るとは思わなかった。
「おいこら! 誰が勝てないって?」
豪快な声と共にギルドハウスのドアが開いた。
「今度こそ、俺様が勝つに決まってるだろ! ガッハッハ」
大男が入って来る。いかにも海賊といった三角帽子を被り、一目で海賊と分かる服装を着ている。腰には大きなサーベル、手には自身と同じくらいの大砲を持っている。
「ティーチ、うるさい」
「ご挨拶だな。復帰したならお前の生涯のライバルの俺様にくらい挨拶に来いよ。ガッハッハ」
頭が痛くなるほどの大音量でティーチが笑っている。耳を塞いでも聞こえるから腹が立つ。ついでに、バシバシと肩を叩いて来る。
「お久しぶりです。ザイン様と皆様と新人様」
「元気かー? またザインと戦えるなんて嬉しいぜ」
丁寧な言葉遣いで話すのはアン、快活なのはメアリー、この2人はティーチの仲間達だ。
アンは背が低く海賊とは思えない可憐な服に身を包んでいて、金髪のショートだ。メアリーはモデルのような身体のラインが浮き出るような過激な服装で、金髪のツインテールだ。
「久しぶりなのは、久しぶりだな」
和気藹々とおしゃべりが始まった。アンとメアリーは年齢的に俺の1つ上で、ファッションとかの話をヒメキチやクリスティーナと話している。これは昔からの事なのだ。
「で? どうしたんだ、こんな急に来て」
「挨拶に決まってんだろ」
「それはわざわざどうも」
「懐かしいよな。前の世界大会はみんなで集まってやってたから、今回みたいな全部オンラインは寂しいだろ?」
スタートワールドオンラインの時は1つの会場に集まって大会をやった事を思い出す。
みんなで一緒にご飯に行ったりと、楽しかったのは楽しかった。
「まあな」
「あ、やべえ、時間無えんだった。とにかく、俺様と当たるまで絶対に負けんなよ!」
ティーチがソファーから立ち上がる。
「それはこっちのセリフだ」
「へっ、言うじゃ無えか、おい、野郎ども撤収だ!」
ティーチがギルドハウスから出て行く。
「かしこまりました」
「りょ!」
アンとメアリーも手を振って出て行った。
「ふっ、相変わらず騒がしい奴らだったな」
ゼロ兄がドヤ顔をしながら言った。ゼロ兄も十分騒がしい方なんだけど、自覚が無いのか?
そして、ゼロ兄はクリスティーナにハリセンで叩かれた。