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7 影の月

 ギルドハウスまで帰り、そこで解散になった。ログアウトする。

「ふぁ~」

 久々でどうにも肩が凝る。


 ドアが静かに開いた、気が付かない振りをする。

「ぎゅ~」

 姫花が後ろから抱き着いてくる。

「全然驚かない……むぅ」

「抱き着いてくるのはいつものことだろ」

「そうだけどー!」


「お風呂湧きましたよー」

 リビングから凛さんの声が聞こえる。

「だってさ」

「うん、分かった……」


 姫花が部屋を出た直後、スマホの通知が鳴った。

 影月からだ。

「慣れてきた? 置いて行くなんて寂しいわぁ。みんなギルド戦で戦えることを楽しみにしとるでー」


 ギルド戦か。

 お互いの手の内を知り尽くした熾烈な戦いになることは分かる。

 ずっと同じギルドで互いに戦ったことが無かった。

 これは良い機会かもしれない。




 姫花がお風呂から上がって次は凛さん。週末になると凛さんは泊っていく。

 スマホで武器のドロップ情報を流し見しながら、ベッドの上に寝転ぶ。

 ノック無しでドアが開いた。

「兄助、だばー」

 姫花が倒れ込んでくる。

「たまには家に帰れよ」

 家は隣だが、滅多に家に帰らない姫花。

「埃だらけでネズミでも住み着くぞ」

「それなら良いもん、ここに住むから。ベッドもあるし兄助もいるし」


「えーっと、私も居るんですけど」

 お風呂から上がってきた凛さんが部屋に入って来る。

「じゃあ、凛さんも一緒!」

「え、ええ、嫌な訳では無いんですけど……まだ、兎乃君未成年だし……」

 凛さんの顔が赤くなった。

「俺、風呂行ってくる」


 風呂から上がっても二人は部屋に居た。2人ともベッドで寝ている。

 仕方ないのでリビングのソファーで寝ることにした。




「おっはよー! 兄助!」

「……朝から元気だな」

 姫花の声で目が覚める。

「ホットケーキ作ったんだー、食べる?」

 頷く。

「今日は凛さんとお買い物行くんだけど、来る?」

 首を横に振る。

 凛さんが居れば安心だ。

「はい、あーん」

 姫花に食べさせてもらう。

「美味しい?」

「美味しい」

 姫花が笑顔になる。


「朝から重いくらいに甘々だな」

「重いの!?」


「おはようございます」

 凛さんが起きて来た。

「はい、凛さんの分」

「ありがとうございます。では、いただきます」

 凛さんも椅子に座ってホットケーキを食べ始める。


「姫ちゃんの服を買いに行くんです。行きませんか?」

 凛さんの誘いにも首を横に振る。

「そうですか……」




 部屋に戻ってゲームを付ける。

 やりたいことがある。


 ギルドハウスの前で影月が立っていた。

「熱心やなぁ、ザインはん」

「やっぱり居たか、影月」

「そんなに僕に会いたかったん? それは嬉しいわぁ」

「お前、男にそんなこと言って楽しいか?」

「せやな……話、あるんやろ? ついて来てや」




 テレポートゲートで移動し、影月のギルド、日ノ下まで来た。


 瓦屋根の建物が並び、みんな着物を着ている。イメージとしては江戸時代か。


 大きな武家屋敷の前で影月が止まった。

「ここが日ノ下や。さあ、上がって上がって」


 日ノ下のギルドメンバーが俺を見て目を丸くしている。

「あれが……一閃の破壊者(デストロイヤーワン)、アインか」

「本当に復帰してたのか。これはヤバいな」


一閃の破壊者(デストロイヤーワン)、アイン、懐かしいやろ? アインはんと戦ったほとんど相手が引退に追い込まれたからなぁ。相手を破壊してしまう伝説のプレイヤー」

 一閃の破壊者(デストロイヤーワン)、昔の異名だ。

「気恥ずかしいだけだ」

「そうなん?」


 奥の小さな茶室に通される。

「何が目的なんだ?」

「何……って?」

 影月がとぼけた顔をする。

「優勝賞金5億。今までとは桁が違うだろ。何も裏が無いなんて考えられるか?」

「何で僕?」

「ごく一部のトッププレイヤーには引継ぎでかなりの物が貰える、お前はその中で管理者と会う権利を要求したんだろ?」

「せやなぁ、まあ、僕もそのことには詳しく知らんけど」


「まあ、ただ、ゲームの部分だけじゃなくてVRの部分に注目されてて、そっちで稼げるようになったからやと思うで」

「怪我で手足を失ってもこっちなら何事も無かったように出来るって奴か」

「そうそう、医療に、流通に、スポーツに、色んなところと提携しとるらしいで」


「そうや、僕と一戦して勝ったら詳しいこと話すってのはどうや?」

 影月に斧と杖を見せる。

「闘牛斧ラブリュス、黒魔の杖……剣無いんやねぇ、剣無い……ぐふぇ」

 影月の顔を殴る。


「剣が無いくらいで負ける程腕が鈍った訳じゃない」

「ほな、やろうか」


 日ノ下の訓練場を借りて、戦うことになった。日ノ下のギルドメンバーが見に来ている。


 右手に杖、左手で斧を持つ。

「変やで」

「変だよな。この取り合わせは何がしたいのか分からない」

「そもそも、ジョブやな」

「まだ村人なんだけど」

「あ、僕、侍や、良いやろ?」

「ふぅ」

「なんなん!? え、なんなん、それ!? その反応!?」


「いざ尋常に、始め!」

 合図と共に斧を上に投げる。観客はみんな斧に目を取られている。

「僕はその手には乗らんで」

 影月は斧を無視して刀を抜く。

「……マジか」

「その首……」

 影月が刀を振る。

「魔王砲」

 杖から魔法のビームが出る。

「……えっと、名前忘れた」

 杖を振り、ビームで薙ぎ払う。

「それ、ゼロはんの新作魔法やろ!」


 影月はジャンプして避ける。

「新作だったのか、普通に使ってたぞ?」

「昨日初めて使ったんやって! っていうか、一回見ただけで覚えたんか!?」

「……いや、ちゃんと勉強したからな。天才みたいに言うけど」

 落ちてきた斧をキャッチして斬撃を防ぐ。


「斧が落ちる時間まで計算しとるなんて、流石やん」

「誰かがやってただろ」

「……誰かが出来たら自分にも出来るって考えることがおかしいんや」

「ゲームだからな。テンプレを覚え、技術を覚えればそれだけ強くなれる。普通だろ?」

「せやけど、やっぱり中々出来ることやないで」

 ひたすら斬撃を避けながら杖で小さな魔力弾を撃ち小突いていく。

 影月は避けながら刀を振り続ける。

 和製トリックスター、残光の影法師、インチキ関西人と呼ばれるだけある。

 お互いに攻撃が当たらない。


 斧の特性上、大振りになり、当てるのが至難の業になっている。杖を持っていて良かった。

「魔王眼……えっと思い出せない」

 影月は大きく後ろに跳び、麻痺中に殴られないように逃げる。

「それは悪手なんだけどな」

 斧を投げる。

「ぐはっ……」

 影月に斧が刺さり、ダメージを与える。

「テンペスト」

 風魔法で追撃をする。竜巻が起き、影月を飲み込んだ。そして影月のHPが0になった。


「うはぁ、普通に負けたわぁ」

「……手を抜いただろ。それもわざと追及されるように。俺が武器を投げるのを知っていて真っ直ぐ逃げるなんて、影月なら絶対やらないだろ」

「何でそないなことを?」

「そっちに意識を逸らせば、隠し通せる可能性が出る、とでも考えたんだろ?」

「はぁ、ちゃうで」

「は?」

「そもそも、賞金が高いのはリスタートになってから第一回目の大会だからやで」

「いや、お前……」

「人のミスをあんまり追及するのは良くないで」

「……分かった」

 やることが無くなりログアウトする。


「悪いなぁ、ザインはん。守る為やから、今回ばかりは許して欲しいわぁ」

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