69 世界への道筋
「はいはーい!」
ヒメキチに集められた面々がギルドハウスでくつろいでいる。
集められたメンバーは九頭竜商会のメンバーにカレンとリノにドウジだ。
急にヒメキチに呼び出され、誰も事情が分からない。
ヒメキチが手を叩き、視線を集めた。
「今日集まって貰ったのは、オーディションを受けてもらう為です!」
「ヒメキチはん、ヒメキチはん、詳しく説明せんと流石に誰も分かっとらんで」
影月に口を挟まれヒメキチの顔が不機嫌になる。
「今から説明するところだったんだけどー!」
「私達3人だけで世界大会に出るのは不安だと思ったの、兄助は色々巻き込まれてるみたいだし、そんな中で兄助ばっかりに頼る事になるのは良くないって思ったから、入ってくれる人をオーディションしようと思った次第だよ」
ギルドマスターはヒメキチだからギルドの人数を増やすも減らすもヒメキチの自由だ。
それに、この面子なら信用できる。
「という事でー、私とベルさんが審査するから、みんなはそっちね」
ヒメキチが長机と椅子を隣の部屋から持ってきた。そして、ヒメキチとベルさんが座った。
「俺は?」
何故か俺だけ何も言われない、俺もギルドメンバーのはずなのだが。
「兄助はそっちね、あと、最後ね」
ヒメキチが凄く冷たい。動物を追い払うように手を振っている。
「……ザイン君、とても落ち込んでますよ。部屋の隅で体育座りしてますけど」
カレンが部屋の隅に居る俺の所まで来た。
「大丈夫大丈夫」
ヒメキチが親指を立てる。酷い。
「最初誰からやる?」
俺の事など無かったようにオーディションが始まった。
「はいはいはい! 僕からやるわ!」
影月が手を挙げた。
「え、うん、影月からで良いよ」
ヒメキチは露骨に面倒そうな顔をした。
「今日のヒメキチはん、もしかして機嫌悪い? まあそんな事ええわ」
影月が頬を叩く。
「今日本2位の影月やで。ザインはん以外には負けてないし、ある意味オーディションでは僕以上に……」
「もう良いよ、採用で。良いよね、ベルさん?」
影月の話を打ち切った。影月は口を開けたまま止まった。
「はい、実力は申し分ないと思います」
影月はとぼとぼと部屋の隅に移動した。
「じゃあ、次わたし行っとく?」
クリスティーナが2人の前に立つ。
「文句無しの合格だよ! ティーナン!」
クリスティーナがヒメキチの頭を撫でている。デキレースだろ。
「ザイン君が睨んでますよ、ヒメちゃん」
「はいはい、兄助は最後だからねー」
ゼロ兄と虎助さんも特に何も言われる事なく合格した。
一番困っているのはこのノリについて行けていないドウジだ。
元来から九頭竜商会は緩く気まぐれなギルドであるのだが、外から見ればいつも余裕をかましている強者集団に見えるだろう。
だから、頭の中空っぽな会話にドウジがついていけないのは仕方が無い。
「ドウジさん、はっきりと言うと、いつもこのギルドはこんな感じなんです。だから、無理に入らなくても全然大丈夫ですからね!」
ヒメキチが頭を下げている。
「ま、僕ら負けとるし、入れて貰えるだけで、報酬とか要らんしな」
影月がクリスティーナにハリセンで叩かれた。口を開けばすぐ報酬、仲間として恥ずかしい。
「よく分からない奴らに狙われてるんだろ? 影月もハイドも……戦ってるんだろ?」
ドウジが大きく息を吸い込む。
「俺に何か出来ることがあるなら言ってくれ、そこのアホ2人よりは役に立って見せる」
苦笑いをしながらドウジはヒメキチと握手をした。
アホ2人と言われた影月とハイドは怒っているがクリスティーナのハリセンによる一撃で静かになった。
「カレン先輩とリノちゃんが居てくれたら戦略の幅が広がると思うの」
「それは構わないけど、あいつは?」
リノが俺を指差している。
「後で良いよ」
下を向く。もう顔をあげる元気も無い。
「えーっと、ウィルさんは?」
名前を出されたウィルが顔を上げた。
「ウィルウィルが居ないと回復大変だからね」
「い゛い゛の゛ぉ゛?」
ウィルは涙を流しながらカレンの足に抱きついた。
「ウィルウィル、もしかして、飲んでる?」
ウィルはこくりとうなずいた。ドウジ以外みんな壁際まで逃げる。
「カレン先輩、ウィルウィルの事任せますから!」
「え? え? ええー!?」
ウィルは悪酔いからの上戸という上戸全てを併せ持つ最悪の酔っ払いだ。ご愁傷様としか言えない。
「カレンさぁ〜ん」
ウィルはカレンの脚に抱きつき固まった。
「ね、寝落ちしたようです……」
「残りは俺とザインだけか」
残ったハイドが壁にもたれかかる。
「ハイドもどうする? 合格でも良いけど」
「いや、どういう事だよ。俺の扱い雑過ぎない」
「まだ、マシだろ、俺なんて……うぅっ……」
涙が出てくる。
「なんか、悪かったな、ザイン」
「俺もザインみたいに力が使えるようになったんだぜ、それはもうお高くつくぜ」
「何言ってるの? 仲間でしょ?」
ヒメキチが冷めた目でハイドを見る。
「せやな」
「そうだぞ、疾風の弾丸……え!? 力!?」
ゼロ兄は少年のような目でハイドを見る。
「良いなー、良いなー、オレも力欲しいー、どんな力なんだー?」
「魔眼って言うらしい。睨んだ奴の脳に動くな! っていうメッセージを送る事で動きを止めれるってさ」
「魔眼!? それオレ欲しかった!」
ゼロ兄が抗議するように手をぶんぶんしている。
「いや、まあ、分かんねえけどよ」
「さては、疾風の弾丸、魔王に憧れて……」
「ねえよ、ねえからな!」
ハイドが必死に否定している。
「最後の兄助だね」
やっと回ってきたのか。よろよろと立ち上がり2人の前に立つ。
「不合格ね」
……不合格? 頭が真っ白になる。
「え!?」
ベルさんがびっくりしてヒメキチの方を向く。
「ヒメちゃん? ザイン君だよ? 今日本一だよ? どうしたの?」
ヒメキチ以外みんな混乱している。ヒメキチが何を考えているのか誰にも分からない。
「だって私、今兄助よりもたぶん強いし」
ヒメキチは平然と言い切った。
「やってみる? 私勝つけど」
ヒメキチは無表情で言い切る。事実だけを淡々と話すアナウンサーのようだ。
「私に勝ったら合格で良いよ」
「ちょっとヒメちゃん! 流石にそれは横暴です!」
ベルさんが珍しく怒っている。
「いや、良いんだ、ベルさん」
ヒメキチと向き合う、目と目が合う。
「やろうか。一つ言っておくけど俺は弱くは無いぞ?」
「そう来なくっ……じゃなかった、勝負してあげるよ、兄助」
ヒメキチは一瞬ガッポーズをしかけ手を戻す。澄まし顔に戻った。
「これはアレやな。マンネリって奴やな」
「違うもん!」
影月は恥ずかしさで顔を真っ赤にしたヒメキチに腹パンされた。