68 永遠の水晶
「よしよし、倒せた、倒せたー!」
水晶鎧龍ガイアオーブドラゴンが落とした宝箱の前でヒメキチは伸びをしている。
武器とヒメキチの強さが合わさり、異様な強さを見せている。
俺の動きをずっと後ろから見ていたからといっても、俺のように動けるとは思えないのだが。というか、ヒメキチは俺の動きを自分なりに改良している。
とんでもない才能を持っていたのかもしれない。
「兄助? 大丈夫?」
気がつくと目の前にヒメキチが立って居た。考え事に夢中になり、ボーッとしていたようだ。
「大丈夫」
ヒメキチの頭を撫でる。
「そう? 宝箱開けようよー」
ガイアオーブドラゴンが落とした宝箱はまだ開けていなかった。
「そうだな」
忘れていたがウタヒメの代わりになる剣を探しに来たのだ。
宝箱を開ける。
見るからに扱い辛そうな剣が入っている。
水晶突剣、刀身が水晶で出来たレイピアだ。斬れ味があまり良くないが、刀身が水晶で出来ていて透けているので振っていると見えなくなるという特徴がある。
多くの属性のエンチャントにも対応している。
「どう? 扱えそう?」
ヒメキチが心配そうに俺の顔をのぞいている。
「何でも使えるのが俺だぞ? 完璧に使ってみせる」
せっかくヒメキチが頑張ったのに使えない、とか言える訳がないし、実際に使える。
「さっすが兄助だね!」
ヒメキチが嬉しそうに跳ねている。
ガイアオーブドラゴンが守っていた扉を開ける。ダンジョンの最後の部屋が見える。
そこがデートスポットになっているらしい。光る水晶と地底湖で幻想的な景色か見られると噂になっている。
ヒメキチと並んで歩く。
「兄助ってさ、いつも私に歩く速さ合わせてくれよねー」
ヒメキチが俺の手を握る。相変わらずヒメキチの手は柔らかくて細い。
「その優しさが私だけのものだったらなー」
「誰か1人にしか優しくない奴なんて、下心見え見えで幻滅するだろ」
「それもそうかも」
最後の部屋に入る。部屋の中央には10メートルを超える巨大な水晶があり、淡い光を放っている。その周りを湖が囲っている。天井や壁など至るところから光る水晶が出ていて、部屋はほのかに明るい。
「凄……」
巨大な水晶に圧倒される。ヒメキチも見入っている。
「私達もさ、あの水晶の中に閉じ込められれば永遠に一緒なれるかも」
「それで……良いのか?」
ヒメキチの目が妖しく輝く。
「うん、それが良いの」
ヒメキチが手を掴む。蛇に睨まれたように動けない。
「なんてね。そんなの匂いも分からないし、声も聞けないもん、寂しいだけだよ」
元のヒメキチに戻りほっと息を吐く。
「ドキッとした? ヤンデレだよ? どう?」
「どうってなんだよ」
「これから先、私達は大人になって、子供も出来るかも、そして、おじいちゃんおばあちゃんになって、色々あったけど2人で居ることが出来て良い人生だったよねって縁側でお茶を飲んで、寄り添ったまま人生を終えるの」
「端折り過ぎだろ」
「そう?」
「当たり前だ。付き合うことになれば何度だってデートするだろうし、結婚式もある、もっともっと色々あるだろ」
「そっか、そうだよねー、結婚式どんなドレスを着ようかなぁ」
「まだ早いだろ」
「そんな事無いよー、来年には兄助も結婚出来る歳になって私達結婚出来るんだよ? そうなったら来年には結婚式を挙げることは出来るんだからね」
そうか、ヒメキチは今年にはもう結婚出来るのか。
「私の手、離したらダメだからね」
ヒメキチは悪戯な笑みを浮かべる。
ログアウトして、お風呂に入る。お風呂はいつも凛さんと姫花が入った後に入る。
姫花が今年には結婚出来るという事実に頭がついていけない。
「兄助! タオル無かったよねー?」
タオルが無いから後で持っていくと凛さんが言っていたが、姫花が届けてくれたようだ。
「姫花、ありがとう」
「どういたしましてー! ついでに私も入ろっと」
「は?」
湯気でよく見えないが姫花が脱ぎ始めた。
「おい、待て、ダメだろ! というか、凛さん居るだろ!」
「え? 凛さんもう帰ったよ?」
もう帰る時間だったか!
姫花がいつものツインテールを解いて、下着を脱ぎ始めた。出ようとしても鉢合わせになるだけで、逃げ場が無い。
そして、風呂場のドアが開いた。
「お待たせ、兄助、背中流……もう洗ってたんだ」
胸の方は長い髪で隠れているが、下が隠れてない。
「どうしたの? 絶望と喜びが混ざったような顔してるよ?」
「見たい気持ちと見たらダメって気持ちがさ、男にはあるんだよ」
「ふーん、でも、これから一緒に入るんだよ?」
絶叫しかけたが口を手で塞いで止める。
「ダメに決まってる」
「大丈夫だよ、誰も見てないから」
「そういう問題じゃないだろ」
こちらの事など気にせず姫花は髪を洗い始めた。
長い綺麗な髪を姫花は丁寧に洗う。体も程良い肉付きで、エロい……
「見過ぎだよ、兄助のエッチ」
「もう出て良い?」
「だーめ」
姫花は体を洗い始め、泡だらけになった、直視しても大丈夫なくらい隠れた。
「私、ちょっと胸が大きくなり過ぎかも、最近ブラジャーがちょっとキツいんだよー」
「新しいの買えば良いだろ」
「どんなのが好き? ついて来て欲しいんだけど」
水着の時の惨事を思い出して震える。
「え? 大丈夫? 兄助?」
洗い終えた姫花が入ってきた。
「2人で入ると狭いねー」
「普通1人で入るものだからな」
出来るだけ姫花の顔を見る。
「辛くない?」
「辛いに決まってる」
「なんか、ごめんね」
「いや、謝る事じゃ無いけどさ」
「おっぱいだけでも触る?」
「触らない」
「兄助、男は紳士なだけじゃダメなんだよ?」
頬を膨らませて姫花に抗議する。
「兄助、可愛い、プシュー」
姫花が頬を押さえて空気を吐き出させてた。
「……えへへ」
姫花の顔が赤い。
「フラフラするぅ……」
のぼせてやがる。急いで風呂から連れ出して、頭に氷を乗せた。