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63  不意の邂逅

 平に渡された反省文を書く為の原稿用紙をカバンに突っ込んで教室に向かう。

「おい」

 広田の机の前に立つ。広田は震えている。

「お前、盗撮は犯罪だろ。やって良い事と悪い事くらい考えろよ」

 爆発しそうな怒りを抑えながら言う。

 広田は首を横に振っている。

「おいおい、まあ、待てよ」

 声の方を向く。

「俺は伊藤、そいつの友達なんだけどさ。広田に何の証拠があって言ってんの?」

 証拠……

「違う!」

 いきなり広田が叫んだ。驚いて身構えてしまう。

「どした?  広田」

 伊藤の方も少し驚き、そして、苦笑いしている。

「い、いや、何でも……無い」

 苦しそうな顔をしてうつむいた。

「まあ、証拠が無いのに犯人扱いしても、お前が悪くなるだけだろ」

 証拠が無いから問い詰めさせないという空気だ。

 荷物を持って教室から出る。

 ダメだ。俺は何をやってるんだろう。証拠が無い事なんて分かっているのに。焦り過ぎだ。


「兎乃君!  どうするんですか!?」

 加恋が後ろから追いかけて来た。不安と焦りに押しつぶされそうな表情をしている。

「帰る」

「兎乃君……」

「知り合いの警察に相談してみる」

 桜川刑事と加瀬刑事なら助けてくれるかもしれない。このまま泣き寝入りする訳にはいかない。

「兎乃君、ちょっと良いですか?」

 加恋が近づいて来て、俺のカバンの中から何かを探している。

 そして、平に渡された原稿用紙を取り出した。

「えい!」

 加恋は原稿用紙をビリビリに破り捨てた。廊下に残骸がふわふわと落ちていく。

「私も帰ります!  兎乃君も被害者なのに反省文なんておかしいですもん!  許せません!」

 このまま平にタックルでもしそうな勢いだ。周りもみんなギョッとしている。

 加恋はすぐにカバンを取って戻ってきた。

「姫花さんを迎えに行って帰りましょう!」

 加恋は俺の手を引いてグイグイ歩いていく。

「お、おう」

 加恋の勢いに押されて、なされるがままに加恋に引っ張られていく。


「姫花さん!」

 加恋は姫花のクラスのドアを全力で開けた。

「加恋先輩……」

 姫花がしょんぼりしている。姫花を見るクラスメイトの目が冷たい。

「帰りましょう!」

 加恋が有無を言わさず、姫花の荷物を片付け始める。

「兎乃君も莉乃も!」

「はい!  姉様!」

 いきなり呼ばれた莉乃が慌てて加恋の元に行く。

「こんな学校ボイコットです!  ボイコット!」


 そして、4人で俺の家まで帰って来ることになった。

「人の事情など、考えもせず、非難するなんて、本当にありえません!」

 加恋はまだご立腹だ。加恋が怒っているところを初めて見るわけだが、いつまで続くのだろうか。

「加恋先輩、加恋先輩」

 姫花が加恋の袖を引っ張る。

「ありがとうございます。加恋先輩」

 照れている姫花に加恋の怒りも落ち着いたようだ。

「私は自分で正しいと思った事をしただけですから」

「莉乃ちゃんもついて来てくれてありがとう」

 莉乃が涙ぐみながら首を横に振る。

「私、何も出来なかった。ごめんね。姫花ちゃん」

 莉乃の涙に姫花も加恋もつられて泣き始めた。


 リビングを出て桜川刑事に電話をする。

「誰だ?」

 不躾な電話の出方だ。

「俺だ、俺」

 一瞬、間が開く。少し経ってから返事が来た。

「……ああ、ガキか。何かあったか?」

「盗撮されて、写真が学校にばら撒かれた」

「お前なんか盗撮する危篤な奴が居るのか?」

「居なかったら電話してない。それにもう一つ変な事があった」

「分かった。すぐ行く。場所は?」

「俺の家だ」

 電話の先で加瀬刑事と誰かに指示する声が聞こえて来る。

 そして、電話を切られた。


「誰?」

 少し経つと桜川刑事と加瀬刑事が家に来た。スーツを着た金髪の俺と同じくらいの歳の男が二人の後ろに立っている。

「ああ、今、研修中なんだ。海外の警察って所だ」

 桜川刑事が親指で金髪を指差す。

「はじめまして。真島兎乃君。名前はアーサー・アルコーンだ。彼らの下で勉強させて貰っている」

 日本語をスラスラと話している。

「俺、名前教えたか?」

 桜川刑事が頭を掻いている。

「いいえ。ただ、兎乃君は有名じゃ無いですか」

 爽やかな笑顔で笑っているが、それが作り物な事はすぐに分かる。ただの研修じゃない、ということなのか?

「よろしく」

 アーサーが握手を求め手を出す。

「ああ」

 握手をする。一瞬だけ、アーサーの顔から楽しさが溢れた。


「で?  盗撮ってどういう事だ?」

 写真をテーブルの上に出す。落ちていたものを一枚だけ拝借しておいた。

「なるほど。これはプロの技だな。高校生のガキができる事じゃない」

 桜川刑事の口から予想外の言葉が出て来た。

「プロ?」

「ああ、時計と二人の顔がしっかり写ってる。お前らが四六時中その椅子でイチャイチャしてるってんなら話は別だが」

 アーサーが感心しながら写真を覗き込む。

「ところで、電話で言っていた変な事は?」

 アーサーが俺の方を見る。俺は信用して良いか分からず桜川刑事を見た。

「言え」

「たぶん、フィクサーの手下だと思うんだが、ゲーム内でソウセキという奴に襲われた」

「ソウセキ?  あの作家の?」

 アーサーが疑問を口にしているが誰も答えられない。

 よくよく考えてみると、シューベルト、ダンテ、ソウセキと芸術家の名前が並んでいる。それがどうしたという話ではあるが。

「そいつに言われてたんだ、外から時計が見えるって事を」

 桜川刑事が考え込む。

「鑑識に見せるためにその写真預かって大丈夫?」

 加瀬刑事が写真を持ち上げる。

「処分してください」

「あ、うん」


「ところで、中国マフィアの件はどうなったの?」

「ああ、アレね……」

 加瀬刑事が困っている。

「ボスを殺したのは部下だったんだけど、その部下も殺されてて今捜査中って所。口封じに殺されたと思うんだけどね」

「へー、大変だな」

「まあ、うん。中国マフィアだけじゃなく世界中の裏社会の組織のボスが暗殺されていってるからねぇ」

「全部フィクサーなのか?」

「そこまでは分からないけど」


「鑑識呼んで調べるしかねえだろうな」

 考え事が終わった桜川刑事が口を開いた。

「俺、電話してきます」

 加瀬刑事がリビングを出て行った。

「まあ、そういう事だ。間違っても犯人見つけようと躍起になるなよ」

 桜川刑事の言葉に真顔になる。

「そういう所だな」

「うるさい、余計なお世話だ」

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