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62  飽食の悪意

 ヤバい事が起こっていると影月から呼び出され、ゲームにログインする。

「どうした?」

 物影から町の様子を観察する影月の隣に行く。

「あ、ザインはん!  はよ、隠れんと!」

 影月に引っ張られ物影に連れ込まれる。

「何なんだいきなり」

「あれ、見てみ」

 影月が示した方向を見ると、そこには大量のシューベルトもといペストマスクの黒コートの奴がいる。

「流行なのか?」

「ちゃうやろ。あいつの元はプレイヤーや」

「さっぱりわからない」

 首を横に振る。

「最初は一人やった。どっからか分からんけど街の外から来た奴が見境なく攻撃し始めたんや。そしたら、攻撃された奴があいつに変化したって事や」

「ゾンビかよ」


「それで、ザインはんは……何も知らんっぽいな」

 ペストマスク野郎は無意識に徘徊しているように見える。

「運営には?」

「報告しとるで、とりあえずこれ以上の感染は止まったらしい」

 一体がこちらに気がついた。

「感染はせんけど、強さはシューベルトと変わらんで」

「なるほど」

 ナイフを投げ、自動回避を発動させてから、頭をウタヒメで叩き割る。

 ペストマスク野郎は一撃でやられて消えた。

「おぉ、呆気ないわぁ」

「あの本体に比べればこいつらはな」

「あ」

 影月が何かを思いついてしまった顔をした。その顔で俺も察した。

「ログアウトすれば大丈夫だ!」

 慌ててログアウトしようとしたがログアウトボタンが無い。無くなっている。

「罠だわ、これ」

「せやなぁ」

 目の前から影月が消えた。何処かに強制的にワープさせられたようだ。視界が歪む。




 視界がはっきりする。

 ホールのような場所に飛ばされた。暗い。足元の蛍光灯以外に灯りがない。

 囲まれている。あのペストマスク野郎の足が見える。

「ようこそ。ははっ」

 愉悦に歪んだ笑い声が聞こえる。

「シューベルトやフィクサーの奴がさ。気に入ってるって言うから、少しちょっかいかけに来てやったんだぜ」

 どこかで聞いた事があるような声だが分からない。知り合いというより、たまたま聞こえたくらいな気がする。

「名乗れよ」

「ソウセキだ」

 聞いた事が無い名前だ。分からないけど、やはり声は何処かで聞いた事があるような気はする。

「それで?」

 明かりがつきホールに光が満ちる。


 誰かがパイプ椅子に座っている。ラフなシャツに流行の髪型とおしゃれだが、時代錯誤なペストマスクを着けている。

 ペストマスクは他の奴とは少し違う、何かの模様が入っている。龍のようだが。

「意外と冷静だなぁ。こっちを観察する余裕くらいあるって?」

「何がしたい」

 出来るだけ声を低くする。

「ちょっかい、お前は何日戦い続けられるかっていう遊びってとこか」

「くだらねえ」

 吐き捨てる。

「人間の集中はもって30分くらい。お前は人間じゃないし、どのくらい持つかなぁってな。好奇心さ、好奇心」

 人間じゃない、と言う言葉に少しだけ心がざらつく。

「いや、まあ、真の人間ってなんだよって話だけどな。俺も人間じゃないし」

 ソウセキは足を組んで深くもたれかかる。

「お前も進化を……?」

「それはトップシークレットだ」

 ほぼ言っているようなものだが。能力は隠したいという事なのか?


「それじゃ、始めようか」

 ソウセキが手を叩くと周囲のペストマスクが動き出した。

 数は10ちょうどか。

「そうだ。暇だし、何匹倒せるか数えよう。それが良い」

 ペストマスクの間からソウセキにナイフを投げる。

「おいおい、無駄にして良いのか?」

 ソウセキはナイフを指で挟んでキャッチした。手練れか。

 ペストマスクはそれぞれ持っている武器が違う。そして、自動回避スキルが付いているだろう。

 正面のペストマスクに蹴りを入れる。正面の奴はバックステップで回避する。

 やっぱり自動回避か。

 回避中のペストマスクにロンギヌスを突き刺す。

 倒すと同時に追加が入る。

「お、1ね」


「やるね、256」

 ただ無心でペストマスクを狩り続ける。ソウセキも飽きずに数えている。

「ところでさ、お前の部屋さ、窓から時計が見えるよな」

 ソウセキの言う通り、外から部屋の中を見ると壁にかけられた時計が見える。

「何が言いたい?  そんな事で動じると思うなよ」

 シューベルトの件から住所は知られている事は知っている。

 有馬のセキュリティ会社のセキュリティがあり、すぐに駆けつけてくれる事になっているから、大丈夫だ。

「マジか、ま、今のは俺からのプレゼントなんだけどね。だって、やられる気配無いしな」

 プレゼント?  意味が分からない。




 ゲームに入ってもう何時間も経っている。そろそろだろう。

 急に視界が真っ黒に染まった。

 影月から状況を聞いた姫花がVRセットを取り外したかパソコンの電源を落としたのだろう。

「兄助!  兄助、大丈夫?」

 視界がクリアになってきて姫花の顔が見える。

「良かった……心配したんだよー?  もう」

 夏用の半袖短パンのパジャマに身を包んだ姫花が膝の上にちょこんと座る。

「可愛い?」

「ああ」

 うなずくと、姫花がほっこりと笑った。

「今度お泊まり会とかするかもしれないから新しく買ったんだー。夏休みにね、加恋先輩や莉乃ちゃんやティーナンやここでお泊まり会出来たら良いなーって話してたんだよ」

 楽しそうに話す姫花の頭を撫でる。

「えへへ、兄助の手、あったかくて気持ちいいよー」

 姫花が猫みたいに体を擦り付けてくる。


「もうこのまま寝ようかな〜」

 姫花があくびをした。時計を見るともう11時を越している。

「時計……」

 あいつは時計の事を言っていた。しかし、何故、時計?

 さっぱり分からないままカーテンを閉めた。




「おい、真島、これはどういう事だ?」

 嵌められた。それしか言葉が見つからない。

 学校中にばら撒かれた写真を持って平はキレている。

「どうして夜11時に天道と一緒に居るのか、ちゃんと説明しろ」

 写真は昨日撮られたのだろう、姫花が俺の膝の上に座っている様子が写っている。

「そもそも写真に写ってるのは何処だ?」

「俺の部屋」

 この写真、撮った向きを考えると撮った場所は推理できる。

「お前の部屋?  何でお前の部屋に天道が居る?」

「家が隣で少し話してただけです」

 この写真は姫花の家から撮られている。盗撮だけで無く不法侵入もセットという事だ。

「とにかく詳しい話は後で聞く。反省文から逃げられると思うなよ」

 平は行ってしまった。周囲から蔑んだ目で見られている。

 とんでもなく面倒な事になって来た。

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