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61  絶望の火種

「進化の促進、それがリスタートワールドオンラインのもう一つの本当の目的でしょう。近頃、各国に機材を配っているという情報も聞きます」

 安吾が勤めるジャズバーのVIPルームで安吾とアーサーが話していた。

「なるほど、それは、有馬らしい。全ての人を救うなど荒唐無稽という奴だろ?」

 アーサーは夜景を堪能しながらワインを嗜んでいるので安吾は報告するのを待つ事にした。

「こんな夜だったな」

 あまり良い天気では無い。雨は降っていないが、雲が空を覆い隠している。


 アーサーと初めて会ったのは何年も前の事だ。その時はまだしがない会社員だった。

 偶然だった。フィクサー宛のメールをハッキングしてしまった。

 顔のせいで何処からも疎まれていて、警察に話しても笑われるだけ、何処にも助けを求める事が出来ない。

 途方に暮れながら帰路に着くしか無かった。

「なんだよ。もう少し喜べよ」

 後ろから声が聞こえる。気が付けば繁華街なのに他に人が居ないし、声も聞こえない。

 後ろに人の気配だけしか感じない。

「直接会いに来てやったのに」

 振り向くと金髪の少年が立っていた。

「おめでとう、勧誘だ。口封じじゃ無い」

 口封じという物騒な言葉に息を呑む。

「お前の事調べさせて貰った。どうやら、俺達は同族だったらしい」

 雄弁に語る少年に魅入ってしまう。

「日本語ではこういうのだろう、勿体ないと。そう、勿体ない。力を俺の為に使う気は無いか?  安吾」

「ち、力?」

 訳が分からなかった、ハッキングは偶然、世の中にはもっと凄腕のシステムエンジニアやハッカーが居る。

「安吾、思い出せ、お前は音や空間が手に取るように分かるだろう?  空間把握能力はこの世界の誰よりも優れている。そうだな、ピアノをやってみろ。俺お抱えのピアニストも良いだろう」

 子供の頃から否定されてきて、忌み嫌った力を優れていると言う少年の前で膝をついて涙をながしていた。

「お前は何も悪くない、俺とこの終わる世界を変えよう」

 少年は手を差し出した。迷わず手を取る。

「俺は、アーサー・アルコーン、フィクサーと呼ばれている」


「あの時の事はお恥ずかしい限りです」

 安吾は頭を下げる。

「そうか?」

 わざと惚けた様子は無い。

「俺からすればお前は少し働き過ぎだ。そっちを恥じろ。過労は美徳じゃ無い」

 アーサーはワインを飲み干す。

「俺はお前を頼りにしている。だからこそ、万全を望む。計画は大詰めだからな」

 アーサーは笑って見せた。




「よう」

 ハイドが草原で一人で寝転んで空を見上げていると、ドウジが歩いてきた。

「お前も酷く負けたようだな」

 ドウジはハイドの隣に寝転ぶ。

「言うな。腹立つから」

 ハイドは空を見た上げたまま返事をした。

 そのまま二人の間には沈黙が流れた。

「なあ」

 痺れを切らしたハイドが話を切り出す。

「このままだとヤバい事が起きる気がする」

 ドウジは黙ったままだった。

「だけど、何が何のかさっぱりわからない。どうすればいいと思う?」

「知らん、聞くな」

「だよなー」

「ぁんだ、その分かりきってたような諦めた感じ」

 ハイドとドウジが立ち上がり、武器を構える。

「やるか」

「ふんっ!」

 ハイドとドウジは互いに気が晴れるまで戦い続けた。




 普段通りに登校し、普段通りに教室に着いた。だが、少し普段と違った。何故か広田が俺の机の前に立っている。

「おはようございます。広田君」

 加恋は普通に挨拶をして、自分の席に座った。

「おはよう、西園寺」

 挨拶をする広田を無視して、机に教科書を入れる。

「おい、真島」

 面倒な事に話しかけてきやがった。陰キャとウェイ、決して相容れない運命なのだ。無視して椅子に座る。

「昼休みに屋上に来い」

 上から目線の言い方に腹が立つ。

「嫌だが?」

 堂々と断ってやる。

「何様のつもりだ?  サッカー部のエース様か、

 それとも広田様か?  いちいち上から命令してくんじゃねえよ」

 広田は目を丸して固まった。

「とにかく、頼む。来てくれ」

 言い方が少し柔らかくなった。それでも行く気にはならないが。

 そして、広田は自分の席に戻って行った。

「広田君、落ち込んでいるというか、思い詰めてませんか?」

 加恋が椅子を近づけてくる。

「知らないし、知りたくも無い」

 首を横に振る。面倒事に首を突っ込みたく無い。


 昼休みになると広田は真っ直ぐに教室を出て行った。

 屋上に行ったのかもしれないが、行く気にはなれない。

「兄助ー!  お昼一緒に食べよ?」

 姫花が莉乃を連れてわざわざやってきた。

 断る理由も無いのでうなずく。

「今日晴れてるから屋上で食べない?」

 七月初旬、梅雨の最中だが、今日は晴れていた。そして、このタイミングの悪さだ。

「兎乃君」

 加恋が行くしか無いと表情で訴えかけている。

「ああ、面倒くさい」


 屋上では、律儀に広田が一人で待っていた。

「真島……え?  何で?」

 加恋達も来た事で広田が混乱している。

「お前と話をしに来た訳じゃねえよ」

 適当に座ると、姫花が隣に座った。

「お前、先週末、デートしてただろ」

「はい、兄助、あーん」

 無視して昼ご飯を食べる。

「そんなんで良いのか!? 」

 誰一人として反応しない事に驚いている。

 全員知ってるから、そんな煽りみたいなことに誰も反応しない。

「お言葉ですが、広田先輩」

 姫花が声を上げる。

「広田先輩だって、誰彼構わずチヤホヤされてるじゃ無いですか。私はそっちの方が嫌です」

 広田が姫花の言葉を聞き、頭を押さえ、フラフラしている。

「俺は、そんなんじゃ」

 広田の声が震えている。

「そんなのでは無くても周りからはそう見えてます」

 姫花ははっきり言い切った。

「悪い……」

 広田は屋上から降りて行った。

「何だったんだ、あれは?」

「うーん、同じクラスの子が教えてくれたんだけど、私の事好きっぽいんだよね、広田先輩。あ!  もちろん、私は兄助一筋だよ!」

 姫花が抱きついてくる。

 好きな人に真っ向から否定され、堪えたのか。まあ、俺を引き合いに出すのが悪い。

「邪魔が入ったね。お昼休憩短いから、もっとイチャイチャして兄助成分補給させて!」

「姫花さん、風紀乱れてます」

 姫花と加恋が睨み合っている。目が怖い。


「あーあ、無様にフラれたなぁ」

 屋上から降りる階段に伊藤が立っていた。嘲笑っている。

「伊藤、お前」

「良い策があるんだけどなー、あいつらを引き離せる良い策が」

 悪魔のような悪い笑みを浮かべている。

「教えてくれ」

「ああ、友達だしな」

 それが悪魔に魂を売ることだとその時は分からなかった。

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