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55  化物なりの矜恃

 家に帰っても親は居ない。お手伝いさんは親身にしてくれるが、お手伝いさんにも子供が居る。俺はお手伝いさんの子供じゃないから甘えられない。

 親が居ないという、本人とは関係ない小さな理由でいつもクラスからは仲間外れにされていた。

 幼馴染みの姫花も友達が居るから、いつも一緒に居られる訳じゃない。

 凄く寂しかった。


 そんな時に始めたスターとワールドオンラインで出会ってしまった。人の事を煽ってくる性格の悪い年上の男だった。

 だけど、そいつは俺に手を差し出した。

「自分とアインなら世界一なんて夢じゃないよね?」

 笑ってそんな事を言う。俺はつられて笑っていた。

 俺はその人の手を取った。

 兄貴のような悪友のような変な感じだったが、本当に親友だったと思っていた。


 カインドさんの最期は、自室で気を失い、頭を打って死んだ。

 葬式は九頭竜商会の仲間しか来なかった。葬式で見たカインドさんの顔は痩せこけていた。


 何で俺を置いて死ぬ。

 一緒なら世界一にもなれたのに、それなのに、俺は置いて行かれた。

 だから、俺は……許さない。




「お前が居なければ……カインド様は死なずに済んだのに!」

 天から降り注いでくるビームを掻い潜りながらダンテは走ってくる。

 ダンテの能力は、驚異的な記憶力による、動きの完全コピー、一度見ただけでその動きが出来るようになる進化の力。

 迂闊に動けば、それをコピーされてしまう。

 ナイフを取り出す。

「無駄だ!」

 ダンテがナイフを投げる。正確にナイフを狙われ弾き飛ばされる。

 こっちの動きが分かっている。自分と全く同じ動きで、こちらの動きを潰される、俺の動き、技が盗られていく。


 ダンテは蛇腹剣をバリアのように展開する。

「最悪だ」

 悪態を吐く。

 ダンテはバリアの中から銃を構える。これはカインドさんに負けた時にやられた技だ。

「カインド様、貴方の無念は、ここで晴らされます」

 恍惚な表情で引鉄を引いた。

「うるさい!」

 銃弾を真っ二つに斬り裂く。

「黙れ!  カインド様カインド様って気持ち悪いんだよ!  あの性悪ろくでなし馬鹿の名前連呼してんじゃねぇよ!」

 ダンテの顔がより一層憤怒に燃える。

「ザインはん、ザインはん、気持ちは分かるけど、死人やし、それは言ったらアカンやつやって!」

 ダンテの雄叫びが影月の言葉をかき消す。

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」

 ダンテはひたすら引鉄を引く。

「お前が何を知ってんだよ、お前はあの野郎の何なんだよ!」

 数を重ねるごとに銃弾はブレていく、一発目と二発目を斬り落とすと、後は当たることなく通り過ぎて行った。

「何でカインドさんは死ななければならなかったんだ!  何で俺はあの人に置いてかれなければならなかったんだ! 」

 声が掠れるくらい叫ぶ。

「知ってるんだったら、答えろよ!  答えてくれよ!」

 ラブリュスでバリアに殴りかかる。

 バリアは球体の形に高速移動する蛇腹剣の刃だ。ラブリュスの刃が接している場所から火花が散る。今にもラブリュスが弾き飛ばされそうだ。

 普通に攻撃しただけでは弾かれてバリアは壊せない。これは、天才の生み出した無敵のバリア。

 攻略方法は一つ。


 ラブリュスが弾かれる前にバックステップで距離を開ける。

 心臓の鼓動がうるさいくらい大きくなる。耳を塞いでも聞こえる化物の鼓動、俺が化物でしかない事を嫌でも思い知らされる。

「カインド様は……お前らなんかを守る為に……そんな事の為に死ぬ事になったんだ!」

 ダンテが銃に弾を込める。

「そうかよ、あの大馬鹿野郎……」

 体の力を抜く。

 ダンテが銃の狙いを定める。

「死ね!」

 ダンテが引鉄を引いた。




 化物でしかなくても化物のプライドがある。

 心臓の鼓動がゆっくりになっていく。全てがスローモーションになっていく。

 世界がスローモーションになっているのではなく、俺の思考が何百倍にも跳ね上がっている。

 これが破壊者の逡巡、脳をこの状態に持っていく為に一度だけ動きを止める必要がある。

 人々には動きを止める事が躊躇いのように見えるようだ。


 銃弾の軌道、蛇腹剣の動き、ダンテの筋肉の動き、風の速さ、全てが手に取るように分かる。

 筋肉の動きが分かれば相手の次の動きが分かる。

 もう負けはない。


 銃弾を除けながらダンテに走る。

「カインド様のバリアが……」

 唇の動きから次の言葉を読む。

「破れる訳がない」

 ダンテの顔が強張る。

 蛇腹剣の紐を狙ってウタヒメを突き刺す。

 すると、紐の部分からバリアが歪み壊れた。

「あ……殺す」

 ダンテは一瞬だけ怯み、顔から憤怒が消えていたが、すぐに、元に戻り、憤怒が顔を支配する。

 左肩が動いた。銃口をこちらに向けようとしている。

 銃口が俺に向き切る前に左腕を蹴り上げる。ダンテの手から銃が落ちる。

 ダンテの体が少し後ろに倒れた。バックステップして距離を開けるつもりか。

 バックステップをするタイミングでダンテを蹴る。

 空中で蹴られたダンテはバランスを崩し、転げる。

「お前の動きは手に取るように分かる」




「殺す」

「やれるものならやれよ」

 怨嗟と憎悪を俺に向け続けている。

 それは決して届かない。

 ダンテの所まで歩き、ウタヒメを振り上げる。

 ダンテの左手が動く、ナイフか。

 左手を踏みつけ止める。

「無駄だ。分かるから」

 ダンテは苦しそうな顔で睨んでくる。

「あの人は、何から守ろうとしてたんだ?」

「殺す」

 殺すしか言わなくなった。答える気は無いか。

 ウタヒメを振り下ろした。




「大丈夫か?」

 真っ二つになりダンテは消えた。本当に単なる邪魔だった。

「ザインはん、力、早速使っとるやん……」

 セラフのビームを斬りながら、俺の方に呆れ顔を見せている。

「うるさい。あのバリアは無理だ」

 偉そうな影月に腹が立つ。

「兄弟!  準備は良いか?」

 威勢の良いゼロ兄の声が聞こえる。

「大丈夫」

 答えるとゼロ兄は不敵に笑った。

「アブソリュートグラビティ」

 ゼロ兄が呪文を唱える。

 セラフのバリアが歪んだ。セラフの高度が落ちていく。

「えっとね、ゼロ兄、もしかして真上?」

 ヒメキチが心配そうにゼロ兄に聞くと、ゼロ兄はうなずいた。

「逃げよう!」

 渾身の笑顔でゼロ兄は笑い、走った。みんなそれに続いて走ってその場を離れる。

 振り返ると、セラフのバリアが地面とぶつかり、衝撃波が出来ていた。

「天使が落ちる時間だ」

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