54 死者の残滓
「ぐぅぅっ」
クナイを刺され、そのまま刀の連撃を叩き込まれ、倒れる。
「大丈夫か? ザインはん」
暇な影月と毎日特訓しているが、一向に感覚が取り戻せない。
「ここまでにしとこか」
影月に手を借りて起き上がる。
「焦るのも良くないで」
「言われなくても分かってる」
分かっているのに、焦ってしまう。
録画を止める。特訓はその都度見返して動きを確認している。自分でも今の動きは酷いと思う。特にそう思うのは、影月が攻撃してからの対応の仕方だ。判断が遅すぎて避け切れていない。
「セラフを倒す作戦はこの後やろ? そんなんで大丈夫なんか?」
影月が珍しく心配している。
「大丈夫じゃなくてもやるしかない」
「作戦の要が大丈夫じゃないんなら普通は延期するもんやけどなぁ」
影月の言う事はもっともだがセラフを放置していると周りにも被害が出る。これは早めに対処するべき問題だ。
「セラフさえ落としてくれれば、後は俺1人で片付けられる」
「ようないでそういうの」
影月に窘められるが無視する。
「本当に良くないですよ。ザイン君!」
「あら、ベルはん」
ベルが仁王立ちしている。顔は少し怒っている。
「1人で何とかすることがそんなに良いことなんですか!」
「俺1人で何とか出来れば、それだけみんなが傷付かなくて良いから、悪い事じゃないと思う」
思っている事をはっきり言う。
「正論! ザインはん、ここで正論言うのは僕はどうかと思う!」
影月が頭を抱えている。
「一理あるけど、でも、私もヒメちゃんもザイン君が傷付くのを見るのは嫌なんです! 一緒に楽しくやりたいんです!」
ベルは痛みに耐えるように目を閉じた。
楽しく、その言葉が何故か心で繰り返される。
「分からない」
「え? え? 分からないって、いや、分からないってザインはん、言ってええ事とあかん事があるで、大丈夫か?」
「いや、違うっての」
慌てる影月を制する。
「どうやって楽しんでたのか、分からないんだ。みんなとやってた時はあんなに楽しかったのに」
「ザイン君」
心配そうな目でベルは俺を見ている。
「今のは俺は、みんなと楽しめるレベルに達して無い……だから、待ってて欲しい。これは俺の問題だから」
ベルはうなずいた。
「兄助……」
ヒメキチは建物の影からその様子を見ていた。
「ホント、幼馴染みで同じような事で悩んでる。頑張らないとね」
クリスティーナは苦笑いでヒメキチの肩を叩く。
「ザインくんもヒメちゃんも、同じなんだね……羨ましいなぁ……」
ぼやいているウィルをクリスティーナがチョップを入れた。
「痛っ!」
「そこ、そういう問題じゃ無いから」
「クリス、酷いよぉ」
ヒメキチは2人を見て小さく笑う。
「ほら、そろそろ行こうよ」
「おっと、俺達が最後か」
ハイド、ゼロ兄、虎助さんが来て全員揃った。
「全員揃ったか」
ギルドハウスのソファーに好き好きに座る。珍しく九頭竜商会のメンバーが全員揃っている。
「作戦だが、凄く単純だ」
昔はカインドさんが指示をして俺も聞く側だったのに。
「まずセラフを人気のない場所まで誘導する」
「誘導ってどうするつもりなんだ?」
ハイドが手を上げる。
「セラフは俺とヒメキチを狙っている。俺が郊外にワープしてセラフを誘導する」
「はいはい、ゼロも攻撃したんじゃなかった?」
次はクリスティーナか。
「反撃はしてくるが狙われる訳じゃない」
「へー」
全員が黙る。
「郊外まで誘導出来たら、次はセラフを地上近くまで叩き落とす」
「それに関してはオレから話をしよう!」
ゼロ兄が立ち上がり、一同の視線がゼロ兄に集まる。
「MPを全て使えば重力魔法で必ず落とせるはず」
ゼロ兄の声がどんどん小さくなっていく。全員の視線が集中し、緊張している。
「MPを使い切ったゼロ兄を守る役が居る」
クリスティーナを見る。
「あたし!? まあ、虎助さんかあたしが適任だけどさ」
盾役の2人の中ではクリスティーナの方が味方の援護が上手い。
ゼロ兄も頭を下げ手を合わせる。
「はぁ、もう! 分かった! あたしがやれば良いんでしょ!」
根負けして了承してくれた。
「ゼロ兄が魔法を撃っている間は、狙われている俺とヒメキチ以外全員でゼロ兄を守る」
反対意見は出てこない。
「落としたら、全員で攻撃」
「ふむ、シンプルだな」
虎助さんの相槌以外に言葉は無い。
「じゃあ、行くか」
次々立ち上がりギルドハウスを出て行く。
「楽しゅうなってきたな!」
テンションの上がり過ぎた影月はドアに衝突した。
作戦通り、まず俺が郊外に出る。
「目標を発見」
早速セラフが食いついた。セラフはビームを溜めながら王都の真上から俺の真上に移動を始める。
「目標2人に攻撃を開始」
セラフがビームを撃った。
目標……2人……!?
剣を構えながら振り向く。
鋭い金属同士の衝突音と剣にのしかかる重い一撃。
「大罪人ザイン! 僕が! ここで殺す!」
「ダンテ!」
鍔迫り合いから、ダンテの蹴りを喰らい尻餅をつく。
ダンテはナイフを取り出し、バックステップしながら投げてくる。
この動きを知っている。知っているどころの話では無い、よく見ている。
俺がいつもやっている動きだ。手首の動かし方、指の形、細部まで完璧に俺そのものだ。
ギリギリでナイフを横に回避する。
「お前は何なんだ? 何故俺を狙う?」
ダンテの表情はほぼ変わらないが、さっきより怒りが見える。
「僕が何かだって? 何故狙うって? そんなの決まってる、お前がカインド様を殺した大罪人だからだ! 僕が断罪する!」
思い出した。こいつは、カインドさんの熱狂的なファンだった奴だ。
実力はあったが、世界大会もあり国籍が違ったからカインドさんはギルドに入れなかったが、それでもずっとこいつはカインドさんを応援していたのを覚えている。
手が震える。何でこいつは、俺がカインドさんを殺したと思ってるんだ。そんなこと絶対にあり得ない。
「殺す……殺す殺す殺す殺す!」
狂気じみた声で叫び続けるダンテに悪寒がする。
あり得ない事を突きつけられ、どうすれば良いのか分からなくなってくる。
セラフのビームが降り注ぎ、周りが爆発する。
「大丈夫か、ザインはん!」
影月達が来てしまった。
「これは、どういうことだ?」
状況を飲み込めず、立ち止まっている。
「作戦は予定通りだ。それまでに俺がこいつを何とかする」
影月達は動き出した。
「思いあがるな! 僕こそがカインド様の意志を継ぐんだ!」
ダンテは狂信と憤怒に支配されている。何を言っても聞いてくれはしないだろう。
「……壊す。その歪んだ感情ごとぶっ壊してやる」