表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/110

53  聖女の献身

「おはようございます」

 普段と同じように加恋達が迎えにきた。普段と違うところは、今日が土曜日という事だ。

 今日は運動会の日だ。

「加恋先輩、莉乃ちゃん、おはようございます」

「おはよう」

 今日ほど行くのが嫌な日はない。

「サボったらダメなのか?」

「ダメです!  もう!」

 加恋に腕を抱きしめられる。いつもなら、姫花が引き剥がそうとするのだが、今日は見ているだけだった。

「姫花ちゃん?」

 心配そうに莉乃が姫花の顔を覗く。

「……あ、うん、大丈夫」

 加恋が腕を離した。

「最近ずっと姫花さん、あんな感じですね。何かあったんですか?」

 姫花に聞こえないように聞いてくる。

「スランプ」

「……スランプ」

 加恋はそれ以上聞かなかった。スランプの辛いところは明確な解決策が無い事だ。

 あくびをする。朝の空気が体に入ってくる。涼しい空気が体に入ると冷静になれる。

 俺はどうするべきなのだろうか。考えても答えは出てこない。

「見守るしか無いな」




「西園寺さんと真島君はペアで道具の準備をお願いします」

 指示してきた生徒会長を睨む。

「ひえぇ」

 睨むと走って逃げて行った。生徒会室に加恋と2人だけになった。

「そんなに顔怖い?」

 隣に居る加恋が俺の顔をじっくり見る。

「全然怖くないですけど、睨むのはやめた方が良いと思います」

 正論だ。睨む癖があるのは分かっているが、直らない。

「兎みたいに可愛い顔してますよ」

 名前に兎が入ってることをかけたシャレなのだろうか……


 加恋はシャツのボタンを開け脱ぎ始めた。シンプルな可愛いピンクのブラジャーが見える。

「……おい、何で脱いでる」

「体操服に着替えないと……」

 加恋が俺に気付いて顔を赤くし、うずくまる。その拍子にスカートが捲れてパンツまで見えてしまった。

「はしたない女だと思わないでくださいね!  あっち向いていてくださいませんか?」

 生徒会室から出て、ドアにもたれかかる。入学式に爆竹を使った女だ、はしたないより、天然が先に出てくる。

 意外と胸があって柔らかそうだった。スタイルも良いし、モテるはずだ。


「あ、えっと……」

 生徒会長がやって来て、俺の前でモジモジしている。こいつ、俺の名前を覚える気が無いんだな。嫌われてるまである。

「入りたいんだけど」

 無視しようかと思ったが、わざわざ不和を起こすのも面倒だ。

「今は無理です」

 素っ気なく答える。

「何なんだ、君は?」

 生徒会長の語気が強くなった。

「知ってるんだよ、君は有名だから、サボり魔で、まともに授業も受けてない事も噂になってるんだよ」

 知っていて名前を言いたくなかったのか。真面目な奴からしたら俺みたいな奴が許せないのだろう。

「そんな奴が西園寺さんと釣り合うわけが無い」

 男の嫉妬ほど醜いものは無い。


 もたれかかっていたドアが開き後ろに倒れる。

「わあっ!?  兎乃君!」

 加恋に抱き留められる。

「生徒会長!」

 加恋が生徒会長を睨む。

「他人の事を悪く言う人はモテませんから!」

 はっきり言い切った。生徒会長は顔を真っ赤にして震えている。

「う、うるさい!  こんな奴に騙されるなんて西園寺さんらしく無い!」

 生徒会長が加恋に手を伸ばす。それを掴み止める。

「喚くな。うるさい」

 手を放すと生徒会長は逃げて行った。

「大丈夫か?」

「何がですか?」

 加恋はキョトンとしている。

「同じ生徒会で顔合わせるのに、気不味く無いか?」

「その時は、助けに来てください」

 朗らかな顔を見せる。

「いちゃついて無いで早く着替えて準備しろよー」

 平先生が遠くから呆れた顔で俺達を見ている。

「いちゃついてなんていません!」

 加恋が顔を赤くして顔を手で覆った。




 着替えて、倉庫から道具を運ぶ仕事に取り掛かる。

 綱引きの綱など意外と重い物が多い。

「重いですね……」

 綱を引きずる加恋に空砲を渡し、綱を受け取る。

 重い、ふらふらしながら運び始める。

「ありがたいですけど、大丈夫ですか?」

 加恋が心配そうに俺を見ている。

「大丈夫……大丈夫だ……」

 日頃から運動をしていなかった事が悔やまれる。綱が解け足元に落ちてくる。

「危ない!」

 加恋の注意も虚しく綱を踏んだ。体育館の床が視界いっぱいに広がる。

「でひっ!?」

 顔面から床に激突し変な断末魔があがった。


「頭……大丈夫ですか?」

 気絶したのだろうか、目を開けると、上から俺の顔を覗く加恋の顔が見える。加恋が俺の額に手を当てる。後頭部に柔らかい感触がある。膝枕をされているのか。

 ゆっくりと起き上がる。

「大丈夫」

「すぐに保健室に行った方が良いと思いますけど……」

 時計を見ると、頭を打ってから1分も経っていない。

「大丈夫、大丈夫」

 苦笑いしながら綱を持ち上げる。

 加恋が近づいて来て綱を少し持つ。

「2人で持った方が楽ですよ?」

「じゃあ、頼む」

「はい!」

 顔が嬉しそうだ。




「お疲れ様です」

 運動会も終わり後片付けも終わった。

 医者から止められているので一切競技に加わらず見学していた。

「お疲れ」

 加恋の方はしっかり競技に出て楽しんだようだ。

 自販機で買ったスポーツドリンクを加恋に渡す。姫花と一緒に居た莉乃にも渡し、手持ちは全て渡し切った。

「え、ありがとうございます!」

 加恋はペットボトルを開けて飲み始める。

 加恋も姫花も凄い走りを見せていた。身体能力がびっくりするほど高い。

「運動出来るんだ……」

「人並みですけど、体は動かすようにしています」

 人並みという言葉には疑問を持つ。

「来年は一緒に楽しみましょうね!」

 加恋が俺の手を握る。

「……勘弁して……」

 目を輝かせているが加恋についていけるほどの体力は持ち合わせていない。

「ええ!?  そんな!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ