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52  進化の力

「痛っ!?」

 影月の刀がぐっさりと腹に突き刺さっている。

「ザインはん」

 影月が倒れた俺を見下ろしている。

「休憩しよか」

 刀を俺の腹から抜いて、俺に手を差し出した。


 アトランティスの事もあり、影月と特訓する事にした。特訓して分かったのは体を思うように上手く使えていないという事だ。

「鈍っとるな」

 影月の言葉が重く刺さる。

「鈍る理由が分からない」

 以前のように上手く動けない。反応が遅れている事も特訓で分かった。しかし、故障している訳でも無いのに、何故こんな事になったのだろうか、さっぱり見当つかない。

「スランプやろ」

「スランプなのは分かってる。そのスランプの理由だよ」

「色々あって気を張り詰めとったから、その反動やない?」

 反動か。今までこんな事は無かったから、反動と言われても余計にどうすれば良いか分からない。

 ため息を吐く。

「これは重症やなぁ」


「ま、引き続き感覚を取り戻せるようやるんがええんやない?  僕は付き合うで、僕の修行にもなるしな」

 影月が親指を立てる。

「それは助かる」

「ヒメキチはんの方もクリスティーナはんと特訓してるらしいし、僕らも頑張ろうで。あ、僕が言うたって事は内緒な」

 影月は口の前でばつ印を作る。

 やっぱりそういう事だったか。概ね予想通りだ。


「なあ、ザインはん、あの力は使わんの?」

 遺憾の意を表情で示す。

「そんなに嫌なんか」

 シューベルトがやっていた空間と弾道の完全計算という人間離れした力のような進化の力が使えない事もない。

「それに使えなくなってたし」

 やり方を忘れて今はもう使えない。それに、そんなものに頼るべきでは無い。

「カッコええのになぁ、破壊者の逡巡」




「破壊者の逡巡、一度も使わなかったな」

 安吾の前の席に座る男は、コーヒーを啜って、二台のスマホを使い同時に文字を打ち、違う文面を作り、メールを送信する。

「武道の達人がある領域に至ると、スローモーションに見えるというが、破壊者の逡巡は自由にその領域に入る事が出来る力だ」

 ヨーロッパ系の整った顔の高校生くらいに見える金髪の男はスマホを置いてコーヒーを飲む。

「その上、ヴァルキリーのように筋肉の動きから相手の行動を読む事も出来る」

 アーサー・アルコーン、それがフィクサーである彼の名前だ。

「アーサーさん」

「どうした安吾」

 アーサーはコーヒーを飲み干して安吾の言葉を待つ。

「いえ、一曲聴いていきますか?」

「そうさせて貰おう」




「つまり、裏切り者が居ると?」

 警視総監室に桜川と加瀬は報告に来ていた。きっちりとしたオールバックに獣のような眼光の初老の男性が椅子に座っている。彼こそが警察のトップ、平警視総監だ。

「逮捕状を請求した直後に奴は殺された。逮捕状を請求した事を知っているのは俺達3人と裁判所だけだ。だが、この中に裏切り者が居るとは考え難い」

 桜川が壁に背を預ける。

「この警視庁(なか)に裏切りが紛れ込んでいて俺達の情報を売っている奴が居ると考えるのが妥当だろ。そういうあんたはどう考える?  平のおっさん」

 桜川は平警視総監に馴れ馴れしくしている。桜川と平は昔のバディなのだが、こちらからすると恐ろしい光景だ。

「加瀬警部補、私は君の直属の上司だ。そんなに緊張しなくて良い」

「は、はいぃ!」

 平警視総監の言葉に敬礼する。

「何やってんだ、加瀬」

「いや、俺、何やってるんでしょうね……あはは……」


「では、私の娘の話をしよう」

 平警視総監は立ち上がり、窓から外を眺める。

「いや、聞きたく無いんすけど」

 桜川を無視して平警視総監は話を始める。

「高校の教師をしているのだがな、それがもう適当で、私としては熱血教師として学生から頼られる立派な教師になって欲しいんだよ」

「いや、まあ、原因は平のおっさんだろ」

「私なのか!?」

 本人は本気で驚いている。この暑苦しさを見てきた娘は反面教師にしてクールになったようだ。

「報告の続きですけど、中国系マフィアの銃創を鑑識に調べさせたが、何も分からなかった」

「それは?」

「オリジナルの銃だそうだ」

「このご時世にオリジナルの銃か……」

 かなり大きな組織がバックに付いていることは分かる。

「弾は回収され出てこなかったが、そっちも既存の物じゃない、かなり大型で人体を貫通するくらいの威力がある」

「ふむ、桜川は裏切り者が誰か見当がついているのか?」

「いや、流石にな、そもそも、やった奴と裏切り者が同一人物とは限らない」

 桜川は平警視総監の目を見る。

「それに、あれは人の手で撃てる銃じゃねえ。こいつは厄介な事になったぞ」


 警視総監室のドアがノックされる。

「入りたまえ」

 平警視総監の許可がおりドアが開く。婦人警官とヨーロッパ系の少年が入ってきた。

「警視総監。お客様です」

「下がって良い」

 婦人警官は部屋を出て行った。

「初めまして。俺は……ああ、いや、私はアーサー・アルコーンです。この度出来る国際犯罪対策局の局長になる予定です」

 少年が自己紹介する。国際犯罪対策局、名前は聞いている。世界的な組織で、数カ国に渡る国際的なテロなどの犯罪を捜査する為の組織で、表立った組織では無い。テロなどの犯罪を扱う為、その素性は謎に包まれている。

「これはご丁寧に、私は平源蔵、警視総監をやっております」

 アーサーが桜川と加瀬を見る。

「彼らが優秀な捜査官ですか」

 アーサーはスラスラと日本語を話している。

「私は今地球上にある言語ならほとんど話せる。ついでに言うと、表情を読む訓練もしている」

 整った顔で表情は変わらない。

「桜川だ」

「加瀬です!」

「この2人が警視総監直属超特殊犯罪対策課の2人だ」

 警視総監直属超特殊犯罪対策課、略され直特と呼ばれる。公安や一課よりも強い権限が与えられ、独自に動ける。警察内部でもその存在はほとんど知られていない。

「実績の方は?」

「猫を探した」

 アーサーが固まった。

「そんなこともあったなぁ、出来た頃は暇で暇で仕方なかったから」


「都庁占拠事件とかじゃダメですか?」

 加瀬は恐る恐る聞いてみる。

「何処からとも無く現れた武装集団により都庁が占拠された事件ですね。犯人1名の射殺と残りの逮捕により収束したと」

「はい、ここだけの話なんですけど、犯人は元から1人だけだったんです」

「ですが、テレビには武装集団が映っていましたよ?」

 ニュースでは武装集団の様子が報道していた。

「1人以外は念動力で服や武器が動いていた偽物なんです」

 普通の人間なら笑うような話だ。加瀬は至って真面目な顔で話している。

「……進化の力ですね」

 アーサーが口にした言葉に耳を疑う。事情を知っているのか。

「はい、そうです。超能力を持っている人間と持っていない人間の対立を避ける為に公表はしていません」

 アーサーはうなずく。

「念動力を持っていたのは不破剛動という男で、目的は進化を政府が正式に発表することでした」

 奴の死骸はただの人だった。それだけがあの事件の救いだ。

「娘の紫織も進化により予知能力に覚醒している。娘に不自由させたくなかったのだろうな」


「なるほど、あなた方の優秀さはよく分かりました」

 アーサーが身分証明書を取り出して机に置いた。目を疑った、この男、年齢が70を超えている。

「言っておきます。私も進化の力により不老です」

 どう見ても少年にしか見えないが、本当なのだろう。

「これからの為にあなた方の捜査を勉強させて頂きます」

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