5 ミノタウロスの要塞
夕食を食べ終え再びログインすると、ギルドハスの前でゼロとクリスティーナが待ち構えていた。
真ん中で髪の色が白と黒に分けられているのがO・ゼロだ。軍服っぽい服装に帽子、イヤリング等パンクなアクセサリーを着けている。
長い金髪にアクセサリーを付けてカッコいい系のアイドルっぽいホットパンツで元気溌剌なのがクリスティーナだ。アクセサリーをチャームポイントにするのは昔からだ。
「ふっふっふ、はーっはっはっは、ごほっ!」
盛大にゼロ兄は咳き込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ兄弟、ごほっ」
「ゼロは放っておいて行こ? アインと話したいこといっぱいあんだからね」
クリスティーナがヒメキチとベルの手を取って進み始める。
「ちょ、オマエ、バカクリス! オレを置いて行こうとするな!」
「あ゛!? バカはそっちでしょバカゼロ! バーカ!」
「バーカ!」
「バーカ!」
ゼロとクリスティーナの言い合いが始まった。
これ自体はいつも通りのことだが、久しぶりに見ると凄く子供っぽい。一応大学生で俺達より年上なのだが。
「賑やかですね」
「ティーナン、まだ終わらない?」
ティーナンはヒメキチだけが使うクリスティーナのあだ名だ。
「こんな奴無視するから大丈夫だよ!」
頬を膨らませたクリスティーナが先に戻って来る。
「ふっ、兄弟、待たせてしまったようだな」
中二モードに戻ったゼロもこちらに来た。
「いつから兄弟は戻って来ていたんだ?」
「そう、それ!」
「ふん!」「ふん!」
この2人は基本的に馬が合うのだが、それを本人たちは否定したがる。
「今日」
「なるほど、なるほど、ならオレのギルドに来るべきだ、絶対そうだ」
「あんたバカでしょ、ザイン君にはヒメちゃんが居るの? 分かる?」
「なら、2人とも来ればいいだろ! あとオマエの方がバカなんだからな!」
また始まった。
「はぁ、クエスト受けて装備集めとレベリングしたいんだけど」
「あれ? え? あれ?」
ゼロはコボルトに追い回されている。
「何でこのコボルトレベル80もあるんだ!? ちょ、ちょっと助けてくれ!」
クエストを受け、フィールドに出た途端にこれだ。
「ぐがーっ!」
「うおぉぉっ!?」
「俺がレベル5で、4人がレベルカンストの99だろ? 平均するとそんなものだろ」
剣をコボルトに投げつけてみる。1だけダメージが入りコボルトに無視された。
「ダメっぽいな。というか、こいつレアアイテム落とすのか?」
レベル差があり過ぎてステータス的にダメージが入らない。
「汎用系は落とすよ? レベルが高ければみんな落とす奴は」
「それならあんまり狩る意味も無いのか」
「オレは接近戦は苦手なんだ、早く助けてくれー!」
ゼロを追いかけまわしているコボルトに跳び蹴りを入れる。ギロリとこっちを向いた。
そのままコボルトを踏んでジャンプする。コボルトの視線を釘付けにする。
「ベルさん!」
「行きますよ! はぁっ!」
ベルがヒメキチのバフ魔法を受けコボルトを殴る。一撃でコボルトが倒れた。
「流石、リアルでもモンクタイプ」
ベル、凛さんはリアルでも数種類の格闘技を習っている。大の男でも軽く倒してしまうほど強い。
「それ褒めて無いです!」
「あー」
レベルアップの表示が出てくる。5から10まで上がった。
「全然上がって無いね」
「制限がやっぱりあったか」
相手とのレベル差があれば、経験値の取得制限があるのは当然だ。
「大丈夫だ。兄弟! レベルカンスト行くまでオレが手伝うからな!」
「あんたが一番大丈夫じゃないんでしょうが!」
ゼロはクリスティーナにハンマーでぶん殴られた。
「はい! 今回のクエストはミノタウロスの討伐だよ!」
元気いっぱいのヒメキチの説明を聞く。
「ふっ。ミノタウロスなど、雷霆魔神、絢爛魔王、このオレ! O・ゼロにかかれば……」
「うるさい。ヒメちゃんが喋ってる途中でしょ!」
ゼロはクリスティーナにもう一度殴られた。
「スタールグ村のすぐ近くの要塞の廃墟に居るミノタウロスを倒せばクリアーだから」
「見えてるアレか?」
前方に見える廃墟を指さす。村くらいの大きさの円形の要塞、中の様子は見えない。
「そうそれ!」
「中にぎっしりレベル80代のモンスターが詰まってるのか……」
ダメージが通らないのでお荷物と言えばお荷物だ。
「兄助は私の活躍をしっかり見ててね!」
ヒメキチがウインクをする。
前衛のベルとクリスティーナを先頭にして要塞に入る。
「ゼロ兄、絶対に大魔法は撃つなよ」
「了解」
正直、ゼロ兄に関しては不安しかない。
「おっしゃー! 行くぜ! オレの大魔法!」
ゼロは敵陣に突っ込んでいった。
「バカー! バカ! バカゼロ!」
クリスティーナが悲鳴を上げている。ベルは動きが止まった。
「オールマジックバリアー! みんな私の後ろに!」
ゼロの魔法に巻き込まれないようにヒメキチがバリアを張る。
二人はすぐにバリアの中に入る。
「雷霆咆哮!」
ゼロが詠唱に入った。
ほとんどのモンスターがゼロの元に集まっていくが、こちらに気が付いたモンスターが二体、ゴブリンだ。
棍棒を振り上げ、こっちに走ってきた。
ヒメキチのバリアーは魔法は防げるが物理には効果が無い。
前に出てバリアを抜ける。
「兄助!?」
一体に剣を投げつけ、もう一体に蹴りを入れる。
ダメージは1しか入らなかったが、二体とも怯んだ。
そして、バリアー内に滑り込む。
「オーガバースト!」
ゼロの詠唱が終わり、フロア全体に電撃魔法が放たれる。
広範囲高火力の魔法でこのフロアのモンスターは全滅した。
「お疲れ、兄助。かっこよかったよ」
「……まあ、こうなるよな」
「どうだ? オレの腕もまだまだ……」
「この大バカゼロ!」
クリスティーナが投げたハンマーがゼロの顔面に直撃した。
「フロアは全二階だから次のフロアにミノタウロスが居るっぽいね」
高い天井に長々と階段が続いている。
「レベルが25になった」
「おお! おめでとー!」
「おめでとうございます。ザインさん、そして、すみませんでした」
みんなにボコボコにされ泣きながらゼロは謝っている。
自業自得なので俺は何も言わないでおこう。こういう時に影月が居れば被害を少し逸らせただろうに。
「へっくしょん!」
一人、ギルドハウスの前でザイン達を待つ影月。
「何でみんな来ないん? 僕、もしかして放置されとる?」
二階に上がると5メートルを超える大型のミノタウロスが中央に佇んでいた。大きな斧を持ち鼻息を荒くしている。
「あれがボスだな」
ミノタウロスはこちらを見つける。目が合った。
「ぐぅおお!」
雄叫びを上げながら突進してくる。
「影月みたいに回避盾でもやってみるか」
ミノタウロスの方に走る。
「え!? 兄助」
ミノタウロスがフロアの中心で止まり斧を振り下ろした。
「兄助!」
ミノタウロスの足の間をスライディングで後ろ側に抜ける。
「案外出来るもんだな」
手応えが無かったことを不思議に思ったミノタウロスが斧を薙ぎ払う。
身を屈めて斧を避ける。
避けられたことに驚いたミノタウロスがこちらを睨み付け雄叫びを上げる。
視線を釘付けにすることが出来たようだ。
「お前の相手は俺だ。俺を倒せるか?」