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48  姫の休日

 姫花の要望により、大型ショッピングモールに来ていた。人の多さに辟易する。手を握って隣を歩く姫花の顔は楽しそうだ。

 姫花曰くデート兼、水着の購入が目的らしい。

「ごめんね、人多いところ苦手だったよね?」

 姫花は俺を見て申し訳なさそうな顔をする。

「気にすんな。姫花が楽しいなら俺も楽しいから」

 姫花の頭をわしわし撫でる。姫花の頬が膨らんだ。

「噛み付くよ?」

 噛み付いたらいよいよ仔犬そのものだ。

「わうっ」

 遂に吠えた。

「犬か」

「犬扱いするのは兄助の方だもん」

「それもそうか」


「最近、兄助サボらなくなったねー」

 姫花の言う通り、姫花が起きてからは学校をサボらなくなった。

「私倒れるかもー、チラッ、みたいな事やられたらサボれないだろ」

 姫花に脅され、加恋は毎朝迎えにくるのでサボれなくなってしまった。姫花や加恋と一緒に居るのは楽しいから、悪くない。

「えへへ、私は一緒に居られる時間が長くなって嬉しいけどねー」

 可愛い笑顔で俺を見る。直視すればするほど、理性が削れていく、抱き締めたい欲が抑えられなくなる。

 上を向いて視界から外し深呼吸する。理性が戻ってきた。

「大丈夫?」

「危うくやられる所だった」

「やられても良いのに」

 ぼそっと姫花が呟いた。


「あのお店!」

 姫花がスムージーの店を指差している。

「ティーナンが美味しいって言ってたんだよー、行って良い?」

「もちろんだ」

「やった」

 姫花に引っ張られ店の前に出来た行列に並ぶ。

「何頼むの?」

 店の看板を見る。

「苺」

「ほんと甘いの好きだよねー」

「そういう姫花は?」

「もちろん、豆腐とバナナ」

 もちろんと言う言葉に疑問を覚える。豆腐とバナナってどんな組み合わせだ。

「ティーナン最オススメなんだよ。女子に優しい低カロリー」

 ドヤ顔で胸を張っている。

「なるほど、流石モデルだ」

「でしょ?  えっへん」

 ティナがやっている事は姫花もやっているのだろう。女子のコミュニティは半端ではない。情報共有力には舌を巻く。

 スムージーを買ってお店の席に座る。

「う〜ん、甘あま〜」

 幸せそうな顔でスムージーを飲んでいる。

 一口飲んでみる。果物の甘味がしっかり感じられる。砂糖無使用の自然の甘さが口の中に広がる。

「美味しい」

「でしょー?」

 得意げな顔で俺のスムージーに吸い付いてきた。

「あ、俺の!?」

「こっちも甘あま〜、私のも飲んでみる?」

 姫花にすすめられて飲んでみる。バナナの甘さが豆腐で抑えられてちょうどいい甘さだ。

「美味しいって顔してる」

「まあ」

 姫花は俺の目を凝視しながら近づいてくる。

 そして、俺の頬にキスして、スムージーを飲んだ。

「残念、何も考えてませんでしたー、なんて、えへへ」

 照れ笑いでストローに口をつけたまま、動かなくなる。

「いや、俺はまだ何も言ってないし、俺の考えを読む方じゃないのか?」

 姫花は動かない、本当に何も考えてなかったのか。




 スムージーを飲み終え、水着が売ってある店に来た。

「さてさて、兄助の好きな水着は?」

「スク水」

 一番無い奴、ツッコミを入れやすい奴を選ぶ。

「なるほど、でも、ここスク水売ってたかな……」

 店の中に入ってキョロキョロとスク水を探し始めた。

 このまま店員に聞かれたら、社会的に死ぬことになる。

「姫花、気が変わった。好きなのを選ぶと良いと思う」

 姫花はキョトンと俺を見て、親指を立てた。


「こんなのどうかな?」

 白のビキニを見せてくる。

「……白は透けやすいらしい」

「じゃあ、家用かなぁ」

 家用ってなんだ。ビニールプールでもやる気か?

「うーん、黄色にしようかな」

 色々な水着を持って悩んでいる。

「試着室があるだろ」

「いやいや、兄助、デザインが好きでもサイズが無かったりするから、まず、この時点で10着は選んでおかないとダメなんだよ」

 人差し指をピンと立て、インテリポーズをした。

「そうなのか……」

「そうそう、特に肌に密着するから、丁寧に選ばないとねー」

 姫花が胸を持ち上げる。形の良い、同年代の中では大きい美乳だ。

「胸派?」

 ニヤニヤした姫花が俺を見つめる。

「考えたことも無い」

 そもそも姫花は何処を見ても可愛い。そんなことを考える必要はない。

「考える必要が無いくらい、姫花は可愛い」

「え、えへ、えへへ、そう?  兄助もかっこいいよ」

 バカップルみたいだ。


「試着するから、試着室の前で待ってて欲しいんだけど」

「分かったから」

「ほんとは一緒に入って欲しいんだけどなぁ、ジーッ」

 試着室のカーテンの間から顔を覗かせて俺をジッと見つめている。

「入らないって」


 少しするとカーテンの間から手が伸びてきて俺の肩を叩く。

 中を覗くとビキニに着替えた姫花がポーズを取っている。

「どうかなぁ?」

 少し自信が無いのか恥ずかしそうにクネクネしている。

「可愛い……いや、俺は可愛いしか言えないぞ?」

「大丈夫だよ、声で分かるから」

 そんなに分かりやすく声に出るタイプなのだろうか?


 次も同じように肩を叩かれ中を覗くとスリングショットを着ていた。

「それを着て何処に行く気なんだ?」

「兄助の部屋」

「来るな」


 その後も色々な水着を試着した。スリングショットみたいな変わった奴以外は全て似合うあたり流石の姫花だ。

「あ、兄助?」

 試着室の中から困ったような声が聞こえる。

「どうかしたか?」

「は、入って来て欲しいんだけど」

「……は?」

 本当に困っているのが伝わってくるのだが、試着室に入って来てくれと言われるのは戸惑う。

「その、後ろの紐が強く結んで取れなくなってるんだけど、前は脱げてる感じなの。だから、手を出すことも危ないって言うか……」

 説明を聞いてもよく分からない。珍しく姫花が焦っている。

「分かった」

 仕方なく試着室に入る。

 試着室に入ると姫花の背中が見える。鏡に胸を手で隠した姿が映っている。手ブラ……

 ビキニの背中の紐を見る。硬く結んであって、苦労しそうだ。

 紐を解いていく。

「あ、兄助」

 姫花の声が震えている。

「背中に息がかかってくすぐったいよぉ」

 もぞもぞし始めた。

「動くとやりづらいんだけど」

 不意の事故で解けないように硬く硬く結び過ぎて、解けない。

「分かってるけど」

 それにしても背中が綺麗だ。

 指に力が入り、息が荒くなる。

「あっダメだって!」

「我慢してくれ」

 少しずつ紐が解けていく。

 解けた。ビキニが床に落ちる。

「ありがとー、あにす……」

 手を胸から外して振り返ろうとする姫花を止める。

「ストップ」


「はぁ、買ったね」

 家に帰り、姫花がビキニを洗濯している。

「そうだな」

 シューベルトの奴から連絡が来ている。日時の指定だ。連絡先を教えた事は無いはずだが。

「むぎゅー」

 いきなり姫花が抱きついて来てスマホを落としそうになった。

「怖い顔してるよ?」

 姫花を抱き締める。

「わわ」

 姫花は腕の中で大人しくしている。

「うん、大丈夫」

 手を離そうとすると、姫花に止められる。

「今日凛さん居ないから、一緒に寝て欲しいんだけどなぁ」

 上目遣いで俺を見る姫花をお姫様抱っこで抱き上げる。

「わあ!?」

「手のかかるお姫様だ」

 俺の部屋まで姫花を抱っこして行き、ベッドに寝かせる。

「すぅ、えへへ」

 姫花は寝息を立てながら寝てしまったようだ。

「おやすみ」

 姫花の隣で寝ることにした。

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