47 友情の魔王
今のところ、セラフ・セキュリティはアトランティスに入った者以外には攻撃せず、ゲームの中は案外平和なようだ。
その反面、アトランティスに入った者がログインすると遥か上空からビームを問答無用で撃ってくる。
「で、兄弟、オレは何をすれば良い?」
ゼロ兄と2人でログインする。
当然だが、即セラフに感知され、セラフはビームの発射準備に入った。
「良いのか? 俺に付き合ってターゲットになるかもしれないんだぞ?」
これからやろうとする事はゼロ兄を巻き込んでしまうかもしれない。
「ふっ、今更だ。雷霆魔神、絢爛魔王、このオレ、ゼロに任せておけ!」
いつもの決め台詞がこんなにも頼りになるとは思わなかった。
「分かった。アレに全力で魔法を撃ってほしい」
エネルギーを溜めているセラフを指差す。
「距離が……届くかどうか……」
ゼロ兄は躊躇っている。届かない事に懸念しているようだ。
「いや、やらない方が魔王の名折れだ!」
ゼロ兄が頬を叩き気合を入れる。
その間にゼロ兄から少し距離を取り、人気のない場所で剣を構える。
今更分かった事なのだが、鉄の剣とほぼ変わらないような剣ウタヒメは凄まじい強度で、どんな攻撃でも欠けることも折れる事も無いと言い切れるほどの硬さだ。
まあ、攻撃力は鉄の剣でしか無いのだが。
飛んできたビームをウタヒメで斬り裂く。ビームは砕け散って地面に当たる前に消えた。
「兄弟! それは流石にカッコ良すぎないか!?」
ゼロ兄が興奮している。言われてみればちょっとカッコいいかもしれない。
「今回はゼロ兄が主役だろ?」
ゼロ兄がハッとして不敵な魔王笑いを見せる。
「そこまで言われたら仕方ない! ダークネス・ペインアロー!」
ゼロ兄が手のひらをセラフに向ける。
セラフのビームに劣らない程の闇の矢の魔法が一直線にセラフに飛んでいく。
「攻撃を感知」
セラフが闇の矢にビームを放つ。闇の矢はセラフのビームを撃ち破りセラフに突き進む。
「うわ、凄いな」
威力も射程も凄まじく、一級品なんてレベルじゃない。
何度もビームを貫いて、闇の矢はセラフのバリアに到達した。
バリアに当たった闇の矢は大爆発を引き起こし、セラフは爆発に飲み込まれた。
「はっはっはっ、これが絢爛魔王の力だ!」
ドヤ顔で高魔王笑いしている。
そして、爆発の煙の中から、ビームが放たれ、ゼロ兄に飛んでいく。
「え? うわぁ!?」
驚いて腰を抜かして尻餅をついたゼロ兄のもとに走る。
ビームを斬り裂きゼロ兄を守る。
「兄弟、ありがとう」
「ああ、気にすんな」
ゼロ兄に手を貸し、ゼロ兄は起き上がる。
煙の中からセラフが現れる。バリアには穴が開いているが、それも修復されていく。
「これは大変だな」
「MP全解放魔法でもダメかぁ……」
ゼロ兄が肩を落とす。
「これは面白い事をしていますね」
ゼロ兄が声に驚いてバランスを崩す。
「シューベルトか」
振り返るとワインレッドのスーツを着たシューベルトが立っている。
シューベルトは対物ライフルを担いでいる。セットしてセラフに撃った。
弾はバリアの開いた穴を通り抜けセラフに当たった。
「マジかよ」
「ハワイで習いましたから」
「何でハワイまで行って銃の撃ち方習ってんだよ」
セラフはライフルの弾を受けてもバリアの修復に専念している。
「で? 効いてるようには見えないが」
「ええ、効いてない事を見せたかったのですから」
シューベルトが対物ライフルを投げ捨てる。
「この通り、まともに戦おうとしても勝ち目がありません」
「で?」
「セラフを止めるにはシステムを止めるしか無いと思うのです」
こいつ、良いように俺を使う気だな。
「アトランティスに行けって言うんだろ」
「That's right!」
うぜえ。冷めた目でゼロ兄と俺はシューベルトを見る。
「ちょっと待って!」
建物の影からヒメキチが出てくる。
「その人、私達を襲わせた人だよね! そんな人の言う事を聞くのは私どうかしてると思う!」
ヒメキチに言われて気付く。それもそうだ。
ヒメキチがシューベルトの間に割って入る。俺を守るように腕を広げる。
「その件に関しては本当に申し訳ありません」
恭しくシューベルトが頭を下げる。
ヒメキチは警戒を解かない。仔犬が主人を守るようにシューベルトに立ちはだかる。
「ヒメキチ、大丈夫だ」
ヒメキチの肩を叩く。
ヒメキチに抱きつかれた。
「ダメだよ! 今度は私が兄助を守るんだもん!」
可愛い。溢れる可愛いさが胸に抱きついてきている。ヒメキチの柔らかいおっぱいが潰れている。理性が……
「ただな、ヒメキチ、あいつをどうにかしないと俺達は世界大会にも出られない」
バリアの修復が終わりかけているセラフを指差す。
「お前ならシステムを止められるんだろ?」
「ええ、やってみましょう」
言い方に違和感を感じるがこの際仕方ない。
「取り引きなんだ。決してこいつと馴れ合う気は無い」
シューベルトを睨む。角度的に仮面に隠れて表示は分からない。
「むぅぅ……」
それでもヒメキチは納得しない。大事な人に傷ついて欲しくないのはお互いに同じなのに、俺は傷つくかもしれない選択をしている、不公平なんだ。
「大丈夫だって俺は最強だから」
優しくヒメキチを撫でる。ヒメキチの抱きしめる力が強くなる。
「別に今すぐ行くというわけじゃ無いんだろ?」
ゼロ兄が話に割って入ってくる。
「ええ、十分に準備をしてから行く方が良いでしょうね。何があるか分かりませんから」
シューベルトは外にあるカフェの椅子に座る。
「腹は立つけど、腕は間違いない……兄弟並みに強い」
ゼロ兄が口を尖らせている。
「え? そうなの!?」
ヒメキチがびっくりしている。それもそのはず、シューベルトとの戦いはヒメキチは見てないし、俺の前の世界一だったことも知らない。
「兄助には及ばないけど、兄助並みに強い人が何でそんな事を……」
ヒメキチが胸に顔を埋めてくる。
「決めた!」
ヒメキチがガバッと離れる。
「私も行く!」
ある意味テンプレな言葉がヒメキチの口から出てきた。
「危ないから、俺が守ることにする……それで良いか?」
シューベルトは特に反応しない。
「むぅぅ、私だって兄助を守りたいのに」
不満そうなヒメキチの顔を見なかった事にする。
「それならオレも!」
「いや、3人だけで行くよ。何かあった時のために、ゼロ兄、頼む」
「……分かった」
納得してない顔だが、渋々飲み込んでくれた。
「まあ、今から行くわけでは無いんですけどね」
シューベルトが乾いた笑いをする。
そして、ビームが降ってきて、カフェが爆発した。