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45  破天荒な預言者の忠告

 ケーキ屋さんから出る。

「良いんですか払って貰って」

 奢って貰う事がない加恋はどうしたら良いか分からず困っている。

「気にすんなって、優勝賞金あるし」

 優勝賞金を考えればケーキなんて大した金額じゃない。

「そうだよ、どうせギャルゲ費になるだけだし」

 姫花の言う通り、ギャルゲを一つくらい買って後は生活費だ。それがケーキ代になるくらいで何の問題も無い。

「気にすんなって」

「初めてなんです。だから、大切にしたいなぁって」

 加恋が空気が冷えつくような事を言う。

「奢って貰うのが?」

「奢って貰うのがですよね?」

「姉様の初めて……奢って貰うことだけど」

「はい!」

 とびっきりの笑顔で返事をされてしまった。




「ああああ!」

 道の先から何処かで聞いたことがある声が出て聞こえる。嫌な予感がする。

「よっしゃー!  私の予知的中ぅ……うわぁぁぁ!」

 あ、ヤベェ奴だ。聞こえてしまった。

 それは全力でこっちに走って来て、電柱に激突した。そして、倒れて痙攣している。

 正直関わりたく無い。だが、倒れている人を放置するのは犯罪になるし、加恋はもう近寄っている。

「大丈夫ですか?」

 加恋が揺すぶっても起きない。


 長い黒髪に紫のメッシュ、ブーツや革手袋など、かなりパンクな服装なのだが、どう見ても小学生五年生くらいの女の子にしか見えない。

 これはもうパライソの中身で確定だ。

「兄助、困った顔してるよ?」

 めちゃくちゃ声をかけたく無い。起こしたく無いけど、それも薄情だ。


 地面に座り、パライソ(仮)の頭を膝に乗せる。

「怪我はしてないな」

 髪をあげて頭のぶつけた所を調べる。特に傷は無い。

「軽い脳震盪かな?」

 姫花も覗き込む。

「多分な」

 髪を戻す。

「そろそろ起きてくれないか?  大人の女性は人を待たせ無いと思うぞ」

 目が開いた。

「今私の事を大人の女性って……」

「言った」

 何で俺は機嫌取りをしているのだろうか。我ながら悲しくなって来た。

「やっぱりそうか、私は大人の女性だからな」

 満足した表情をしている。

「あ、この人、マオさんと居た子だよね?」

 姫花も分かったようだ。

「子ではなく、私は大人の女性だ」

 穏やかな笑顔をしている。

「ふぅん、そなんだ」

 姫花は諦めと面倒が混じった顔になっている。


「で?」

「私は不破(ふわ)紫織(しおり)だ」

 こちらも自己紹介をする。

「お前を探していたんだ」

 奏が俺を見る。姫花と加恋の視線が冷たい。莉乃に至っては俺をゴミのように見ている。

「えっと、嫌です」

「何が!?」

 取り敢えず断っておく。

「お前、人類がどうなっても良いのか!?」

 スケールがいきなり大きな話になった。

「いや、待て、人類ってどういうことだ?  さっぱり分からない」

 紫織に肩を掴まれる。

「私の予知はほぼ必ず当たる。今日だってお前に会えると予知したから会えたんだ!」

 興奮して俺に抱きついて来た。

「分かるか?  なあ、分かるか?  お前は救世主になるんだ!」

 カルト力の低い俺にはさっぱり分からない。

「あの、兄助困ってるんですけど……」

 姫花が止めに来ても気にせず紫織は話を続ける。

「有馬の目的は人類全ての人の進化だ。その為には奴は目的を選ばない」

 紫織の目は真剣で、何かを言える雰囲気では無い。

「世界が電脳の渦に巻き込まれる前に何とか出来るのはお前しか居ないんだ!」


 紫織の剣幕に飲まれていた。加恋も莉乃も開いた口が塞がらない。

「もうちょっと具体的にどうすればいいか教えてくれないと、分からないんだけど」

「それは私にも分からない」

 さっきまでの剣幕が嘘のようにけろりとしている。

「はぁ?」

「いや、私もボヤーっとしか予知出来なかったんだ。ぽわーって感じでイメージが浮かんでくるだけだからな」

 何を言っているのか分からない、理解できない。

「いや、私だって、もうちょっと鮮明に予知できれば占い師として、荒稼ぎするんだけどな、うん」

「お前……本当に元気な奴だな」

 呆れながら紫織の手を俺の肩から外す。

「私は大人の女性だぞ!?」


「言いたい事は言ったし、私はそろそろ帰るからな、あ、そうだ。私の連絡先」

 紫織は俺のポケットからスマホを取り、連絡先を入れる。

「じゃあなー!」

 紫織は去って行った。

「えっと、あの方は?」

 さっきまで口をあげて固まっていた加恋が動き出す。

「パライソ、日本三位のギルドの」

 また加恋が止まった。

「え、えぇ……」




「ただいまー」

「お邪魔します」

 紫織という嵐を越え、家に帰ってきた。

「お帰りなさい、加恋ちゃんと莉乃ちゃんもようこそ」

 凛さんが出迎えてくれる。

 穴だらけにされた家の壁も綺麗に元に戻っている。

 リビングに入る。家具が一新されている。テレビがびっくりするくらい大きくなっている。全てが最新型になっている。

 冷蔵庫にケーキを入れる。冷蔵庫のドアがモニターになっていて、中に何が入っているか表示されている。

「凄いことになりましたね」


 遅れてきた明日葉さん含めた女性5人はそのまま退院祝いのパーティーの準備をし始めた。明日葉さんと俺はもちろんキッチンに入れない。

「無事で良かったです。次こそは私、兎乃君を守ってみせますから!」

 明日葉さんのやる気が溢れているが、次が無いことを祈る。

「そういえば会社大丈夫なんですか?」

 加恋が前に経営状態が悪いと言っていた事を思い出した。

「え?  あ、はい、持ち直したらしいです」

「明日葉さん、社員だろ」

「私、ゲーム専門なんで、そこの所は教えて貰えないんです〜」

 半泣きになった。半泣きで答える事なのか? と思ったが、大会はあまり良い結果とは言えないので切られる心配もあるのかもしれない。

「そうだったのか」

 明日葉さんと飾り付けをしながら部屋を調べる。盗聴器や盗撮の機械は見つからない。

 疑い過ぎだったか。


「料理出来たよー!」

 姫花に呼ばれキッチンの前に行く。

「パーティーでしょ?  色々作ってみたんだー」

 自慢げに姫花が料理を見せる。料理の名前とかわからないけど、どれも美味しそうだ。

「凄いな……」

「えへへ、手伝ってくれる人が多いと色々料理が出来て楽しいね」

「レパートリーも腕も私が見てきた中で一番凄いです」

 社長令嬢の加恋も圧巻の料理の腕のようだ。

「食べよ、食べよー!」


 料理を食べ終え、ケーキタイムに移る。

「姫花ちゃん、私に料理、教えてほしいんだけど」

 莉乃が恐る恐る言う。

「莉乃ちゃん!」

 姫花が立ち上がり、莉乃はビクッと体が震えた。

「もちろん、良いよ!  何作りたい?  私に教えられることなら何でも教えてあげる!」

 青春してるなぁ、と思いながらケーキを口に運ぶ。

 視界の端にケーキが入ってくる。

「兎乃君、一口私のも食べてみませんか?」

 加恋がそのままケーキを俺の口に入れる。

「モンブランも美味しいな。貰ってばかりだと悪いから俺のも一口食べて良いぞ」

 加恋にフルーツのタルトを渡す。すると、全員の視線が俺に向いていた。

「良いなぁ、私も兄助にあーんしたい」

「それなら、みんなでシェアすれば良いだろ」

「わーい、やったー!」

 全員が俺のケーキに手を伸ばす。

「え、え!?  俺のケーキ!?」

 そして、みんな揃ってフォークの上にケーキを乗せている。

 企みが含まれた笑顔でじりじりと詰め寄ってくる。

「お前ら計ったなー!?」

 逃げ場を封じられ、みんなからあーんでケーキを食べされる事になった。

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