44 問題児の戯言
「で? まだ私服なのか?」
職員室に入った第一声がこれだ。
「それは俺のせいにされても困るんだが」
俺の担任は良い意味でも悪い意味でも軽すぎる。ダチみたいなノリで話しかけられても困る。
「つーかさ、何で天道さんも巻き込んだの?」
同棲してるなんて言える訳が無いから、どう言い訳するべきか。
「私達、家が隣じゃないですか? 遊びに行ってたんです。その時、制服だったから、その襲われて……」
思い出したくないというのを全面に表情から出している。姫花自身は覚えていないから、演技なのだが。
「ふーん、ま、幼馴染だからってこんなアホと連むのが間違いってことね」
面倒そうに書類に何かを書いている。
「誰がアホだ」
「お前。アホ呼ばわりされたくないなら真面目授業出ろ、最低限の事が出来てない奴は社会に要らないぞ?」
正論すぎて何も言い返せない。
「とにかく、さっさと授業出ろ。あとお前は体育は見学な」
小さくガッツポーズをする。
「早く治さないと体育祭で死ぬ事になるぞ?」
「死ぬって何だよ!?」
教室のドアを開ける。みんな静かに授業を聞いている中、欠伸をして席に座る。
隣の加恋がウズウズしているが、結局真面目に授業を聞いている。
教師は俺に構う事なく授業を続けている。
昔からノートは取らない主義だ。教師の説明を聞いて授業を過ごす。
そして、何事も無く授業は終わった。
「おかえりなさい。兎乃君」
加恋が椅子を寄せる。
「ああ、全て終わった」
加恋は大体察したようだ。
「姫花さんはもう学校来てるんですか?」
「ああ、というか、俺の方が重傷だったらしいしな」
加恋が涙ぐんでいる。
「毎日毎日、心配で、私……でも、良かった、またみんなで遊びに行けるんですね!」
加恋は涙ぐみながらも何とか笑顔にした。
首を縦に振る。
「海にプールに山にキャンプに花火、夏になればたくさん遊びましょうね?」
興奮して今にもジャンプしそうだ。
「分かった分かった」
「でも、その前にテスト期間がありますから、それも頑張りましょうね」
よくよく考えるとテスト期間と世界大会が被っている。これは……大変だ。
「おーい、ホームルームだぞー?」
担任が入ってきた。
「あ、真島居た。じゃ、全員居るか」
どういう判断の仕方だよ。
「近頃、危ない事件もあったし、気を付けろよー?」
危ない事件、トラックに轢かれたアレのことだろう。
「聞いてるか? 真島、お前のことだぞー」
やっぱり俺の事だったか。
「そっすね〜」
適当に返事をして、欠伸をする。
「はい、解散。お疲れー」
この適当教師め。真っ先に教室を出て行った。
「あ、そうだ。加恋、今日家来るか?」
加恋が口を手で押さえる。
「え、えっと、その」
加恋はまごまごしているし、クラスの女子からは嬌声が聞こえる。男からは冷ややかな視線が飛んできている。
「姫花の退院祝い、莉乃も呼んでやれば良いと思ってたんだけど」
「あ、ああ! そういう事ですよね!」
何かを納得しようと加恋は頑張っている。
「是非行かせてください」
姫花を迎えに教室に行く。姫花はみんなから囲まれている、相変わらず凄い人気だ。
「あ! 真島先輩と加恋先輩!」
姫花がこっちに来た。
「退院祝いをしようと思ってさ」
「え! 嬉しい」
笑顔の姫花にこっちまで嬉しくなる。
「莉乃も来るだろ?」
羨ましそうにこっちを見ていた莉乃に声をかける。
「え、オマエ、案外良いところあるんだな」
驚いて目を丸くしている。
「莉乃ちゃん、良く無いよ、そういうのは」
姫花が莉乃の頬をつまむ。
「痛い、結構痛い〜」
なす術なく莉乃は姫花にやられている。
「はいはい、そこまで、買い物にも行かないと行けないから、そろそろ行くぞ」
「兄助、今財布の中は?」
姫花の質問に加恋と莉乃が固まる。
「入ってる」
珍しい事に財布の中にお金がある。もちろんお昼を食べに行く為に用意しておいたからだ。
「珍しい、凄くびっくりだよ」
姫花が驚き足を止め莉乃がドン引きしている。加恋はさっぱり分かっていない。
「ヒモだったのか?」
莉乃が汚らわしいものを見る目で俺を見ている。
「いや、お金を持ち歩かないだけ」
莉乃は怪訝な顔をしている。全く信頼が無い感じか。
「じゃあ、このまま買い物行く?」
姫花の提案にみんながうなずく。
「それが良いと思う」
駅前のケーキ店さんに着いた。
「お、おあああ!!」
「あ、スイッチ入った」
目の前には色取り取りのスイーツがある。並んだケーキに目が奪われ視界が離せない。
「兎乃君、目がキラキラしてますけど」
「まあね、今はスイーツ大好き甘可愛系兄助だから」
「あ、あまかわ……系?」
優しい目をした姫花と困惑の表情を浮かべる加恋と莉乃。
「やっぱり全部食べたい」
「予算オーバーだからね。兄助」
冷静な姫花の言葉がぐっさりと胸に刺さる。
「そんな……」
肩を落とす。
「学校に居る時と全然違いますね。さっきまで死体みたいな状態だったのに今は生き生きしてます。これがギャップ萌え……!?」
加恋が顔を火照らせこちらを食い入るように見ている。
「姉様!? 戻ってきてください!」
莉乃が加恋の肩をどれだけ揺さぶっても加恋は正気に戻らなかった。
「俺はケーキは何でも好きだ」
堂々と3人に言い放つ。
「うん、知ってるよ。兄助」
「まあ! 全種類買いましょう!」
「正気に戻ってください!」
冷静な姫花と発狂した加恋と加恋を正気に戻そうとしている莉乃、3人の様子を見るのも楽しい。
「予算はあるから、選ぼうか。仕方ない」
ケーキを眺める。どれも美味しそうだ。これは悩む。
「仕方ないじゃなくて、普通のことなんだけどな……」
疲れ果てながらも莉乃がツッコミを入れる。性分なのだろう。
「みんなでシェアすれば良いと思うんだけど」
姫花の方に全員が向く。
「え? どうしたの普通じゃない?」
ここで姫花は気付いた。私以外、友達居ない人しかここには居ないと。
「凄いです。そんな方法があったのですね。姫花さん」
「姫花ちゃん、凄い」
「マジか……そんな手があったのか……」
「も、もう! みんな正気に戻ってよー!」
俺はフルーツタルト、姫花は苺のショートケーキ、加恋はモンブラン、莉乃は抹茶のケーキ、凛さんはガトーショコラ、明日葉さんにはチーズケーキを買って帰ることにした。