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43  日常への帰還

「えへへぇ、兄助ぇ」

 デレデレと姫花は腕に抱きつき離れない。

 起きてからずっとこの調子だ。

「よくもまあ、人前でデレデレ出来るもんだな」

 桜川刑事がため息を吐く。

「まあ、ずっと寝てたし、少しくらいはさ」

「そうだよー、寝てる間に優勝してて、かっこいい所見逃したし、このくらいは罰当たらないよねー」

 どうせ何を言っても聞いてくれないから、甘えたいだけ甘やかせてやることにした。

「学校でもこんな感じなのか?」

 桜川刑事の疑問はもっともだ。

「いや、学校はな、もう少しだけ真面目なんだ。いや、俺が居ないと普通に真面目な優等生か」

 姫花がピースしている。

「これでも学年一位です。いえーい」

 桜川刑事が俺に視線を送る。

「本当だ」

「時代は変わったな」

 おっさん臭い事を言って椅子にうなだれた。


 病室のドアがノックされ、スーツの男2人組が入ってきた。

「私は一課の広田と……桜川」

 スマートで渋い面長な顔の中年の男と普通の中年の男だ。スマートな方が広田と名乗っている。

「悪いな、広田。こいつはもう事情聴取中なんだ。お前の出る幕はねえよ」

 広田刑事の方はピクリともしないが桜川刑事は牙を剥いている。流石、狂犬。

「申し訳ないが、所属も指揮系統も違う、もう一度話してくれないか、君達」

 丁寧な物腰だ。

「分かりました」

「協力に感謝する」

 桜川刑事は子供っぽく顔を背けた。


 事件の事を改めて広田刑事に洗いざらい話した。

「なるほど、ありがとう」

 広田刑事は立ち上がり、部下を連れて、お辞儀をして部屋から出て行った。

「兄助さ、クラスに広田って名前の人居るよね?」

 全く覚えが無いが姫花が言うのだから居るのだろう。

「あの人、お父さんだよ、たぶん」

 何気なく言われても興味は湧かない。

「告白された事があるんだけど、断ったら、クラスの友達から勿体無いーって言われたのを思い出したの」

 姫花に告白するとは不届きな奴だ。

「スポーツ万能でイケメンで親は警察の偉い人みたいな話してたけど、私には兄助しか見えないから大丈夫だよ?」

 何が大丈夫なのかは分からないが、陽キャのモテる奴なのはよく分かった。興味は無い。

「今来た広田もキャリア組で最終的には警視総監コースだから、たぶん、そいつだろうな」

「へー」

 全く興味を示さず、スマホのソシャゲのログイン作業に入る。

 姫花と桜川刑事は困った顔で顔を見合わせていた。


「明日から学校行けるってー!」

 嬉しそうに姫花が診断書を見せてくる。

「そうか」

 俺の方も骨にひびが入ったままだが、普通の生活に戻れるようだ。

「おう、お前ら良かったな。家の方もあの凛って人と有馬が寄越したリフォーム会社で何とかなるって話だ。費用も当然有馬持ち」

 のんきに笑ってやがる。

「まあ、あの家で何人も死人が出てるけどな」

「気をきかせてやってるのに、お前はすぐそれだな。こいつの相手すると疲れるだろ?」

 皮肉が返ってくると考えたのか姫花に同意を求め始めた。

「全然そんなこと無いですよー」

 姫花にも否定され、桜川刑事は頭を掻いてため息を吐く。

「まあ、何だ、今回はお前に引っ張り回されただけだったが、何かあった時はすぐ駆けつけてやる」

 鼻息を荒くし息巻いている。

「そうか、なら、ぎゅ……」

「お前はサツをパシリに使おうってか?  公務執行妨害でブタ箱に突っ込まれてえってことだろ」

 牛丼って言おうとしたところを遮られた。本人は本気で怒っている。

 頭を下げる。

「すんませんした」




 翌日。

 退院して、学校に行き、家に帰る流れになっていた。姫花の考えなので従わざるを得ない。

 姫花と並んで学校への道を歩く。病院を出るのが遅かったので授業は昼からだ。

「お昼何処で食べる?」

 私服でキャリーバッグを持って歩く姿は、とても登校中とは思えない。キャリーバッグの中身は入院中の着替えだ。

「姫花の好きな所でいいよ」

「良いの?」

 上目遣いの姫花にうなずく。

 一瞬、笑顔になった後、うんうん悩み始めた。

「むむむぅ……」

 好きな物にすれば良いのに腕を組んで悩んでいる。

「うーん、やっぱり、ファミレスかなぁ」

 悩み抜いた末の答えはファミレスだったようだ。


 ファミレスに着いた、人は多いが待たずに座る事が出来た。

「何でファミレスだったんだ?  お金はあるぞ?」

 日本大会優勝分の賞金があるからお金はある。

「え、うん、でも、たまにはファミレスも良いよね。料理のレパートリー増やしたいなーって、ファミレスは色々あるし」

 メニューのサラダやカレーを指差してニコニコしている。

「ふーん。ついでに俺の分も選んでくれ」

「どういうこと?」

「参考にしたいんだろ?  適当なの選んでも仕方がないだろ」

「うん、分かったよ!」


「改めて日本一おめでとー!  兄助」

 面と向かって言われると少し照れ臭い。

 ウェイターも混雑時で客の話に耳を傾けたりはしていない。

「ああ、うん」

 パスタを半分に分け、姫花の皿に入れる。

「照れてる?」

 姫花もハンバーグを半分にする。

「さあ?」

「えー、何それー」

「俺が勝つのはいつもの事だろ?」

 言っていて少し恥ずかしい。

「そうだけど!  いつも目の前で勝ってるのカッコいいと思ってるもん。自分の為に頑張ってくれてる人がカッコよくないわけないじゃん」

 流石に真っ直ぐなカッコいいは照れる。

「私だけのカッコいい王子様で居て欲しいんだもん」

 王子様ってお前。

「まあでも、俺も姫花が居てくれないと寂しいというか、月さんの時はホントに危なかったというか」

「え!?  そ、そうなの? 」

 テレテレしながら満更でも無い顔をしている。

「ああ、もちろんだ。ずっとルイスと……」

 しまった、まだルイスに何も言ってない。

「あ、ルイスにはメールしたから大丈夫だよ」

 姫花はサラダを分けながらサラッと言った。

「そうなのか、いや、それなら良いんだが」

 サラダを口に運ぶ。

「仲良くなってたねー」

「そうだな。飛び蹴りされる程にはな」

「ええ!?」


「ごちそうさまー」

「ごちそうさま」

 お金を払いファミレスを出る。

「レシピ見るだけより、やっぱり食べてみないとレパートリーは増えないよねー、兄助、ありがと」

「俺も助かるしな」

「えへへ、兄助が望むなら何でも作ってあげるからねー」

 姫花が腕に抱きつく。

「おーい、そこの君達!」

 後ろから声をかけられ、振り向く。自転車に乗った警官がこっちに来ている。

「高校生だよね?  今何時か分かってる?」

 桜川刑事に電話をかけて、警官に渡す。

「え?  何?」

 何とか言いながらも電話を受け取った。

「あのあなたは?  え?  はい?  ええ!?  すみませんでした!」

 警官が電話を切って返す。

「ごめんね?」

「あ、はい、じゃあ、学校行ってきます」

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