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40  深海の都市

「準備は出来ましたか?」

 店で準備を終えてギルドハウスに戻ると、ソファーに座ったシューベルトが待っていた。

 腹立たしいが、今は言っている場合じゃない。

「ああ、出来た。いや、一つ」

「何ですか?」

「お前が使ってたペストマスクがあるだろ、あれが欲しい」

「構いませんよ」

 シューベルトがメニューを漁り、ペストマスクを取り出す。

 それを受け取り、すぐに着けた。

「プレイヤーIDですぐバレるけど、それ以外ならバレないだろ」

「用意周到ですね。服装も一新させたのも悪くありません」

 ライダースジャケットを羽織り、ズボンもパンクな物にしておいた。おまけのペストマスクで変装は完璧だろう。

「さあ、行きましょう」




 シューベルトと共にワープをする。

 ワープが終わる。水を通した日の光、魚群に、大きな魚、そして、石造りの町と城。

「着きましたよ」

「ここが、アトランティス」

 海中に出来た大きな泡の中にある都市アトランティス、その端に着いていた。

「彼女は城の玉座に囚われています」

「そうか」

 鍛冶屋で買ったスレッジハンマーを装備して、前に進む。

「進化について、少しだけお話しします」

 呼び止めるかのようにシューベルトが話し出す。

「人間は脳を10%しか使用していません。それは勿論、100%使えば脳が傷むからです」

 足を止めて話を聞く。

「進化とは、脳を100%使える状態に維持できるようになる事を指しています」

「種としての進化では無いと言う事か」

「ええ、そうです。恐竜が爬虫類になるような進化では無い」

 シューベルトがわざと間を作る。

「私や君のような酷い体験をした人間は進化の形が歪になるのです。感覚能力に特化した進化、判断能力や思考回路に特化した進化のように」

「それで?」

「これから会うであろう、ダンテも我々と同じなんですよ。折角、日本大会優勝したのにここで消えるなんて事しないでくださいね? 」

 シューベルトは俺とは違う方向に歩き出す。何なんだ、あいつ。




「ハイ!  パピー」

 面倒事を抱えてそうな美人の女の声が聞こえる。

 目の前の道からライダースーツの女が走ってきた。

「私のパピー、元気だった?  ちょっと助けて欲しいんだけど」

 女の後ろから、武器を持った魚人が群れを成して襲いかかってきている。

「返事が無いけど、私のこと忘れたの?」

 鮮やかな長い黒髪をふわりふわりと揺らしながら走って来る女の名前はマオ、腕の確かな情報屋で、昔にカインドさんから紹介された。

 何故かパピーと呼んでくる。子犬ってどういうことだよ。

「はぁ、変装してるのに即バレかよ」

 面倒に面倒が重なりため息が出る。

「あら、愛しのパピーなのに私が分からない事があると思ってるの?」

 マイペースに逃げながら言っている。逃げる事に集中しろよ。

「知るか」

 マオが後ろに逃げた所で魚人の頭にハンマーを叩き込む。

 魚人達のターゲットが俺に向いた。ギロリと俺を睨むが、別に怖くとも何とも無い。

「肩慣らしと行こうか」

 槍や刀、剣が振り上がる中、回転切りのようにハンマーで魚人のスネを砕く。

 運良く攻撃を避けた魚人が一歩下がる。

「グェ!?」

「逃げられると思うなよ?」

 下がった所を素早く接近し、首を掴む。そして、頭を地面に叩きつけた。

 残りも手早く片付けてマオの下に行く。


「改めて、ハイ、パピー、元気?」

「何やってんの?  マオさん」

 迷いのマオ、そんな通称で有名なマオ。

「実はね、この侵入禁止区域に、あのバルキリーが保管されてるって聞いて、確かめに来たのよ」

「そうだな。じゃあ、帰れ」

 ついて来るとか言う前に牽制しておく。

「あらパピー、女性の口説き方を知らないの?  そんな冷たい言葉で女の子が靡くなんて幻想よ?」

 マオが服の埃を払う。

「いや、話逸らしても絶対について来させねえからな!」


 結局、言いくるめられて付いて来られてしまった。

「そう言えば、ここにパライソちゃんが居るって聞いたのよ」

「誰だよ、それ」

「知らないの?  日本3位、皇国第0部隊のギルドマスター、パライソちゃん」

 名前くらいは何処かで聞いたかもしれない。

「そいつが何でこんな所に居るんだよ」

「知りたい?  そうね、私、安売りは嫌いなの、高い女だもん、だから、私と一夜、それでどう?」

 ライダースーツの開いた胸元を見せてくる。胸の大きさは出会った人の中で間違いなく一番大きい。

「いいです。結構です」

「んん、つれない」

 金属と石、たぶん、地面がぶつかる音が微かに聞こえた。音の出所は道のこのまま真っ直ぐ先。

 何かがこっちに飛んで来ている。ハンマーでガードして地面に落とした。

 円形の刃の投擲武器、チャクラム。

 まさか、ダンテの攻撃か!?

 すぐに武器を構え直す。

「パピー、パピー、チャクラムはパライソちゃんの武器よ。もしかしたら、さっきの魚人と戦ってるのかも」

 期待した目で俺を見ている。

「仕方ない、行くぞ」


 道を真っ直ぐ行った先にある城の前の大広場にたくさんの魚人が集まっている。その中心で1人誰かが戦っている。まず、間違いなくパライソだ。

 と、思うのだが、魚人に隠れて見えないから、確証は持てない。

 それにこの先の城にヒメキチが居る、助けている時に挟み撃ちにされる可能性を考えると、ここに居る魚人を放置はしたくない。


 こちらに気付いていない魚人をハンマーで叩き潰す。

「グァァァァァ!」

 断末魔をあげられ、周りに気付かれてしまった。何だ何だ、とこちらを向く。

「ダメだな。いつもなら声さえ上げさせずに潰せるのに」

「来てるわよ、パピー」

 物影に隠れたマオが手を挙げ応援している。

「分かってるっての」

 近づいて来た魚人の顔にハンマーを叩きつける。


 魚人と魚人の間からチャクラムが飛んで来た。

「危ね」

 魚人が急に倒れる。倒れた魚人の首にはチャクラムが刺さっていた。

「腕は確かな様だな」

 魚人達が倒れ、広場の中心が見えるようになった。


 小学生くらいの女の子がチャクラムを持っている。

「ガキ!?」

「誰がガキだ!  私は立派な大人だ!」

 本人は必死に否定しているが、ギャグにしか見えない。どう見ても小学生、下手すると幼稚園児だ。

「あらパピー、彼女は成人してるわよ、去年」

「去年!?」

「レディなの、素敵なね」

 魚人をハンマーで殴り倒す。

「ええ、あるカルトの巫女さんで未来予知が出来るのよ。下手な占い師よりは当たるって噂なの」

「褒めてないだろ!」

 パライソが怒ってチャクラムを投げまくる。

「えぇ、ガキで成人でカルトの巫女って、キャラクターが渋滞してるだろ」

「どういう意味だ!  私、泣くぞ!」

 泣くのか。


 魚人の処理を終えた。逃げていたマオも集合し顔を合わせる。

「何だお前、何でマスクをしている」

 いきなりこれである。

「そうね、IDですぐ分かるのに何で変装をしているかしら」

「ここで叩き潰せばバレずに済むと思うんだが」

 2人の憐みの視線が辛い。

「やめておいた方が良いわね。ヒメキチちゃんみたいな子を増やしたくないのなら」

「どういう意味だ?」

「正規のエリアじゃないからね。倒されると街にリスタート出来無くなって、ついでにログアウトも出来なくなるのよ」

 危うくパライソを殴り倒す所だった。

「私達は一蓮托生ってことね」

 1人でヒメキチを手早く助けて帰るつもりが何でこんな事に。

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