4 ギルドの話
「せやせや、僕今日の夕飯カレーにするつもりなんやけど、何カレーを食べに行こかと思って、何かアイデア無い?」
急な影月の話に露骨にヒメキチが嫌な顔をしている。
「ベル、今日の夕飯はハンバーグにしない?」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
「ちょ、ちょ、僕と同じが嫌やからってそこまでせんでええやん」
「食べてるときに顔がちらつくのが嫌!」
びっくりするくらいどストライクな罵倒に笑いがこらえきれない。そんなに嫌なのか。
「そいえば、他のメンバーの事は聞いた?」
立ち直った影月が話を切り出す。
「いや、全く」
過去のメンバーのことは何一つ知らない。
「じゃあ、まずウィルはんからな、そうとう会いたがっとったで? 凛聖女協会っていうギルドに所属しとるな」
「凛聖女協会……」
聞いたことの無いギルド名だ。始めたばかりだから仕方がないが。
「西園寺っていう製薬会社があるやろ? そこの令嬢の西園寺可憐って言うのがギルドマスターで有名やな。あ、ちゃんとカレンってカタカナにしとるよ」
「ふーん」
正直、そっちには興味が無い。
「ギルド的にはウィルはんの回復能力と判断力のおかげで負けなしやな。その代わり引き分けも多いけどな」
ウィルは率先してヒーラーをやっていた。ウィルが出ると負けが無くなることで有名だったが、今もまだ健在のようだ。
「次、ハイドはんな。銀龍旅団っていうギルドに居るな。まあ、プロのバスケの選手やし、って言いたいところやけど、結構居るんよなぁ」
ハイドはガンナーだ。相手を狙い撃つ集中力は抜群で、ハイドが出るとゲームがすぐ終わる。ゲームを集中力強化の為と言っていたがあれは根っからのゲーマーだ。
「O・ゼロはんなぁ、自分でギルド作って遊んどるらしいで」
「あれは? 雷帝魔王、このオレ、O・ゼロ見参! って奴はまだやってるの?」
O・ゼロ、通称ゼロ兄は中二病が過ぎた言動で有名だ。まあ、子供からの受けも良いのだが。
「パワーアップしとったで、雷帝魔神、絢爛魔王やって」
「マジか……」
ゼロ兄は広範囲高火力の魔法をぶっ放す戦い方が特徴だ。もちろん、味方を巻き込む。
「虎助はん、行方不明やなぁ、たまぁに名前見るから居るんやろうけどなぁ」
虎助、ギルド内では最年長で薙刀を使った居合や殺陣みたいな戦い方をする。落ち着きのある人でギルドの大黒柱のような人だった。
「最後のクリスティーナはぁ……アイドルやっとるな」
「アイドル?」
「せやで、モニターとか見とれば出てくると思うで」
ヒメキチがモニターを見せてくれると歌って踊っているクリスティーナの姿を確認できた。
クリスティーナは、端的に言えばギャルだ。おしゃれが好きでよくヒメキチなどの女性陣で買い物をしていて、面倒見も良い。
その反面、味方を巻き込む戦い方のゼロ兄にはあたりが強い。
本人は身の丈よりも大きなハンマーを使っている。
後は亡くなったギルドマスターのカインドでメンバーは総員10人で全員だ。
ギルド、九頭竜商会、それは、世界一位のギルド、たった10人で世界を獲った伝説のギルドとして語り継がれている。
「憂鬱な顔やな。分かるで」
「何が?」
「それはそうと、新しく強い奴も増えてきてるわけで、楽しみも増えると思うで」
無理矢理話を変えられた気がする。自分から振っておいて。
「その前に俺自身がもっと強くならないとなぁ」
「うわぁ、謙虚や、ゼロに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいや」
「まず、お前が飲めよ……謙虚さの欠片も無いだろ」
「せ、正論やな」
「ザイン君、そろそろご飯の準備しないといけないから、私抜けますね」
ベルが手を振っている。
「らしい、と言う訳で出て行け」
「酷くない? 僕への当たり強くない?」
「というか、ギルドが違うだろ。何でここに居る」
「え? かつての仲間やん、ね?」
「はいはい、強制退去ねー」
「そんなー」
影月の姿が消えた。
ヒメキチが親指を立てている。
「飯にするか。ハンバーグでいいよ」
メニューを開いてログアウトする。
「ふぁ~」
器具を外して伸びをする。久々のVRMMOで疲れた。
「後ろからむぎゅ~」
姫花が後ろからそーっと近づいてきて抱き着いてきた。姫花のいつもの匂いと柔らかさが伝わって来る。
「リビング行こー」
「はいはい、分かった分かった」
姫花に腕を掴まれたままリビングに入った。キッチンでは凛さんがもう夕食の準備をしていた。
「本当に姫ちゃんは兎乃君が好きなんですね~」
「うん、誰にも負けないくらい好き!」
凛さんに満面の笑みを返す姫花はそのままキッチンに行き凛さんの手伝いを始める。
暇になったのでリビングのテレビをつける。
「今日午前、チャイニーズマフィアのボス、黒浩宇が都内のビル内で銃で撃たれ死んでいるところを発見されました。周囲にまだ犯人が潜伏している可能性があり……」
ニュースを流し見ながらスマホを見る。
「ヒメキチ、ベルと一緒に居た謎の男……ね……」
もう話題になっているようだ。
「凄いね、流石兄助だよ」
姫花がハンバーグを丸めながら後ろから覗いている。
「俺のことは書かれて無いけどな、アインに憧れて名前を似せた変な奴くらいにしか出てこないぞ」
「本人なのにねー、みんな見る目が無いんだよ」
「見る目とかそういう問題か?」
通知が鳴る。
かつてのギルドメンバーのクリスティーナからだ。
「戻って来たの? ヒメちゃんとベルさんと居るのアイン君じゃん」
返信しようとしたところ大量の通知で妨害される。
「兄弟!」
「戻って来たんですね!」
「待ってたぞ! 兄弟!」
「私」
「さあ、一緒にやろうか! オレとオマエのロードは再び始まる!」
「私、待ってたんです! ついにですね! というか報告したいことがあるんです!」
ゼロ兄とウィルが何度もリプをとばしてくる。
返信が出来ない。元クランメンバーしかこのアカウントは知らないが、うるさい二人に捕まってしまった。
「大丈夫、後で連絡すんねー」
クリスティーナは察したのかこれ以上送って来なくなった。
スマホをソファーに投げ捨てる。
「あはは、あの二人は大変だよー?」
「見れば分かる」
姫花と凛さんのスマホも通知が鳴り響く。
「ついにこっちにも来ましたね……」
「本当に自由だな、あの二人は」
時刻は7時を回りバラエティー番組が始まる。
「出来ましたよー」
配膳を手伝う。料理が出来ないからこれくらいはしないと。
いつも通りの夕食が始まった。
いつものように姫花の話を聞きながらご飯を食べる。
楽しそうに凛さんと話す姫花を見る。笑顔が本当に天使のようだ。
「あ! 兄助、週末の課題!」
リビングに置いてある姫花のカバンからプリントを取り出してきた。数学のプリントだぁ……
「出さないと本気でキレるって言ってたよ?」
「マジか……」
「一緒にがんばろ?」
「まるで姫ちゃんの方がお姉さんに見えますね」