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38  願いの末路

 終わったと思ったのに、俺はまだ闘技場の中に居た。

 指輪が輝いている。

 ヒメキチに貰った指輪だ。

 そういえば、食いしばりのスキルが付いていた。そのおかげでHPが1だけ残っているのか。


 槍を掴む。

 観客席はお通夜状態だ。

 立ち上がって、心臓から槍を抜く。

 バルキリーがウタヒメを拾う。

 力を振り絞り、槍をバルキリーに投げつける。

 バルキリーはウタヒメで槍をガードしたが、押し負けウタヒメと槍を弾き飛ばした。


「食いしばり、残りHP1のあなたと全快の私、まだあなたは一撃もわたしに攻撃出来ていません、力の差は歴然です」

 バルキリーが槍を拾い、オレはウタヒメを拾う。

「ああ、そうだな」

「なら、何故、戦意が高揚しているのですか?  ありえません」

「つまんねえこと言うよなぁ。それに、勝手にお通夜してる奴らも居るし」

 嘲笑う。


 カインドさんと初めて戦った時、俺は文字通り手も足も出なかった。途中まで一撃も当てられなかった。でも、最後の最後、一方的過ぎる試合に観客もお通夜状態だったが、足掻いていて足掻いて足掻いた結果、あと一歩で手が届くところまで行ったのだ。どれだけの人が終わりだと思ってもまだ勝ちの目はあったのだ。


 今も同じだ。まだ終わってない。終わるはずがない。

 ヒメキチに助けられたんだ。助けて欲しいって待ってるはずだ。見捨てるような事は死んでも出来ない。


 全ての武器を一度収める。素手になった。

「何故武器を収めるのですか?  それでは勝ちを放棄しているようにしか……」

「捨てゲーなんかした事もない。生憎、俺はいつでも全力だ」

 いつでも後ろでヒメキチは見ていた。手を抜くなんてカッコ悪いことは出来ない。

「いつでもかかって来い」

 余裕の笑みで手招きをする。

 もう迷いは無い。勝ちだけしか見えない。


 バルキリーが槍を構え走ってくる。

 バルキリーの槍に合わせて、剣を持たず構える。

「な!?」

 驚いたがバルキリーは止まらない。槍の振りを掻い潜り、槍の届く範囲を越え、内側に入った。

 即座にバルキリーはバックステップをする。

 手だけでバルキリーの脇腹に剣を振る。

 当たる直前で適当に武器を手に取る。

 ラブリュスの刃がバルキリーの脇腹に直撃する。そして、遠心力で一回転してしまった。

 ラブリュスが両刃の斧で良かった。

「何が起きて……」

 バルキリーから見れば脇腹のすぐ近くでラブリュスが出てきて脇腹を痛打したということだ。

 まだ半分近くバルキリーのHPは残っているが。

「まず一撃」


「何をしたんですか?」

 脇腹を押さえながらバルキリーが呻く。

「そうだな。聞かれたなら、答えよう。俺みたいな武器を多く扱う奴は武器をメニューから取り出すだろ?  攻撃が当たる直前で武器をメニューから取り出しただけさ」

 影月やヒメキチは武器を一本に絞っているので腰や背中に装備しているが、俺は色々な種類の武器を使うからメニューに置くしか無い。

 もちろん、メニューの中は俺以外は見る事が出来ない。

 バルキリーは俺の意図に気付き、顔を曇らせる。

「俺が武器を取り出すまで、どういう攻撃か、誰にも分からないってわけだ。もちろん、弓とか外れもあるけど、そこは俺の腕でカバーしてみせるさ」

 自信満々の笑みに観客のボルテージが上がる。コールが聞こえ出す。忙しい奴らだ。


「だが、あなたに勝ち目はありません。私の反応速度はあなたと比べ物にならないくらい」

 槍を構えバルキリーが跳んだ。

「ああ、そうだな」

 バルキリーの言葉を遮る。

「まあ、反応速度だけなら、俺より凄い奴はそこら中に居るけどな」

 バルキリーの槍をしっかり引き付けてギリギリで避ける。左脇腹に擦りながら槍は地面に刺さった。

「どんな奴でも隙は出来る。俺達はそれが極端に小さいだけなんだ」

 槍を避けられ隙だらけのバルキリーを蹴り落とす。

「槍みたい長物は隙が大きい。お前は当たる時以外振らないっぽいけどな」

「何故、避けられる。そんなパターンは」

「無いかもな」

「矛盾しています。無いのに何故ダメージを受けていません、そんなことはあり得ません!」

 激昂するバルキリーに左手を見せる。

「ナイフ?」

 左手に持っているナイフの刃が折れ、地面に落ちる。

「ナイフに当てて防いだ。だから、当たってる。わざわざ服の中でナイフに当てたから、お前には見えないよな」


「無茶苦茶だ。あり得ない。奇跡だ。そんなパターンは今まで一度も無かったし、誰もやろうとしなかった。何故そんなことが出来るんですか?」

 憔悴するバルキリーに笑いかける。

「出来ないと負けるからな」

「それだけ?」

 返答の呆気なさに茫然としている。

「ああ、勝ちたいって気持ちと考える冷静さが有れば誰だって出来るものだしな」

 息を吐く。

「俺が最強なのは、それだけは誰にも負けないからだ」




「さあ、続けようぜ。それとも降参するか?」

 バルキリーは無言で槍を構え突撃してくる。

 しっかりと胸の中心を狙って、ナイフで防がれてもそのままナイフを折ってダメージを与える気だ。

 槍が胸に届く直前で、槍を掴んで止める。そして、胸から狙いを外す。

「え……」

 何が起きたのか理解できずバルキリーは止まった。

「俺の記憶する限りなら、誰も攻撃中の武器を掴んで止めるなんてして無かったな」

 槍を引いて、手を剥がそうとしているが、ガッチリ掴んで放さない。

 今度はしっかりとウタヒメを持ってバルキリーの腕を斬り付ける。バルキリーは槍を持ってヨロヨロと下がった。

「データを修正しても、修正しても超えられる……そんなことデータベースには無い」


「悪いな。俺は最強だから、負けることは無いんだ」

 バルキリーは槍を心臓に向ける。

 槍を肘で叩いて狙いを外す。

 バルキリーのバイザーを真っ二つにしながらバルキリーを斬る。

 バルキリーのHPが0になった。


「す、凄い、凄いで!  ザインはん!」

 影月の声が聞こえて、勝ったことを実感する。

 腕と背中が凄く痛む、鉄パイプで叩かれた所とトラックに当たった場所の痛みが耐えられない。

 その場で倒れた。目眩もする、意識が保っていられない。

 怪我は包帯を巻いただけで処置を受ける前に病院を出て行ってしまった。そのツケだろう。

 影月達が駆けつけてくるのが見えた所で意識を失った。




 目が覚めると、見知った病院の天井が見える。

「あ、あぁ」

 呻き声を上げながら起き上がる。

「お前って本当に馬鹿なんだな」

 凛さんに桜川刑事と加瀬刑事が居た。

「桜川刑事、こんな時に言うのは」

「分かってる!  ちょっと黙ってろ!」

 桜川刑事はいつもより随分と荒れているし、加瀬刑事は落ち込んでいるように見える。

「よく聞け、お前がエキシビションに勝った後、お前は倒れた」

「いや、それは分かってる、そんなことより姫花は?」

「見つかった」

「早く言えよ!  何処で見つかったんだ?  無事なのか?」

 桜川刑事に掴みかかる。

「ここだ」

 桜川刑事が俺を振り払って言う。

「ここ?」

「そうだ、この病院だ。お前が抜け出した直後に運び込まれた。偽名でな」

「経緯なんかどうでもいい、で、姫花は?」

「起きねえんだ。一度も。医者も分かんねえって言ってる」

 桜川刑事の言葉に体の力が抜ける。

「今は植物状態で、何も分かんねえんだ」

 震える身体でベッドから立ち上がる。

「お前……」

「場所は?」

「隣だ」


 力の入らない身体で何とか隣の病室まで手すりを伝って歩く。


 部屋に入ると、天使のような寝顔で寝息を立てている姫花が居た。

「……姫花」

 ベッドまで行って姫花の手を握る。

「お前」

 桜川刑事達も来た。

 大きな水滴が姫花の手に落ちている。

 誰も声を出せない。

 俺は嗚咽と共に涙を流していた。


 その時から、声が出なくなり、身体に力が入らなくなって動けなくなってしまった。

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