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37  純白の血

 ショックで膝をついてしまったが、なんとか立ち上がった。

 バルキリーはこちらを待っているかのように動かない。

 深呼吸をして剣を構え直す。

 バルキリーは槍の先を下ろし、こちらを見ている。

 分からない、何もかも、どう戦えば良いのか見当もつかない、焦っていると思う。

 バルキリーの出方を伺うしか無い。

「表情から焦りを観測しました。戦える精神状態では無いでしょう」

 バルキリーからはヒメキチのような元気さは無い、機械的な感情の無い声。

「余計なお世話だ」

 声が震えている。剣を持つ手に力が入らない。

 深呼吸しながら、集中する。

「あなたが私に攻撃出来ないことくらい」

 バルキリーの姿が消えた。速い!?

「判断できます」

 上から声が聞こえる。棒高跳びのように槍を使って跳んだのか。普段、自分でやっていることなのに、反応が遅れてしまった。

 バルキリーの蹴りを顔に喰らって倒れされた。


 このまま負けるわけにはいかない。起き上がる時間を稼が無ければ。

 ナイフを取り出す。

「無駄です」

 ナイフに槍を叩きつけられ、ナイフが飛んでいく。

 無駄の無い精錬された一撃、速さも正確さも判断力も人間のそれを超えている。

 槍を喉先に突きつけられる。




「いやぁ、ガチであかん奴やわぁ」

 あまりの惨状を見て解説席の影月が目を逸らす。客席もお通夜状態だ。

「あ、あまりにも一方的ですね……」

「人間にはどうしても予備動作がいる、歩く為に足を上げるんはどうしても必要やろ?  僕らもそれ見て行動するところはあるんやけど、バルキリーのそれは僕らと桁違いや」

 影月はため息を吐く。

「筋肉の動きを見て、相手の行動を読めるんなら、間違いなく負けんやろな」

「え、えぇ……」

「将棋のAIってあるやろ?  全ての勝ちパターンを知っていれば、その勝ちパターンに持っていけば良いだけやろ?  まあでも、全部覚えてられる人間なんて居らへんしな。そういうところでAIは強いんやな」

「じゃあ、もしかして、今回も……?」

「せやなぁ。たぶん、ザインはんの今までの行動を全てデータ化して、分析しとる。それを後はパターンに当て嵌めておけば、パターンを検索するだけで行動が読めるっちゅうわけやな。それも、リアルタイムで一秒も時間をかけずに」

「は、破格の性能ですね」

「これ、勝てる可能性あるんか?」




 剣を持つ手を右腕を踏まれ、剣を落としてしまった。

「データベースに接続、行動パターンを修正」

 確実にこちらを潰しに来ている。

 パンツが見える。相変わらず際どい紐だ……

「ふへっ」

 気持ち悪い笑いが出てしまった。

「何故笑っているですか?」

 パンツがエロいからなんて口が裂けても言えない。


 しかし、依然勝ち目が無い。前作のスタートワールドオンラインから、試合全てをラーニングしている可能性がある。

 今までに無い、今までの戦い方を超えた戦い方が必要で、それも、バルキリーの反応速度を超えなければ、何も出来ない。

 でも、バルキリーの反応速度を超えることは不可能、人間の俺ではAIは超えられない。

 バルキリーの槍がゆっくりと首に刺さる。逃げるチャンスを与えないように喉先の槍は少しずつ食い込んでいく。

「負ける前に一つ聞いて良いか?」

「はい」


「何でお前のパンツ、そんなに際どい食い込んだエロいパンツなんだ?」

 槍が止まった。バルキリーは質問の内容が理解できずオーバーフローした。

 槍を掴んで首から外し、バルキリーの下から抜け出す。

 HPが7割吹き飛んだが、まだ0じゃ無い。

 姫花がエロいパンツをはくのは、ラッキースケベを起こして俺を誘惑したかったらしい。結局、起こった事は無く、自ら脱いで見せるという手に移ったが。


 停止していたバルキリーが動き出した。

「何故でしょう。あなたにエロいとか容姿のことを言われると嬉しいような……」

 何でこんなところに姫花要素が入ってるんだ……

「知らない、知りたくも無い!」

 手で耳を塞ぐ。


 剣を拾う。

 状況は最悪だ。ノーダメージなら引き分けに持ち込めたが、それすら出来なくなった。バルキリーはもう守るだけで勝てるから、攻めてこない。


 持っているナイフを全て投げつける。バルキリーが槍でナイフを叩き落とす。その間に後ろ側に回り込んで剣で斬り込む。

「ぐっ……」

 最小限の動きでナイフを全て落とし、そのまま槍の柄で剣を防いだ。

 隙が見つからない。

 ラブリュスを左手で持ち、バルキリー本体に追撃する。

 バルキリーは剣を槍で防御したまま、ラブリュスの柄を蹴り攻撃を止めた。

 咄嗟にラブリュスから手を離すが遅かった。バルキリーはすぐに俺の腹を蹴った。蹴り飛ばされ、剣が手を離れ地面に刺さる。

「うあ、あ、あぁぁ」

 呻きながら地面を転がる。壁に叩きつけられ止まった。

 リーチがあるのに精細な動きが出来るから、何処にも隙が無い。

「とどめを刺すことは可能と判断」

 バルキリーが近づいてくる。


 ヤバイ、ヤバイしか出ない。冷静さなんて欠片も無い。頭が回らない。何をしても対処される。

 黒魔の杖を取り出す。魔法で足止め出来れば、立て直せる。

「テンペスト!」

 目の前に竜巻が出来る。竜巻は時間をかけてバルキリーに進軍する。

 これで、時間稼ぎが……


 バルキリーがラブリュスを拾って、投げた。

 ラブリュスは竜巻を真っ二つに裂き、杖に直撃した。ラブリュスは壁に刺さり、杖は手の届かない遠くに転がっていった。


 フェイルノートならと思って取り出すが同じように剣を投げつけられ、弾かれる。

 最後の武器、ライザーシューターを取り出した時には、バルキリーは槍の届く範囲に居た。


「俺は自分の試合見直してるんだけどさ」

 ライザーシューターも斬り落とされた。

「俺を見ているみたいだ」

 バルキリーに足で肩を壁に押さえつけられる。

 手も足も出ずに負けるのは何年振りだろうか。カインドさんと初めて戦った時以来か。


 悔しい。悔しいのに今回ばかりは何も出来ない。

 勝てない。何で勝てない。

 勝たなきゃいけないのに。

 歯を食いしばる。諦めたく無い。


「チェックメイト」

 バイザーで表情は分からないし、声からも感情を読み取れない。

 ただ、バルキリーは槍を俺の胸に突き刺した。心臓のある場所を正確に一突き。

 俺みたいな鎧をつけない、防具が服だけの軽装なら体力満タンでも確実にHPが0になる。


 負け……か。

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