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33  低レベルな兎の争い

「お前な!」

 ルイスにかおにしがみつかれたまま、いつの間にかギルドハウスの中に居て、壁にぶつかり倒れた。

「何するんだ、ぼくのプリティな体に傷がつくだろ!」

 この白兎は何を言っている。名前に兎が入っている分余計に腹が立つ。

「兎肉にするぞ!」

「やっぱりぼくのプリティな体が目当てだったんだ、このケダモノ!」

「ふん!」「ふんだ!」


 しばらくお互いに無言で、俺は装備の整理をしていた。

 するとルイスが目の前のテーブルにぴょんと乗った。

「ぼくはこんな静かなのは嫌だ」

「そうかよ」

 今にも泣きそうなルイスの声を聞きながら整理を続ける。

「ぼくは、いや、全てのギルドの案内役はメタトロン・システムの一部なんだ。でも、ぼくは……こんなのやだぁ!」

 ついに泣き始めてしまった。

「泣くな」

 ルイスの頭を撫でる。

「泣くのは、俺が負けてもう二度とみんなで笑えなくなった時でいいだろ。まあ、俺は負けないからそんな事にはならないんだけどな」

「ナルシスト気持ち悪いぃ」

 泣き止みながら罵倒してくる。腹立つ。

「やっぱりお前、兎鍋に、いや、鍋は嫌だな、兎焼肉?」

「何言ってんの」




 ルイスが何処かから弓と紙を持ってくる。

「何やってんだ?」

 ルイスが半透明の弓を投げつけてくる。顔に弓が叩きつけられた。

「痛っ、お前ぇ……」

「フェイルノート、すっごい弓なんだよ」

 フェイルノート、トリスタンが持つという伝説の弓の名前だ。矢の代わりに風を撃つという、魔法要素の合わさった、扱いの難しい弓だ。攻撃が見えないことや威力が高いことが特徴の攻撃特化の弓で、毒矢や麻痺矢などの矢が使えない。

「本当はギルド依頼の秘密の報酬なんだけど、あげる、だから、絶対勝って!」

 頭を撫でながら考える。

「こっちの紙はね。特別な装備の強化に使う素材なんだ」

 装備強化特別許可証という紙を受け取る。

 ウタヒメの最後の強化素材だ。詳細が分からないはずだ。

「あ、本当に特別処置であげてるんだからね!」

 ツンと顔を逸らす。

「はいはい、ほぼ廃れたテンプレツンデレお疲れ様です」

 頭を撫でられていたルイスが消える。

「お前なんか嫌いだー!」

 顔面にルイスのドロップキックを喰らう。ソファーから転げ落ちた。

「マジかよ」

「女の子の頭を好き放題撫でて、散々セクハラして、純情を弄んだ罰は絶対受けさせるんだからね、べーだ!」

 ソファーの上から見下している。

「マジかよ。お前女なのかよ」

「セクハラ!」




 ログアウトして現実に戻ってきた。

「何やってんだ、お前」

「うるさい」

 桜川刑事の小言に文句を言って式原さんに礼を言って店を出る。

「そうだ。飯奢ってくれ」

「は?」

「寿司が良い」

 車に乗り込み、催促する。

「財布が無い。というか、財布の中に金が入ってた事が無い」

「は?  いつもはどうしてんだ?  買い食いとかしないのか?」

 間抜けな声で聞いてくる。

「基本はしない、行くときだけ入れる。コンビニはカード、チャージして使う奴な」

 桜川刑事が頭を掻く。

「牛丼なら良い」

「グレード下がり過ぎだろ、まあ良いけど」

 秀人に断りのメールを送る。鍋回避成功だ。

「ごちそうさまです!」

「お前もか、加瀬!」


 チェーン店の牛丼で腹を膨らませる。

「ごちそうさまです」

「はい、ごちそうさまです」

 桜川刑事がため息を吐きながら見せから出てきた。

「結構金持ってるんだな」

「桜川刑事は超特別で警視総監直属扱いですからね。組織に縛られない狂犬であり、数々の凶悪犯罪者を検挙したエースですから」

 加瀬刑事が憧れの目で見ている。

「あの野郎の金払いが良いわけじゃねえけどな」

 警視総監をあの野郎と呼ぶあたり、ただならぬ関係なのだろう。

「で、お前これからどうすんだ?」

「今日は病院、明日からは知り合いに泊めて貰うことにする。鍋地獄の始まりか」

 ある程度自由に動ける秀人が誘ってくれてるのだから、頼るしか無い。

「何だ鍋地獄って。まあ、何かあったらすぐ連絡しろ」

 病院まで送ってもらった。




 秀人も都内在住だ。俺の家から近く無いし試合で各地に行くから秀人はあまり家に居ない。

「メロン4つを手土産とか凄いな。俺も果物持って行ったんだけどな。ブドウ」

「そういうところの空気の読めなさが秀人は凄いよな」

「それ、褒めてないだろ」

 朝から暑苦しく鍋を囲み互いに白けた目で見ている。

「ごちそうさま」

「お前、全然食ってないだろ」

「いらねえっての、朝からそんなに食べられるか」

 出かける準備をする。凛さんに大丈夫だった服を取り繕って貰っていて良かった。

「鍵渡しておくぞ」

 秀人が鍵を投げ渡してくる。

「俺に勝ったんだ。お前が月の奴に負けたら俺まで月の下だ。それだけは勘弁な」

「知るか」

 そのまま部屋を出て行く。

「あれ?  今、9時だよな?  それもあいつ制服じゃ無いし……え?  学校、大丈夫なのか?」


「あ、やべ、昼飯を買う金すら今持ってないじゃん」

 マンションを出て、財布の中に何も入っていない事を思い出す。このままではバー・ルークスにも行けない。

 そして、思いつく。

「まあいいや、桜川刑事に奢って貰おう」

 スマホで電話をした。




 桜川刑事に昼飯を奢って貰い、バー・ルークスまで送ってもらった上に帰る為の電車代も貰ってしまった。

 流石に貰いっぱなしは悪いので優勝賞金から返すことにしよう。

 日本大会でも賞金は出る。そこから出そう。


 ログインし装備とジョブの最終確認を終える。

「さて、行くか」

 誰も居ない静けさを自らの声で掻き消す。

「いってらっしゃい」

 ルイスが現れ短い手を振っている。

 手を振り返えし、無言で闘技場に向かった。




「さてさてさて、ザインはん!」

 闘技場で待っていたのは影月1人だった。

 今まで一番多い観客の耳が痛くなるほどの歓声に負けないくらいの大声だ。うるさい。

「良いのか?  仲間を連れてこなくて」

 たった1人で闘技場の中心に立っている。

「もちろん、ベルはんもヒメキチはんも居らんし、タイマン真剣勝負に決まっとるやん?」

 影月がにっこり笑う。

「決まってないと思うけどな」


「ついに、決勝戦です!  今ここで、世界大会への挑戦者が決まります」

 興奮気味のアナウンサーはその後も過去の話、特に俺と影月の戦績の話が止まらない。

「ネット配信もされるんやって」

 嬉しそうに空のドローンを見ている。

「へー」

 あくびをしながら時を待つ。

「興味無さそうやなぁ」

 カメラドローンに影月はピースしている。

「まだ始まらないのか?  始まる前の方が疲れるんだが」

「配信してるのに、あくびしてるし……」

 クリスティーナの呆れ顔が映った。

「あ、ちょ、も、もう始まるって!」

 クリスティーナが顔を隠すのと同時に、銅鑼が鳴った。




「ほへー、フェイルノート。面白いもんもっとるなぁ」

 影月が刀を抜く。

 影月のオーダーメイドの刀、静波、振る時はもちろん、抜く時でさえ、音が聞こえない、無音の刀、うるさい影月とは正反対だ。

 影月の回避能力と速さと合わさり、目で追えなくなり、音も分からないという最悪の状況を作り出してしまう。


 魔法の矢をつがえ弓を引く。矢は風で出来ていて、見る事は出来ない。

 矢を放つ。

 ハープの音と共に不可視の矢が影月に迫る。

 影月は矢を切り裂き、にっこり笑った。

「最強の称号は今日、僕のもんにさせて貰うからな」

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