28 仮面の奴隷
ギルドハウスに出るようにログインしたはずなのに何故か始まりの草原に出ていた。
そして、チンピラに囲まれている。
ワープ機能も使えない。
更に予想通り右腕も動かない。
「ザインだな?」
「いや、違うぞ」
一言だけ言って素通りしようとすると、囲み直される。こいつら、初ログインの時の初心者狩りして返り討ちにされた奴らだ。
「因縁なんだよ、これも」
「キモいんだけど」
「黙れ、これを見ろ」
大柄の男が出した剣にノイズが走っている。
「これに斬られれば強制敵にログアウトされ二度とログイン出来なくなる……らしい」
白けた目で見る。
「お前の攻撃が当たるわけ無いだろ。諦めろ」
「黙れ、これも50万の為なんだよ。死ねぇ!」
大きく剣を振り上げ、隙だらけで振り下ろす。俺を倒せば50万か。安い。
剣が当たらない距離に接近して腹に膝を入れる。膝を着いて倒れたところを頭を踏んで首にウタヒメを突き刺す。
「時間が無いんだ、早くくたばれ」
闘技場、解説席。
「あいつ、遅くね?」
「知らん」
解説に呼ばれたハイドとドウジ、クリスティーナは混乱していた。
「ログインもして無いんだが」
「俺が知るわけ無いだろ! フレンドじゃねえんだぞ!」
「そんなにかりかりするなよ」
「さっきからうるさく、しばくぞ!」
メールの通知音が聞こえ、ハイドはドウジを無視してメールを開く。
「ごめんなさい、うちのハイドが」
「いや、まあ、一緒のギルドだ、俺にも責任がある」
「ああ!?」
ハイドの驚きの声を耳元で聞き、ドウジは耳を手で塞ぐ。
「どしたのハイド」
「今、ベルからメールが来て、ヒメが誘拐され、ザインが襲われて何処かに行ったらしい」
クリスティーナが黙って大きく息を吸う。
「何それ!? どういうこと!?」
あまりの大声に解説席に居た全員が耳を塞ぐ。
「あ、ザインがログインした」
「は?」
「え? 何処?」
「始まりの草原」
クリスティーナは運営側としてフレンド、メール機能に制限がかかっているので見ることが出来ない。
「ちょっと行ってくる! ドウジもついて来てくれ!」
ハイドはワープして行った。
「解説! ああ、この馬鹿!」
ドウジもワープした。
チンピラ共は倒しても倒しても即復活してくる。
身体の痛みは消えない。時間も無い。ウタヒメからリーチと攻撃力に優れる冥月の大鎌に持ち替え、一撃で粉砕する。
「無駄なんだよ!」
目眩がした隙を突かれ、後ろから槍が迫って来ている。避けられない。
「おっと!」
声と銃声が聞こえ、槍の柄が折れた。
「大丈夫か? ザイン」
「ハイド」
ハイドにドウジ、そこにカレンとリノとウィルとゼロ兄も現れる。
「ふっ、我が宿敵! こんな所で何をしている、早く行くんだ!」
「誰?」
知らない男が紛れ込んでいる。
「誰じゃない、初戦で戦っただろ、ライバル」
初戦の奴か。何で居て当然みたいな顔してるんだ、こいつ。
「邪魔だ!」
斬られた。
「ぐぁぁぁ!」
悲鳴を上げて消えて行った。忘れよう。
「あいつらの攻撃に当たるなよ。ログアウトさせられて、ログイン出来なくなるらしい」
「マジか!?」
「ここは任せて早く行ってください!」
カレンがチンピラを斬り飛ばし、道を開ける。
「ああ、ありがとう」
走り出す。まだ間に合う。
「ザイン君! その……腕……」
元看護師のウィルにはすぐバレてしまったようだ。右腕は感覚が無く、ぶらぶらしている。
「大丈夫だ」
「ああ!? 来た!」
闘技場に入るとクリスティーナの歓喜の声と共に歓声が上がる。
残り1分を切っていたが、どうやら間に合ったようだ。
コートカオスのメンバーも揃っている。
「ふん、死に損ないで利き腕も使えない、貴様はそれでも勝てると思っているのか?」
機械音声に戻っている。
「お前らみたいなクズが俺に勝てる可能性があるなんて思ってるんだ、俺だって勝てると思ってるさ」
「ほう、楽しみになってきたぞ」
試合開始の銅鑼が鳴った。
手のひらで冥月の大鎌を回す。
「行け」
シューベルトの指示でシューベルト以外が突撃してくる。
地面スレスレを水平に冥月の大鎌を投げる。回転しながら刃が奴らの足を刈っていく。
片手でムーンサルトをして鎌の上まで跳ぶ。頭をかかとで蹴り鎌に顔から突っ込ませる。
「ああああ!」
空中で鎌を掴み着地と同時に振り回し、首を刈る。
一連の行動で7人を倒して半分まで減らした。
「一瞬で……」
雑魚が慄いている。
「行けと言っている」
シューベルトの指示で足を止めた残りも渋々突撃してくる。
1人を鎌を振り下ろし真っ二つにする。
地面に刺さった鎌から手を離し、横から挟み撃ちを仕掛けてきた奴らの一方を蹴り倒し、もう一方の顔面にナイフを叩き込む。
鎌を地面から抜き、倒れた奴に振り下ろす。
戦意喪失した残りも一振りで纏めて薙ぎ払う。
残りはシューベルト1人。
「死に損ない1人倒せない雑魚しか居ないのか」
鎌を担いでシューベルトの元に歩いていく。シューベルトは未だに一歩も動いていない。
「そうだな。飽き飽きする」
言葉を話す時も微動だにしない。
「貴様は強い。あんなことがあって右腕が動かなくなるだけで済むのだから」
こいつは俺が家で襲われたこともあの路地で死にかけた事も全て見たかのように知っている。
「お前は何なんだ? 何が目的だ?」
「早まるな、貴様はまだ超えきっていない。言っただろ、超えた暁には、と」
「あの地図は何だ?」
「貴様は罠にかかっても生き抜いて見せた」
質問責めに堪忍したのか話し始めた。
「そしてここに現れ、私を倒そうとしている。クライアントは貴様が私を超えられるか知りたいのだ」
「クライアントだと?」
「貴様の全てを奪えば、貴様は見せてくれるのだろう? その強さの全てを」
「その為に、ヒメキチを……?」
シューベルトは何も答えない。
「言葉など下らないだろう? その憎しみによる進化を見せろ。どんな強さだ? クライアントも私も知りたいのだ」
機械音声が少し上擦ったように聞こえた。
「ああ、言葉なんて下らなかった。ただ、お前を壊すだけで良いんだろ?」
「それで構わない。さあ、一閃の破壊者の本懐を見せてくれ」
全力のスピードで接近する。
シューベルトのペストマスクは俺の動きを追っていた。
だが、それも関係無い。こいつはもうどうにもできない。
シューベルトの足先を最小限の動きで蹴る。
シューベルトは当然のようにローリング回避をする。すぐに蹴りから体勢を戻し回避中のシューベルトに鎌を振り下ろす。
このゲームは回避時に無敵は無い。これで終わりだ。
シューベルトは俺の考えが分かったのかローリングの途中で無理矢理動きを変え、鎌を回避しようとしている。
鎌はペストマスクを貫き破壊した。シューベルトにはダメージが入らなかった。
破壊された仮面の中は影で見えない。
「素晴らしい! 素晴らしすぎる! 」
シューベルトは自らのコートを掴む。渋く狂気じみた声を発して。
何処かのヤクザゲーで見た早脱ぎをして、コートの下から、ワインレッドのスーツに身を包み、オールバックの白髪、白髪の整えられた顎髭、顔の右半分を隠す仮面をつけたイケオジとも言える男が現れる。
「隻顔の奏者、シューベルト……」
「私のことを知っていてくれたのか! 素晴らしい! 柄にも無く興奮してしまうよ。つまらない演技をしてすまなかったな」
隻顔の奏者、シューベルト。そいつは、俺が前作スタートワールドオンラインを始めた直後にいたトッププレイヤーだ。
俺とは一度も戦わず引退してしまったのだ。そんな奴が何故……
実力は同じくらい、互角かそれ以上と考えるべき相手だ。
「さあ、進化した者同士、全力を持ってやりあおう。地獄を破壊し切った君のその進化した力を見せてくれたまえ」
いや、進化ってなんだよ。