26 両断と疾風の乱舞
ゴールデンウィークも終わり、ついに準々決勝の日が来た。
ベスト8、名だたるギルドの名前が並ぶ中、コートカオスの名前がある。
普段のギルドの順位でも一桁代のギルドだらけだ。アインプリンセスとコートカオスの2ギルドはダークホースということでかなり話題になっている。
「ねえねえ、兄助。何も調整とかしなかったけど良いの?」
試合直前の、それも目の前に銀龍旅団が居るのにヒメキチは聞こえるように言った。
「はあ!? え? ヒメ何を言って、え? 本当なのか? ザイン」
衝撃的な事を聞き、ハイドは混乱しながら俺に確認した。
「ああ、本当だ」
俺の言葉を聞いたハイドは固まった。そして、ベルの方を向いた。
「事実です。煽りたいから一切調整しないってザイン君が言ってました」
ベルも少し困っている。ハイドを煽るためだけに調整しないを実行したのだ。日本二位のギルドにこんな事をするのはウチくらいだろう。
「どういう事だ? ハイド」
ドウジの声が震えている。怒りとも混乱とも取れる声だ。
「俺にも分かんねえって!」
「えっとぉ、これはどうなってるのかな?」
クリスティーナの声が聞こえる。こっちも困惑している。
ベスト8からは試合に解説が付くと説明があった。解説役は初戦で負けたゼロ兄とクリスティーナにアナウンサーがつくようだ。
試合中は選手には聞こえないようになっているが試合前は聞こえるようだ。
「今注目のダークホース、アインプリンセスのザイン選手とハイド選手に何かあった様ですね」
何かあったとしか言いようが無い、それくらいとんでもないことをやったのだ。
「それにしても、あの伝説の九頭竜商会のメンバーがこの場に多く居ますが、実は私、アインさんのファンなんです。多くの人が復活を願っていると思うんですが、お二人は何か知っていたりしませんか?」
アナウンサーの言葉にゼロ兄がコケた。
「さ、さあ? オレは知らないなー」
棒読みで誤魔化そうとしている。
「あたしもちょっと分かんないかなぁ、あはは」
クリスティーナも愛想笑いだ。この2人嘘が下手すぎる。
「何言ってんだ。あいつがアインだろ」
闘技場が一瞬で凍りついた。ハイドが俺を指差してポカンとしている。
「バカ! 指差したらバレるでしょ! この空気読めない彼女居ないバカハイド!」
クリスティーナの口をゼロ兄が慌てて押さえるが全て言い切った後だった。
歓声が上がる。アナウンサーは感涙に咽び泣いている。
ザインコールが鳴り響き耳が痛い。
「何でこうなった」
ハイドが首を掻く。
「お前のせいだろ、ハイド!」
「俺達は負けねえけどな、今日の為に対策をしてきたからな」
自信満々だが。
「それ、嘘だろ」
「え、何でそんなにすぐ分かるんだ?」
間髪入れずに看破されハイドは少し驚いている。
ギルド戦自体、この大会以外だとカレン達との一戦しかしていないからハイドが見ることは出来ない。この大会分だけで対策が出来るのなら、普段のギルド戦でも影月に勝って1位になれるはずだ。
答えず呆れておく。
「まあでも、負けねえから、だろ? ドウジ」
「知るか」
そして、試合開始の銅鑼が鳴った。
銀龍旅団、恐るべきはハイドとドウジの連携だ。
ハイドの二丁拳銃による中距離からの急襲、それで一瞬でも隙を作られれば最後、ドウジの大太刀による重い一撃で両断される。
それを崩せ奴は中々居ない。
2人に気を取られていると2人以外のギルドメンバーに攻撃されるというのも厄介だ。
早速ハイドから弾丸が飛んでくる。
「バリア!」
呪文と共に目の前にバリアが出来る。
ヒメキチが作ったバリアにより弾丸が止まった。俺とベルなら銃弾くらい避けることは出来るがヒメキチはそうもいかない。
この戦いはヒメキチを守り切ることが重要になってくる。ヒメキチのバフで防御がグーンと上がり、ドウジ以外の攻撃ならかなり耐えられるようになった。
それでもドウジなら一撃でぶち抜いてくるが。
ドウジとハイドの連携を崩す為にまず2人以外を倒す必要がある。その為にはハイドの攻撃に耐えられるようになるヒメキチのバフが必要という訳だ。
全ての攻撃を避けることが最善だが、事故る可能性を考慮しなければならない。
ナイフを投げながらハイドの前に躍り出る。ナイフは敵の1人の首に命中していたようで残り人数14人と表示が出ている。
視線が交わる。
闘技場は遮蔽物が無い。ハイドの武器は二丁のハンドガン、魔法のバリアなら銃弾を簡単に防げるがハイドは短、中距離を得意とする早撃ちの名手、それに合わせてバリアを貼ってもらうことは出来ない。
ハイドがニッと笑ったと同時に発砲音が聞こえる。ウタヒメを抜きながら銃弾を斬り落とす。
見て確認して対処していたら間に合わない。
続けてハイドは俺の足目掛けてスライディングしながら撃ってくる。
銃弾と銃弾の間に飛び込んで抜けながらスライディングを避ける。
ドウジが走るのが見える。着地を狩るつもりか。ドウジの攻撃だけは喰らうわけにはいかない。被ダメ覚悟でドウジを注視するしかない。
ドウジが大太刀を振り上げた。
手から着地し横にローリングする。間一髪、着地した場所に大太刀が叩き込まれた。
叩き込まれた場所には大きな傷痕ができている。
起き上がりながら目の前に居た奴の首筋にナイフを刺す。
「マジかぁ、今の避けられるとは思わなかった」
奇跡的に全弾回避することができ、ハイドは嘆息している。
「集中しろ」
ハイドを注意するドウジも苦虫を噛み潰したような顔をしている。
残りの11人を倒し切ったベルと合流する、残りはハイドとドウジだけになった。
「2人を抑えてくれて助かりました」
3対2、人数差は無くなった。
「ああ、だが」
まだ勝ちを確信出来るような状況では無い。ハイドとドウジ、2人の顔からはまだ諦めは見えない。
長期戦は望ましく無い。ドウジの攻撃に当たれば一撃で両断される。長引けば長引くほどドウジの攻撃回数も増え当たる確率が上がっていく。
「来ないんだったらこっちから行かせてもらうぜ」
ドウジが大太刀を横に構え、ハイドが銃撃で牽制しながら走ってこちらの後ろを取った。一瞬で挟まれた。
横に逃げればハイドはヒメキチを倒しに行くだろう。しかし、逃げなければ、ドウジに両断される。
ヒメキチが倒されればこちらはジリ貧になる可能性が高い。
ハイドの正確無比な早撃ちを全て避けながら攻撃しなければならなくなる。
ドウジが大太刀で横一文字斬りをする。大太刀の刃が迫っている。
「ベル! 上!」
咄嗟に叫びながら屈む。ベルは俺の上をローリングしてドウジの顔に蹴りを入れる。蹴りを入れられたドウジはバランスを崩した。
それと同時にハイドをウタヒメで斬り上げる。
どちらもまだ倒れない。ダメージが足りない。
「ザイン君!」
ベルがこっちに向かってローリングをする。その上を背面飛びで飛び越した。
2人は動けない。
俺がドウジに袈裟斬りをし、ベルはハイドを殴り飛ばした。
攻撃を喰らった2人は同時にHPが0になった。
「ドウジ」
試合が終わり一堂に会する。思い詰めた表情のハイドがドウジを呼ぶ。
「何だ?」
「俺達もあれやろう」
ハイドはドウジに蹴られた。
「酷いな! 蹴ること無いだろ!」
「餓鬼みたいなこと言ってんじゃねえよ」
「鬼はお前の領分だろ、名前だって鬼から取ってんだし」
ドウジって〜童子って意味なのか。
「そんなこと言ってんじゃねえ!」
子供じみた言い争いが続いている。
ハイド、黙っていればイケメンなのにな。
「ベスト4おめでとう、やっぱりお前は最強だな」
さっきまで言い争いをしていたハイドがけろりとして祝ってくれる。
「いつも通りだ」
「流石だったぞ! 兄弟! オレもアレやりたい!」
解説を終えた2人もやってきた。ゼロ兄が目を輝かせ身振り手振りしている。
「あんた、魔法ぶっぱするばっかでやる機会無いでしょ」
クリスティーナに図星を突かれ、ゼロ兄は口を閉ざした。
「凄い連携よね」
「ずるい! ベルさんだけ兄助と息ぴったりで」
勝ったのにヒメキチは膨れ上がっている。
「ヒメちゃんはバッファーだから、うーん」
「いつも感謝してる、ヒメキチが居ないと俺は勝てない」
頭を撫でるとヒメキチの顔が緩んだ。
「もうずるいなぁ。兄助に触れられるだけで緩んじゃうよ」
「あと、その、次さ」
珍しくクリスティーナの歯切れが悪い。
「例の奴なんだよね」
コードカオスが勝ち上がってきたようだ。
「嫌な予感するけど、ザインなら大丈夫だよね?」
クリスティーナが珍しく不安な顔をしている。
頑張ってうなずくことしか出来なかった。