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21 友情・努力の勝利

 遂に凛聖女協会戦の日まで来た。ここを勝てば次はベスト8だ。

 ヒメキチがギルドハウスの中で杖を振り回し燃えている。

「絶対にカレン先輩にだけは負けない!」

「凄いですね……燃えてますね……」

「どうしたんだろうな……」

 ベルと2人で部屋の外からヒメキチの様子を見守る。

 そもそもヒメちゃん、前に出て戦わないですよね?」

 完全にやる気が空回りしている。


「ベル、これ受け取って」

 アーマーブレイクのスキルを渡す。

「ベルはリノ、俺はカレンって作戦で行こうと思う」

 作戦を説明するとベルはうなずき、スキルを受け取って付け始めた。

「分かりました。ヒメちゃんには言わなくて良いんですか?」

 ヒメキチの様子を見る。杖を思いっきり振って一回転した後、目を回してソファーに倒れた。

「言わなくて良し」




 時間になった。準備は終えた、後は闘技場に行くだけだ。

 ワープで闘技場に行く。闘技場の観客が今までにないくらい多い、流石ベスト16、流石凛聖女協会。

 カレン、リノ、ウィルの三人が先に待ち構えていた。


「三人だけなのか」

 前は15人全員で出てきていたが、今回は3人しか居ない。

「ええ、ザイン君のギルド戦の動画をたくさん見て研究しましたから、数が居た所であなたには勝てないことくらい知ってるんですよ」

 カレンは自信のある目でしっかり俺を見る。

「なるほど、前回よりも強くなったってことか」

「はい、私、あなたのことを思うとどんどん強くなれるみたいです」

 カレンは楽しそうに笑う。

「それほぼ告白だよね!? ああああああ!! わーたーしーのー!」

 杖を振り回し暴れそうになっているヒメキチがベルに取り押さえられる。心配そうに見るカレンの後ろでリノが地面に頭突きを繰り返しているのをウィルが頑張って止めている。

「みんな揃ってどうしたんだ?」

 何が起きているのか分からない。

「ザイン君が魔性の男過ぎるんです! 私だって養ってあげたいのにー!」

 何故か半泣きでウィルが叫んでいる。




 全員が落ち着いたところで試合開始の銅鑼が鳴った。

 開始と同時にベルがリノにダッシュパンチをした。ベルのパンチをハルバードの柄で防いだリノは衝撃で体勢を崩し地面を滑っていく。ベルのおかげでリノとカレンを上手く分断できた。

「ヒメキチ、ベルにバフ」

 カレンの方に歩きながらヒメキチに指示をする。

「はーい、って兄助は?」

 不思議そうな顔で俺を見てくるヒメキチに首を横に振る。


「待っていてくれたのか?」

 攻撃してこなかったカレンの方を向く。

「私は正々堂々真っ向勝負で勝ってみせますから」

 カレンは槍を突きつける。今まで戦ってきた相手の中でもトップレベルで真っすぐな良い目をしている。

「始まってるのに余所見してる奴を攻撃しても正々堂々だと思うけどな」

「そうかもしれませんね。でも、そうしたくないんです」

 生き生きとした表情をしている。

「まあ、俺は良いんだけどさ」

 カレンの胸にクロスボウ、ライザーシューターの狙いを付ける。

「でも、後悔するなよ」

「ええ、後悔しないように本気で行きます!」

 カレンの声はやる気に満ち溢れている。


 後ろでベルの籠手とリノのハルバードの衝突する甲高い音が聞こえた。それと同時にライザーシューターの矢を放つ、カレンは自身の前で槍を回転させて盾にしながら真っ直ぐ走って来る。

 矢は槍に弾かれカレンに当たらない。

 バックステップで下がりながら矢を再装填する。

 槍のリーチの範囲に入れば間違いなくカレンは攻撃を当ててくる。カレンが右手の槍の持ち方を槍投げの持ち方に変えた。

「マジか、ふっ、流石だな」

 思わず笑みが零れた。投げてくる気だ。今までのカレンの戦いを動画サイトで見ているがカレンは武器を投げたことなんて無かった、つまり俺の真似。

 カレンは槍を投げた。銃弾のように真っ直ぐ速い。


 横にステップをして槍を避ける。さっきまで頭の在った位置を槍が通っていく。

 カレンが飛び掛かりながら槍を俺の頭に振り下ろしている。投げた方の槍に気を取られ、カレンが接近していることに気が付かなかった。

 槍が頭に当たるギリギリでライザーシューターを盾にして槍を防ぐ。カレンが槍を持っていない右手をあげた。


 カレンが投げた槍が壁に当たり跳ね返って飛んでいるのが見える。そのまま槍はカレンの手元に戻ってこようとしている。

 カレンは前回のギルド戦で俺がやった剣を投げて壁に跳ね返させる技を見様見真似で覚え自分の物にしている。凄まじい成長だ。

「今回は勝ちますから!」

 カレンの手に届く前に飛んで来ている槍を撃ちぬき弾き飛ばす。盾にしたままライザーシューターを撃った反動が槍にも響き槍が少し浮いた。

 その隙を使ってカレンから距離を取る。

「まだまだ甘いな!」

 矢を装填しようとするのを見たカレンは槍を取りに戻る。

 カレンが槍を手にするタイミングで矢を撃つ。しかし、カレンにもう片方の槍で矢を叩き落とされた。


「前より随分強くなったと思う」

「ありがとうございます。でも、あなたに勝てなければ、まだ足りないんです」

 カレンの目標は世界一と俺のスカウト、勝てなければ目標には届かない。

「そうだな」

 今のカレンなら影月に勝てるだろう、これから先戦う相手はみんなこの大会で世界一になれる可能性がある相手だ。気を抜くと一瞬で負ける、そういう相手だ。

 だから、楽しいし面白い。

「あなたが隣に居れば私達は何処までだって強くなれると思うんです」

 カレンの確信めいた声と表情に少し心がざわつく。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、それも楽しいかもな」

 カレンと同時に深呼吸をする。


 カレンが槍を使い高跳びの要領で跳ぶ。

 自分でも同じような事をするが、上を取られるのは凄く戦い辛い。相手との位置関係の把握のし辛さや上から攻撃されることの対応のし辛さがある。

 しかし、空中で回避することや逃げることは出来ない。しっかり狙いをカレンに定めて矢を撃つ。

 矢は槍に弾かれる。空中で槍を振って矢を弾くなんて前回からは想像できない、どれだけ努力したんだろうか。


 カレンの足が迫っている。跳び蹴りからの槍で追撃、決まれば十分勝ちにつながる、というか、ダメージを考えれば俺のHPは0になっている。




(アインにはさ、努力、友情なんて無いよね、アインの強さは勝ちへの執念、あと、憎しみだと思うんだ。強くなることは息をすることであり生きること、それがアインかなって)

 昔、カインドさんに言われたことだ。今思えば酷い言い様だ。でも、当時を振り返ると全くその通りだから笑える。

 カインドさんには負かされた挙句の果てに散々煽られた。再戦して勝った後、ギルドを作らないか、と誘われたが、その後というか今でも煽られたことはずっと許すつもりは無い。

 努力や友情なんて生温いことで勝てる程、甘い世界は無い。それをあの人は俺に叩きつけてきた。




 スライディングでカレンの下を滑り抜ける。カレンの足に髪が当たるほどギリギリ、スカートが俺の上をふわふわとひらめいている。

 カレンの着地に合わせて足払いをする。カレンは足を払われ地面に転がる。今なら確実に矢が当たる。カレンが起き上がる前に麻痺矢を装填する。

 起き上がろうとする隙だらけのカレンに撃ち込む。

「麻痺!? でも、ギルド戦なら効果時間は短いはず」

 カレンは起き上がろうとしている途中で麻痺で体が動かなくなった。

「悪いな、麻痺効果、麻痺時間延長のスキルは最大まで上げてある。というかそれしかスキルはつけてない」

 麻痺軽減スキルをつけていない今のカレンは全く動くことが出来ないはずだ。

 動けないカレンの首に狙いを定める。

 そして、引き金を引いた。




「はぁ、また負けました」

 目に見えてカレンは落ち込んでいる。顔に影が落ち、美人の顔が落書きみたいになっている。俺がカレンを倒したと同時にベルがリノを倒し、ウィルも倒し、無事勝利を収めた。

「ああ」

 取りあえず返事をする。

「私の兄助が負ける訳無いから!」

 ドヤ顔をしていたヒメキチにチョップして黙らせる。


「次は着地の隙を無くさないとな。待ってる。それとも、もう……」

 カレンは首を横に振る。負けた後すぐには立ち直れないか。それとも、もう立ち上がれないのか。

「姉様! あんな奴に負けたままなんて私!」

 何故かあんな奴とリノに言われた。しかし、リノの言葉でカレンが顔をあげた。

「……絶対に優勝してくださいね。そして、私、あなたに勝って世界一に勝ったことにしますから」

 カレンが笑顔を見せながら闘志を燃やしている。

「それも面白いな」


 遂にベスト8だ。日ノ下や銀龍旅団、コートカオスは当然勝ち上がっている。次の試合までまだ日数はある。調整して万全を期すしかない。

 次の相手は日本二位、銀龍旅団、ハイドとドウジだ。

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