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20 闘志の在り処

「おはようございます。兎乃君。ちゃんと朝から学校に来るなんて珍しいですね」

 朝のホームルーム前、登校してきた加恋がこっちを見て笑う。欠伸で返事をする寝ぼけまなこの俺とは大違いで朝からキリっとしている。

 大会はお互い順調に勝ち上がり、次の相手は凛聖女協会、つまり加恋達だ。


「今度こそ私達が勝って、私達のギルドに入って貰いますから」

 自信満々に不敵な笑みを零す加恋に他のクラスメイトが驚いている。

「また真島なのか!?」

「どうして真島ばっかりモテるんだ!」

 加恋とイチャイチャしているように見えるのかもしれない、男達の怨嗟の声が聞こえる。反応するのも馬鹿馬鹿しい。


「そういうことは勝ってから言ってくれ、あと、俺はさ、一応、隠してるから」

 男達は無視して加恋と話しを続ける。加恋はハッとして慌てる。

「そ、それは申し訳ありません」

 仰々しく頭を下げる加恋を止める。

「何だあいつ!」

「西園寺さんになんてことを!」

 また怨嗟の声が聞こえる。どうでも良いけど、やっぱり耳障りだ。


 加恋もかなりモテる、姫花には及ばないが、男子の憧れの的だ。お淑やかで優しく、美人、しかし、本人はあまり恋愛には興味は無さそうだ。

「一つ聞いて良いですか?」

 教科書の整理を終えた加恋は椅子を寄せて話しかけてくる。

「別に」

「姫花さんとはどういう関係なんですか?」

 加恋の質問にクラスの男子が喋るのを止めて耳を澄ませている。

「幼馴染」

「付き合ってはいないんですか?」

 続けて質問をされる。加恋は興味津々だ。

「一応付き合ってない」

 男子が無言でガッツポーズをしている。お前らに脈は無いけどな。


「もう一つ聞いて良いですか?」

 加恋はいつもの調子で話を続けてくる。

「好きにしてくれ」

「えーっと、私が彼女じゃダメですか?」

 加恋は少しだけ迷いながら顔を赤くして質問を続けた。




「は?」

 クラスの空気が凍り付いた。俺も何を聞かれたのか分からなかった。

「結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」

 加恋の顔は赤いが、話し方は普段と変わらない。男子は阿鼻叫喚、女子は嬌声を上げている。

「断る」

 またクラスの空気が凍り付いた。

「俺の事が好きじゃない奴と付き合ってどうすんだ」

 加恋は驚いた顔をして口を開いたまま動かない。

「大方、俺が勝っても結婚相手だから、西園寺製薬の名も挙げられるってことだろ?」


「ふふっ、私、そんなことで結婚相手を決められるほど冷血じゃありませんから」

 少しの沈黙の後、得意気に加恋は笑った。

「……は?」

 笑った理由も言っている内容も今一つ理解できない。姫花のこと以外はかなり疎いのは自分でも分かっているがこんなに相手の考えていることを理解できないとは思わなかった。

 考えているうちに朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った。


「おはよーって朝から真島が居るし、教室は冷え込んでるし、何が有ったの?」

 何も知らない教師は能天気に教室を見回しているが誰も答えない。

「お通夜?」

 誰も教師の質問に答えない。

「それと兎乃君」

 教師に気付かれないように加恋が話しかけてくる。

「ちゃんと勉強するように私が見ていてあげますから」

 来ている時は真面目にやってるつもりだったんだけどなぁ。楽しそうに笑う加恋を見ると何も言えなかった。




「むぅー!」

 学校が終わり家に帰ると、いつもの3人でゲームを始める。開始早々ヒメキチが頬を膨らませて不満を訴えている。

「ヒメキチ?」

「どうしたんですか? ヒメちゃん」

 俺とベルはヒメキチの顔色を窺う。

「兄助が真面目に学校行ってる!」


 思っていた以上に謎な答えが返ってきた。

「え? それは良いこと……ですよね?」

「だって、目的がカレン先輩なんだもん!」

 何で学校に行く目的がカレンなんだろうか?

「そうなんですか? ザイン君」

 ベルが不思議そうな顔で俺の方を見る。

「いや、出席日数足りなくなるって学年主任に脅された」

 サボっているときに学年主任から電話があったのだ。マジトーンでびっくりしたことだけは覚えている。

「まだそんなに経って無いのに学年主任に言われたんですか? え? ヤバく無いですか?」

 ベルが真っ青になっている。そう言えば俺の周りには優等生しか居ないんだった。

「……この調子だとカレン先輩、毎朝兄助を迎えに来そうなんだけど!?」

 ヒメキチが混乱して俺の周りをグルグル回っている。

「無いだろ」


「あ! ザイン君! 学校では言いそびれたんですけど、明日から迎えに行って良いですか? 一緒に学校行きませんか?」

 リノとウィルと一緒にカレンが通りがかり、こちらに手を振っている。無いと言った直後だ。

「姉様!?」「兄助!?」

 リノとヒメキチが同時に泡を吹いて倒れた。




 本当に通りかかっただけのカレンはリノに引っ張られていった。

「クロスボウが欲しい」

「え? どういうこと?」

 ヒメキチは倉庫の中にクロスボウが無いか探し始めた。

「ついでに言えばアーマーブレイクのスキルを付けるための素材が欲しい」

「なるほど、リノちゃん対策だね!」

 今日の目標は明日の凛聖女協会戦への対策だ。

「という訳で、暴風の大鷲を狩る為に……」

「狩る為に?」

「ダンジョン、天国の峡谷に」

「行くぞー!」

 ヒメキチにセリフを盗られた。

「おー!」

 元気良くベルが返事をして二人で先に歩いていく。あれ? 俺は?




 天国の峡谷。雲がかかる程の高さと底が見えない谷底。滝には虹が架かり、まさに秘境。

 天国の峡谷のボス、暴風の大鷲が落とす素直な性能の扱いやすいクロスボウ、ライザーシューター、遠距離を制する武器を取る為に遠距離を飛ぶ鳥を叩き落とさなければいけない。

 まあ、裏ダンジョンどころかラスダンより前のダンジョンだから楽勝だけどな。


 ヒメキチのバフのおかげで一撃で雑魚が溶けていく。


 そして、何事も無く開けた崖の上に出た。


 崖の下は雲海で雲しか見えない。遠くの空から高速で近づく何かっていうか暴風の大鷲が見える。

 一直線に近づいてくる大鷲、降り立つ場所は固定だ。


 大鷲は遥か上空に飛び上がり、その場所に急降下する。

 あらかじめラブリュスをその場所に投げる。


 するとラブリュスに自ら突っ込んで頭に突き刺さり大鷲は倒れた。

「はい、終了」




「彼の帰還、私はずっと待ち望んでいたのさ」

 有馬頼は管理者と共に管理室からザイン達の様子を見る。頼の表情からは喜びがあふれている。

「彼は人間の進化の道を示してくれる存在だ。私の気持ちが分かるだろう? メタトロン・システム」

 管理者、その名をメタトロン・システム、彼女であり彼は無表情で静かにうなずいた。

「理性と本能、対極にある存在、人間の根本の行動原理を司るもの」

 頼は興奮で息を切らし大きく息を吸う。

「彼は素晴らしい。歴史上のどの人物よりも進化した人となる」

 メタトロン・システムはただ頼を見ている。

「君達だって興奮するだろう? 違うのか?」

「いいえ」

 冷徹に答えを頼に返す。

「そうか、まだまだこれからということか。だが、君にだって……」

 頼は黙った。そして、再度口を開く。


「まさか、親だからか?」

 メタトロン・システムは何も答えない。

「ははは、君達が答えてくれることを私は待つよ。親と言っても千分の二……」

 頼は趣味のミュージカルのように大仰に腕を天井に開く。

「でも、分かるさ。その為の君達なんだからさ」




「あったよ!」

 ヒメキチが声を上げ手を振る。

 三人で手分けして宝箱を開けていく。俺が開けた宝箱からはお金と素材しか出てこなかった。

「ばーん!」

 ライザーシューターを持ち上げ、俺とベルに見せる。

 鷲の意匠の入った渋カッコいいクロスボウ、ライザーシューター。

 射撃能力は狩りをする鷲のような鋭さを持ち、ブレやリロードに癖も無い。

「これで明日は勝ったも同然だね!」

 ヒメキチにライザーシューターを渡される。

「もちろんだ。ここまでしてくれんたんだから、絶対に勝って見せる」

「やる気のあるザイン君は頼もしいです」

 みんなの戦意が向上したところで街に戻り、ライザーシューターにスキルを付けて、明日のカレン達への再戦の準備をするのだった。

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