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2 トリックスターの再来

 ヒメキチとベルの二人について行くと、賑わう村に辿り着いた。木製の民家に道具屋、武具屋といかにもRPGの最初に出てくる村感じだ。

 ルイスは腕の中で寝てしまった。完全に案内役を放棄している。


「ここはな、初めの村スタールグちゅうんやで」

 場違いな関西弁のような独特のイントネーションの話し方をする着物で糸目の男が話しかけてきている。

「ここはね、初めの村スタールグって言うんだよ!」

 ヒメキチが男を無視して言い直した。男はズッコケた。こいつは相手をしない方が良い。

「ちょ、ちょ、僕を無視しないで欲しいんよ。なぁ、ザインはん」

 男は俺に助けを求めているが無視する。袖を掴んできて鬱陶しい。

「まあ、でも、ここは通り道なんだけどね」

 胸を張ってドヤ顔するヒメキチを眺める。マップを見ればすぐにわかる事だが、可愛いので、何も言わない事にする。

「ちゅーことは、王都の方にギルドがあるっちゅーことやな」

 うなずきながら男は俺の肩を叩いている。そっと払い除ける。

「うるさい! 影月(かげつき)

 遂にヒメキチが男にキレた。


「ひゃー、これはかなわんわぁ。ヒメキチはんが一番怖いんよなぁ」

 うるさい糸目の男、PNは影月だ。影月は俺の後ろに隠れた。

 この男とは前作のギルドで一緒だった。胡散臭い関西弁っぽい喋り方は影月語と影月は自称している。

「ちょーど、いい所に揃っとったもんやから、僕も混ぜて欲しうてなぁ。どうや? うちのギルドにみんな入らへん?」


「結構」

 キッパリと断る。仲が悪いわけでは無いが、今の俺はヒメキチの為にやっている。

「ザインはんは冷たいなぁ、でも、ザインはんは元々結構なツンデレやしなぁ。それももしかしてお得意の?」

 ウザいことこの上ないのがこの影月という男だ。顔を引っ叩いてやろうかと思ったが面倒なので止めた。

「僕んところ、結構大きくてな。日本では1番優勝に近いギルドなんや。それにみんなが入ってくれたら、そらもう、間違いなしや」

 影月は馴れ馴れしく肩を寄せてくる。

「ふっ、俺達のギルドがある時点で日本で2番に下がったな」

「そら手痛いわぁ。僕もまた一緒にやりたいんや。分かってくれへん?」

 影月の実力は折り紙つきだ。相手を惑わす動きに回避に特化した戦闘スタイル、トリックスターと呼ばれるほどの実力者だ。その上、参謀としても日本一と名高い程実力を持っている。


「ベルはんはどう?」

 俺が反応しないから周りから崩す作戦に出たようだ。

「結構です」

 ベルもやんわり断る。悪気は無いのだがあっさり断るので傷付ける事も多い。

「もしかして僕嫌われとるんかなぁ?」

 影月がこっちを見る。ヒメキチと目を合わせると文句を言われると思って俺を見たのだろう、迷惑な奴だ。

「めんどくさ」

 これ以上は返してやる気はない。

「あはは、これ以上ザインはんの機嫌損ねるとやめる言い出しかねへんから、今回はここまでにしとこかなぁ」

 影月は苦笑いをして、これ以上勧誘しなかった。


「ま、僕もついては行くんやけどね」

 何食わぬ顔で後ろをついて来始めた。

「しっしっ」

 ヒメキチは虫を追い払うように手を振っている。これ以上無い程嫌な顔をしている。

「そないな酷いことは堪忍してやぁ」

 影月が手を合わせて懇願している。うるさい奴らだ。

「まあ、仕方ないか」

 どうせ断っても、ついて来るのだ。うるさく言われる前に許可しておこう。

「流石ザインはんやなぁ」

 何故か拍手している。

「何にも嬉しくない」




「まあ、ここら辺は、敵は居らんね」

 影月が先頭を進み。その後をついて行く。

「いきなり、ぼくと一人称が被ってるんだけど、いつか訴えてやるー!」

 腕の中でルイスがジタバタしている。一人称が被っただけで訴えるとは穏やかじゃ無い。

「うるさい。お前、首持って運ぶぞ」

 静かにする為に少し脅しじみた事を言う。

「ひぃっ!?」

 ルイスは人形のように動かなくなった。


「つーかこいつなんなの?」

 ヒメキチの前でルイスを揺らす。

「私のギルドの……何?」

 知っているが覚えていない、そんなところか。

「ぼくはガイドだよー!」

 ガイドを主張する割に仕事をしているところを見ていない。

「僕んところは……ツチノコやったけなぁ」

「センス悪っ」

「一応僕、これでも京都人なんやけど!? まあ、度々、名乗るなって怒られるんやけどね」

 自慢げに京都出身を語っているが、親の仕事でほぼ京都に住んでいなかった事はみんな知っている。

「センスと京都に関係はありませんよね。だから名乗るなって言われるんじゃ?」

 ベルが不思議そうな顔をしている。

「うーん、ベルはんは博識やなぁ」

「影月さんが非常識なだけですよ?」

 ベルの言葉に影月が心を折られて、道端で体操座りで泣いている。放っておこう。




 村を出て、穏やかな天気の下、緩やかな丘の道を進んでいく。まだ目的地らしき物は見えてこない。

「おい! さっきのお前!」

 後ろから声が聞こえる。何処かで聞いた事があるような気がするが思い出せない。

「お前だよ、おーまーえー!」

 後ろを振り返ると、ぞろぞろと初狩りしてた奴らとその仲間が追いかけて来ていたようだ。


「増えてる。お前らGかよ」

「お前に礼ってものは無いのか!」

 ブーイングが男達から巻き起る。

「初狩りしてるような奴らに礼を説かれる筋合いは無いだろ」

「ぐっ……」

 図星だったようだ。何も言い返してこない。


「ははは、こ、今度は10人、お前に勝ち目は無い! そうですよね? ボス」

 ヒョロい男にボスと呼ばれた男に視線が集まる。

「ふっ……」

 ボスは鼻で笑うだけで、何も言わない。

「ほら、ボスも言っているだろ!」

「え? 何を?」

 ボスと呼ばれた男がゴツイ男に耳打ちをする。

「はい、かしこまりました。ボス」

 ゴツイ男が大きく息を吸う。


「お前らなんて雑魚、余裕なんだよ! バーカ! っとボスはおっしゃっている!」

 ボスはそんなこと言ってないよ、と言わんばかりの驚いた顔をして、手を振っている。

「なるほど、なるほど、僕ら相手にそこまでの大立ち回りが出来るんやったら、そら余裕やろなぁ」

 影月が男達の前に出て行く。


「せやから、僕も本気出さんとなぁ、日ノ下(ひのか)、影月が相手したるわ」

 影月が刀を抜く。聞き慣れない言葉が出てきた。どうせ、影月のギルド名だろうな。

「は、日ノ下? 影月……そ、そんなわけが……日本トップギルドのギルドマスターがこんなところに居るわけ無いだろ!」

 ゴツイ男は影月が一歩前に出ると青い顔をして一歩後退りをする。

「日本トップなのか? 鬼の居ぬ間にって感じだな」

「せやでぇ、みんなが居らんから、簡単に日本トップになってしもたわぁ」

 うっざ、これ以外の感想はない。今すぐボコボコにしてやりたいが、装備も無い状況でやり合うのは面倒だ。


「でもでも、私と兄助がすぐに追い抜くから」

 ヒメキチが腕を組んで、仁王立ちをした。

「期待しと……いや、僕んところのギルド入ってや」

「お断りだ」

 影月に後ろから跳び蹴りを入れる。

「どわぁ!?」

 影月は倒れ、その上に着地した。


「相手は俺だろ? 安心しろよ。今作は初心者だから」

「うわぁ……兄助カッコいい」

 ヒメキチから嬌声が上がる。ぴょんぴょん跳ねながらスクショする音が聞こえる。


「ふ、ふざけやがって!」

 ゴツイ男が手斧を取り出し、こちらに走って来る。

「ふぎゃっ!?」

 影月の上でジャンプしてゴツイ男の顔に膝蹴りを入れる。顔に膝がクリーンヒットし男は仰向けに倒れる。

 そして、手斧を奪い取り、ゴツイ男に投げる。

 斧が男の肩に刺さりダメージが入ったのを確認して、落下しながら男の腹に剣を突き立てる。

「ぐへぇ、また負けた!?」

 一瞬で終わってしまった。

 ひょろい男はまた腰を抜かした。ひょろい男に駆け寄り、首を斬って、倒す。

「ふっ……」

 ボスは鼻で笑って。手を上げて地面に頭つけた。降参という事だろう。他の奴らは慌てて逃げていった。




「つまり、雰囲気で強いみたいに勘違いされて、持ち上げられてたってことか?」

 正座したボスは頷く。巻き込まれただけの一般人のようだ。

「よし、身ぐるみを剥がそう」

 倒した2人から追い剥ぎするしかない。

「まあまあ、ザインはん、こいつらもこれに懲りたやろ。ここは僕の顔立てて、強い装備一緒に取りに行きましょ」

 俺に踏み台にされただけの影月が宥めてくる。

「嫌だが」

「わぁ、いけずやわぁ、ザインはん」

 男にいけずなんて言われても。取り敢えず、影月に蹴りを入れておいた。


「じゃあ、後頼むぞ、影月。行こうぜ、ヒメ、ベル」

「はーい」「はい、行きましょう」

 2人を連れて道を進む。影月はボスの男に泣かれながらしがみつかれている。

「ええ、そんなぁ、僕置いてけぼり?」

 影月に初心者狩り連中を任せて先に進む事にした。

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