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19 初戦の波乱

 遂に大会の日が来た。世界大会出場権を獲得するために、まず日本大会を勝ち抜かなければならない。

 ギルドメンバーの誰かが日本大会の挑戦権である冥月の大鎌を持っていれば出ることが出来る。

「ふぁ~あ」

 受け付けはもう済ませている。後は勝つだけで良い。

「余裕だね~」

 頬をつんつんしてくるヒメキチを流し目で見る。

「今日は、トーナメント表の確認と一回戦だろ? いきなり影月とかハイドとか、カレンとかと当たらないだろ」

「ゼロ兄と当たったりして」

 いたずらっ子な笑顔を見せる。

「それもそれで面倒だな」

 一回戦はトーナメント表発表の直後に行われる。相手によって戦うメンバーを変えたり、作戦を練ったりするギルドは大変だ。うちは3人しか居ないから全員選出が基本だが。


 ギルドハウスでトーナメント表の発表を待つ。オン大会の良い所は会場に居なくていいことだ。

「ドキドキしますね!」

 ベルの震えは緊張というより武者震いだ。流石己の身一つで他の流派の道場に乗り込んで道場破りをする武人だ。


 ギルドハウスの大型モニターにクリスティーナが映る。ギルドに所属していなかったのでMCをやる事になったらしい。

「はーい! みんな見てる? 今からトーナメント表を発表するよー! MCはあたしクリスティーナが務めさせてもらいまーす!」

 元気いっぱいに手を振っている。こっちではアイドルもやっているだけはある。

「トーナメント表の発表はこのリスタートワールドオンライン運営会社のハチマンホールディングスの代表取締役社長、有馬(たより)さんにしていただくことになっています。どうぞ!」

 イケメン俳優のような端正な顔立ち、綺麗に整えられた髪、清潔感のあるスーツ、そして、若い、20代前半にしか見えない、社長というより俳優、モデルの人種だ。それが世界一の大企業の代表、ここまで完璧な人間は見たこと無い。


 ハチマンホールディングスはグローバル企業、いや世界一大きい企業と言っても過言ではない。影月の会社も西園寺製薬も傘下に入っている。

「あまり表に出ない私なので、緊張しています」

 どう見ても緊張していない。スラスラとジョークを言って笑いを取っている。CMとかでも見たことがある。

 ヒメキチが嫌な顔で見ている。同じ気分だ。

「では、発表します」


 トーナメント表の発表は順調に終わった。

「決勝で日ノ下だね」

 日ノ下の前に、コートカオス、銀龍旅団、凛聖女協会と当たる。取りあえず一回戦は、マークしていなかったよく知らないギルドが相手だ。

 ゼロ兄が一回戦でコートカオスと当たるようだ。

「ま、一回戦行くか」




「はーっはっはっは! 随分貧相なギルドだな」

 一回戦の対戦相手、名前は忘れたし、調べるまで聞いたことも無かった。しかし、態度が大きい。仁王立ちで俺達のことを見下している。

「日本一はこの俺だー! 俺に負けたこと誇っていいぞ!」

 おまけにソロギルド、勝つ気あるのか? ソロプレイヤーなら強い奴は勝手に有名になる。

 試合開始の銅鑼が鳴る。

 いきなり、相手は叫んで跳びながら剣を振り下ろしてきた。重さ分の火力を上げられる、基本テクニックだ。

「はい」

 見え見えの攻撃をウタヒメでガードをして、隙だらけの腹に蹴りを入れる。

 バランスを崩しながら着地したことろにラブリュスで頭を叩き潰す。呆気なく終わってしまいベルとヒメキチは口を開いたままポカーンとしている。

「一瞬で終わった」




 ギルドハウスまで帰ってきた、全ての試合はモニターで流れているので、まだ試合が終わっていない他の試合を見ることが出来る。まあ、一番最初に終わったのだが。

 ゼロ兄のギルドとコートカオスがぶつかっている。ここでゼロ兄がコートカオスを倒してくれれば影月と俺の心配は杞憂に終わる。


 ゼロ兄の試合がモニターに映る。


 ゼロ兄とシューベルトの一騎打ちになっている。両ギルド15人で出ているが、ゼロ兄が大魔法を使って敵も味方も全滅させたのだろう、よくあることだ。


 しかし、懸念のシューベルトはまだ残っている。


 ゼロ兄はソロモンの答という魔導書をブックホルダーに戻した、MPが尽きてお荷物になってしまっている。

 ゼロ兄はナイフを取り出した、ここからがゼロ兄の(本人は不本意ながら)本番だ。両手にナイフを持って戦闘態勢を取る。


 ゼロ兄は素早い動きでシューベルトに左右に動きながら近づく。シューベルトは現代風のペストマスクと黒いコートに似合わない禍々しい大剣を片手で持ったまま微動だにしない。


 ゼロ兄はシューベルトの背中側に回り込んだ。チートがあるから余裕なのかシューベルトは何もしない。

 ゼロ兄がナイフを背中に突き刺そうとするがローリング回避でシューベルトは避ける。しかし、シューベルトはまだ攻撃しようとしない。


 チートのローリング回避で避け続け相手に隙が出来るのを待ち、そこを攻撃する。概ねこんなところだろう。チート回避の突破口も見つかったが、ゼロ兄が勝ってくれた方が良い。


 ローリング回避で距離を開けられる。ゼロ兄のナイフのリーチと噛み合わない展開が続く。それでもゼロ兄は素早くシューベルトの裏に回り込んで攻撃をし続ける。


 シューベルトがチート回避の後に動かないのは回避直後に出来る硬直を隠すためだ。硬直しているタイミングなら攻撃を回避出来ないはずだが、ゼロ兄のナイフでは攻撃が届かない。


 シューベルト、ただチートを使ってるだけの奴じゃない、作戦の練り方も戦闘経験も判断能力もかなりのものだ。チート無しでも十分戦えるはずだが。


 しかし、ゼロ兄にも隙は無い、シューベルトの大剣のリーチの中には極力入らず、確実に反撃されないように背を取って攻撃している。そして、シューベルトには攻め手が無い。拮抗しているように見える。




 しかし、戦況は一気に動いた。

「ポイズンフィールド」

 残り5分を切った所でシューベルトが毒の霧魔法を使い闘技場を毒の霧が覆う。毒によってゼロ兄の体力がガリガリ削られていく。


 影月にも使った策だ。チート回避と毒、上手い戦法だと思う。

 ゼロ兄は毒によって追い込まれてしまった。もうシューベルトを倒すしか勝ち目は無い。

 体力さえ削ってしまえば、無傷のシューベルトは時間切れを待つだけで良い。


 ゼロ兄は諦めず最後までナイフで攻撃を続ける。しかし、最後までシューベルトに一撃も攻撃を当てることは出来なかった。

 無情にも試合終了の銅鑼が鳴る。

 膝を着くゼロ兄に一瞥もせずシューベルトは闘技場を後にする。




 急いでベルとヒメキチと一緒にゼロ兄の下に行く。

 闘技場の前で、二人が先に行ったの見計らったようにシューベルトが現れる。

「忠告だ」

 機械音声のようなノイズ交じりの抑揚の無い無機質な声でシューベルトは目の前の俺に言った。

 何も言わずシューベルトの次の言葉を待つ。

「棄権しろ。さもなくば全てを失うことになるぞ」

「脅しか?」

 シューベルトは俺の言葉を無視して何処かにワープし消えた。

「何なんだよ……」

 シューベルトの意図がつかめない。全て失うってどういうことだよ。


「ゼロ兄!」

「……兄弟」

 ゼロ兄は膝を着いたまま立ち上がれていなかった。

「すまない、オレがここで勝てていれば……」

 ふざけた魔王ムーブに似合わず、根は割としっかりしているのがゼロ兄だ。その分、落ち込みやすくもある。

「はいはい、過ぎたことは言わない」

 クリスティーナもやってきてゼロ兄を慰める。

「それに、あたしが居ないとそんなに勝率高く無いでしょ」

 ゼロ兄はクリスティーナが居ない時は結構負けている。敗因は新作魔法の試し撃ちで自爆、魔法に拘り過ぎて袋叩きになる等様々である。

「うっ……わざわざ止めを刺さなくてもいいだろ!」

 ゼロ兄は図星を突かれ子供っぽい文句を言う。少しだけいつものゼロ兄に戻っている。

「バカだからこう言わなきゃ立ち上がれないでしょ?」

 クリスティーナがわざとゼロ兄を馬鹿にする。

「誰がバカだ! バカクリス!」

 ゼロ兄が立ち上がって怒っている。いつも通りの二人だ。

「元気出た?」

 穏やかにクリスティーナが笑う。

「え? あ、ああ」

 いつものクリスティーナの笑顔にゼロ兄は怒りも忘れ戸惑っている。

「相変わらずゼロ兄は人騒がせだね~」

「でも、それが良い所じゃないんですか?」

 ヒメキチとベルの言う通りだ。ゼロ兄は少しうるさいくらいじゃないとゼロ兄じゃない。ゼロ兄も立ち直ったので帰ることにした。

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