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16 エスプロ火山の苦行

「行けー! 秀人ー!」

 バスケットボールのプロチームの選手、芦屋秀人にボールが回って来る。残り一秒、点差は1点、どんなシュートでもダンクでも良い、入れば勝ち。


 迷うことなくセンターラインからシュートを放つ。


 ブザーと同時にシュートが入る。観客の歓声が鳴り響きそれ以外何も聞こえない。


「ブザービーターかよ!?」

 仲間からタオルを投げられた。

「今、すっげー調子良いんだよ」

「それならアメリカ行けば良かったのに」

 多くのアメリカのチームからも誘われているが全て断った。

「寂しいだろ? 俺が居なくなったら」

「はぁ、本当の人気者が言うなよ」

「英語覚えるのが面倒なのもあるけどな」

 いたずらっ子っぽく笑う。

「それが本音だろ!」




 リスタートワールドオンライン、ダンジョン、エスプロ火山の入り口。

「まあ、そういう訳で俺は日本から出ない予定だ」

 ハイドがキメ顔をしている。

「そうか」

 素っ気なく返しておく。

「流石ハイドはんやなぁ」

「ふっ、流石だ。疾風の弾丸、オレは良い選択だと思う」

 影月はいつも通りで、ゼロ兄は喜んでいる。

「だろ?」

「そうか……」

 男4人でウタヒメの強化素材を集めにダンジョンまでやってきた。

 きてしまった。


「おい、ザイン、目が虚ろだぞ」

「ああ、あれはヒメキチはん欠乏症やな」

 色々好き放題言われているが反応する気になれない。

「クリスティーナの奴が言ってたが、ヒメキチが雑誌のカメラマンに写真を撮って貰ったとか」

「なるほどなぁ、モデルになって離れていくって考えると寂しいもんやしな」

「違うぞ、影月」

「違うん? え? ゼロはん」

「撮って貰っただけらしい」

「じゃあ、単純に今ヒメキチはんが居らんってだけでああなっとるん?」

「たぶん、そうだ」

 三人が俺を見る。

「こっちみんな」




 エスプロ火山、ボス、灼熱ヘルゴーレムがドロップする煌めきの灼熱溶岩がウタヒメの強化に必要になり取りに来た。

 エスプロ火山、太陽の花畑と同じレベル99のダンジョンだが、太陽の花畑よりはマシだ。

 敵は全て炎属性、対処しないといけない状態異常は一定時間燃えてダメージを受ける炎上の強化版の灼熱だけ。

 炎上は水、氷属性の攻撃を受ける、ローリング系の回避行動を数回するなどで解除出来るが、灼熱は時間経過以外で解除出来ないというだけだ。


 灼熱ヘルゴーレムもケツァルコアトルに比べると楽だ。灼熱が少し厄介なだけ。




「ハイドはん、調子どう?」

 エスプロ火山の中の洞窟を歩く。暑さで誰も口を開かなかったが、遂に影月が口を開く。

「どうって、どうなんだ? バスケの方はかなり調子が良いけどな」

「彼女」

「……嫌がらせか?」

 禁句をサラッと言い放った影月にハイドは嫌な顔をする。

「ちゃうよ! 僕は心配しとるだけやって」

 ハイドはため息を吐く。

「……この前、ファンだって言う子にファンレターを貰いかけた」

「かけた? それで?」

「後ろから突如現れた犬にタックルされて膝カックンされた」

 後は言わずもがなだ。ドン引きでもされて上手く行かなかったのだろう。

 ハイドは誰かと上手く行きかけると何かと不運が起きてダメになる非モテ体質の持ち主だ。そして、それが結構心に刺さるらしく、立ち直れなくなりネガティブな面が出てくる。

 ハイド、スポーツ万能で身も心もイケメンだがモテない悲しい男だ。

「何でお前に彼女が出来て俺に出来ないんだよー!」




「いやぁ、ほんと、申し訳あらへん」

 心からボロボロでも何とか戦うハイドを見て影月は謝罪をする。

「もうボス部屋だろ。いくら余裕でも少しは気を引き締めてくれよ」

「というか、もう来てるぞ、兄弟」

「へ?」

 ゼロ兄の指さす方を見ると岩と溶岩で出来た巨体のゴーレムがジャンプしてこちらに拳を叩きつけようとしている。


 ラブリュスを灼熱ヘルゴーレムの拳に叩き付け、攻撃を相殺する。

「ハイドはん!」

 影月が呼ぶよりも早くハイドはゴーレムの後ろに回り込み銃撃を開始する。的確に弾を当て、ダメージを与えている。

 影月も刀でゴーレムの腕を斬る。

「やっぱりここは雷霆魔神、絢爛魔王、このオレ! 魔王ビーム!」

 ゼロ兄がしっかり決め台詞を言ってから魔法を撃つ。ゴーレムの頭が消し飛んだ。相変わらずの馬鹿火力だ。


 難なく灼熱ヘルゴーレムを倒し、宝箱を手に入れる。

 煌めきの灼熱溶岩は確定で1つドロップする。他にもレアドロ武器の灼熱大帝というハンマーもドロップした。

「お! 武器もドロして一件落着やな!」

 すぐに帰ろうとする影月。

「49回」

「へ?」

「強化には50個居るからあと49回」

「お、おおぅ、マジかぁ」


 5周目

「ヒメキチ……ヒメキチ……」

 それ以外の言葉が出てこない。ヒメキチと会いたい。

「あかん! ヒメキチはん欠乏症でザインはんが壊れた! 白目むいてる!」

「ザイン! しっかりしろ、まだ5周目だろ!」

 影月とハイドが俺を揺する。

「くっ、この暑さ、もしかしたら兄弟がやられた原因の一つかもしれない」

 オッドアイの左目を押さえポーズをとるゼロ兄。


 20週目

「ヒメキチ……ヒメキチ……」

 会いたい……

「……俺だって彼女欲しい。何で俺だけ……」

 ハイドは下を見て項垂れながらダンジョンを進み始める。

「何でハイドはんまでやられるんや!」

 気晴らしにと余計なことを色々言ってハイドにダメージを与えた影月が驚いている。

「兄弟に続いてハイドまで!? というか影月の所為だろ!」


 45週目

「ヒメキチ……」

「……ああ、モテたいぃぃぃぃぃ」

 壊れたように同じことを連呼する俺とハイド。

「……」

 影月は神妙な顔をして何も言わなくなった。

「静かになるな影月!? オレにどうしろって言うんだー!?」


 50週目

「くっ! 魔王魔法を使っている場合ではない! オレがしっかりしないと!」

 魔王魔法を使わずに2本のナイフでゴーレムを切り裂き、素早く回避するゼロ兄。

 ゼロ兄が魔法を使わず、ナイフを使った方が強いのは周知の事実だ。

 ゼロ兄は一人で見事に倒し切った。

「はぁはぁ……」

 ゼロ兄がこちらを振り返る。死屍累々と言うに相応しい惨状だ。

「帰るぞ!」




「あ、ゼロ。それ、どしたの?」

 男3人を持って王都まで帰ってきたゼロの前にクリスティーナが現れる。

「クリスティーナか、これは……色々あって」

「そう、お疲れ」

 ゼロに労いの言葉をかけて、クリスティーナが3人の前に立つ。

「起きろ!」

 クリスティーナの一声で3人が飛び上がる。あまりの声の大きさに周囲の人がびっくりしている。

「え!? あ! クリスティーナ!?」

「おはようございます!? あれ? クリスティーナか?」

「ひゃあ!? クリスティーナはん?」


「全くもう」

「あ、あはは、本当に申し訳あらへんなぁ」

「反省して無いでしょ」

 影月がクリスティーナに耳を引っ張られる。

「そう言えば影月、中学生に手を出したって」

「なぁ!? ザインはん! そんな勘違いするようなこと言っちゃああかんよ!」

「へぇ、詳しく話、聞かせてくれるよね?」

 クリスティーナはモデル歴が長い、それ故に、モデルに手を出すような最低な大人も多く見てきている。

「ご、誤解やってー! 助けてハイドはん!」

 影月がクリスティーナに連れて行かれる。

「おう、きっちり絞られて来い」

「そんなー!」


「じゃあ、帰るか」

「ああ、そうだな」

「またな! 兄弟、ハイド!」

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