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14 白蛇の祭壇

「うぅ……酷い目に会ったんだけど……じーっ」

 ヒメキチがベルをジト目で見ている。

「本当にごめんなさい」

 ベルが頭を下げている。

「今ふわふわタイムか……」

 いつもしっかり者のベルが気を抜くと凄まじいポンコツになってしまう、ポンコツ状態のベルをふわふわタイム、とみんな呼んでいる。命名者はもちろんヒメキチだ。


 ヒメキチがベルの頬を引っ張っている。

「いひゃいへふ。ひめひゃん」

「戻って! 早く! お願い! 厄災を引き起こす前に戻ってー!」

 切実なヒメキチの声が聞こえる。

 苦戦している裏ボス戦中に道中で出てくるレアボスを引き寄せてしまう、0.1%のドロップ品を殴り飛ばして無くす、味方(影月かゼロ、時々、ハイド)を殴り飛ばして倒す、等々、ふわふわタイム中の厄災は挙げればきりがない。


 正直、俺も手に負えない。


「あっ」

 ベルの口から素っ頓狂な声が出る。そして、ヒメキチの顔が真っ青になった。

「またか? また?」

「ほーひふほほへふ」

「何言ってるのかさっぱり分からない」

 そして、2人の足に蔦が絡まり、吊られた。

「もうやだー!」

「あ、またやってしまいました」

 蔦が2人の体に絡みつく。おっぱいや尻が縛られ何ともエロいことに。

「だ、ダメ! もう! この体は兄助の物なのに!」

 ヒメキチが暴れて蔦から脱出を試みるが、暴れれば暴れるほど、締め付けられている。


 ベルが自分の頬を叩く。

「はい、もう大丈夫です」

 ふわふわタイムの厄介な所はベル自身には変化が無いから分かり辛いということだ。


 ヒメキチは地面にうつ伏せに倒れて動かない。

 それもそうだ、もう5回以上同じことをやった。一人でアルラウネ・オルターを倒すのも疲れた。しかし、ウタヒメの強化素材は手に入った。それだけが救いだ。

「ジンジンする……」

 股を押さえるヒメキチ。

「大丈夫か?」

「撫でてくれれば少しは治まるかも?」

 上目遣いで俺を見ている。

 え? 撫でる?


 ヒメキチのスカートの下に手を伸ばす。

 ヒメキチの潤んだ目が俺の手をじっと見ている。

「ダメですよ」

 ベルに止められた。

「……続きは部屋でね」

 ヒメキチがウインクをして蠱惑的な笑顔を見せる。

「ダメですからね!」


 ケツァルコアトルが居る祭壇に近づいてきた。

 見上げなければいけない程大きな祭壇の上を白い蛇が泳いでいる。

「ドラゴンですね」

「羽の生えた蛇、ドラゴンだな」

「え? ドラゴンで良いの?」

 祭壇を登っていく。祭壇も花が覆っていて登り辛い。


「ゲームの中で本当に良かった」

「あー、確か兄助花粉症だったよね」

「反応する花じゃ無いけど、鼻がムズムズするっていうか」

「私はアレルギー無いから分かんないけど、かわいそう、いっぱい甘えて良いからね」

「え? そういう話でしたか?」

 話をしながら祭壇を登り切る。祭壇の上も花で覆われている。

 ケツァルコアトル、アステカ神話において生贄を止めさせた神であり、豊穣や農耕を司る。

 祭壇に負けない程大きな体をうねらせながら空を飛んでいる。


「凄いですね。殴ってダメージが入るんですかね?」

 フワッとしたベルの言動にヒメキチと一緒に後ずさりをする。

「大丈夫ですって! 今はちゃんと気を引き締めていますから!」

「ほんと?」

「はい。大丈夫です」

 ガッツポーズをするベルに不安を覚える。


 祭壇の中心に進む。

 ボス戦開始の表示が出て、ケツァルコアトルがこちらを向く。

「しゃーっ!」

 鳴き声は普通の蛇なのに、その巨体故に鳴き声だけで花弁を吹き飛ばし舞わせる。


 ケツァルコアトルはその巨体を使って体当たりを仕掛けてくる。

「デカすぎだろ……逃げる場所すら無いぞ」

「ザイン君とヒメちゃんは当たると不味く無いです!?」

 ベルが叫びながら祭壇の端に向かう。

「どうするの!?」


「攻撃バフを頼む」

「え? うん、分かった!」

 ヒメキチがバフをかけてくれる。攻撃バフしか頼んでないのに防バフに素早さまで上がっている。流石気が利く。

「俺の後ろに居ろよ」

「うん」

 ヒメキチが後ろで小さくうずくまった。


 ケツァルコアトルの体が目の前まで迫っている。

「ザイン君!?」

「これだけ分かりやすく攻撃してきてるんだからさ」

 ウタヒメに手を掛ける。


 体当たりが当たる寸前で剣を振る。剣はケツァルコアトルの牙にしっかり当たり、カウンターを喰らったケツァルコアトルは向きを変え横に飛ぶ。

「道中は状態異常、ボスはシンプルなパワータイプか、対策しないといけないことが反対か、面倒な訳だ」

「兄助、しっぽ!」

 尻尾が大きく振り上がった。

 速い、大型トラックのような尻尾が祭壇に叩き付けられる。


 ヒメキチを担いで祭壇から跳ぶ。祭壇が真っ二つに割れた。

「何て火力だ……」

 残骸が花畑に降り注ぎ、モンスターが異常を察知し暴れ始める。

「大惨事だね……」


「はぁ!」

 崩れた祭壇の砂煙の中からベルの声が聞こえ、大きな瓦礫がケツァルコアトルに飛んでいく。

 ケツァルコアトルの顔面に瓦礫が直撃し、ケツァルコアトルが落ちてくる。

「やりました! 追撃お願いします!」


 着地した先でアルラウネとマンドラゴラに囲まれてしまった。

「ヒメキチ、このままで大丈夫か?」

「うん、というか、私を捨てても良いよ、邪魔でしょ? 冥月の大鎌さえ取れれば良いんだし」

 ヒメキチの目は本気だ。悲しみが声がから滲み出ている。

「お前だけは捨てられない」


 ヒメキチを抱えたまま走る。

 跳んでアルラウネの肩を踏み跳び越える。

「うわぁ、兄助いつもこんな景色を見てるんだね!」

 楽しそうな声が耳に入る、さっきまで悲しそうだったのに忙しい奴だ。

「しっかり掴まってろよ」

 ラブリュスを取り出す。


 ケツァルコアトルの頭にラブリュスを振り下ろす。

 ヒメキチの破格があってもダメージがほぼ入らない。

「うわ、かったぁ!?」

「厄介過ぎるだろ」

 ケツァルコアトルが起き上がる。

 ラブリュスを投げて追撃を入れておく。


 ケツァルコアトルが咆哮を上げる。

 雑魚モンスターが吹き飛ばされていく。

 尻餅をついてこけたヒメキチを咆哮から身を挺して守る。

 咆哮が終わり、ケツァルコアトルの鱗が輝いている。

「パワーアップするのか……」


 もう一度瓦礫がケツァルコアトルに投げ飛ばされる。

 ベルの正確無比の投擲、しっかりと瓦礫はケツァルコアトルの頭に命中する。

「流石過ぎるな」

 俺も武器を投げつけるが、あんな大きいものを投げることは無い。

「ヒメちゃん! 私にもバフお願いします!」

 担いでいたヒメキチを降ろす。

「うん、了解! 行くよ!」


 黒魔の杖を取り出し、増え続ける雑魚モンスターの方を見る。

「フレア!」

 地面に杖を突き立て呪文を唱える。

 目の前に火の球が出来る。そして、モンスターが集まった瞬間に爆発し火の粉をまき散らす。

 ボス以外は全て植物族モンスター、炎が弱点だ。MPを全て消費したが全滅させることが出来た。これでケツァルコアトルに集中することが出来る。


「兄助? わ! 凄い全滅させてる!」

 バフを掛け終えたヒメキチが俺の方を振り向く。

「まだケツァルコアトルが残ってるだろ」

「そうだね、さあ、最後まで頑張るよ!」

 うなずいてケツァルコアトルを見る。

 ベルが殴ってダメージを与えている。ダメージに耐えられず落ちてきた。

「ザイン君! 挟み撃ちです!」

 ケツァルコアトルの後ろから声が聞こえる。

「分かった!」

 落ちていたラブリュスを拾う。


 ベルが殴るのと同時にラブリュスを叩きつける。ヒメキチも最大まで攻バフを付与する。

 凄まじい体力を持ったケツァルコアトルがやっと倒れた。

 大量の宝箱が降って来る。

「やっと終わった……」


 ヒメキチが最初の宝箱を開ける。

「冥月の大鎌出たよ!」

 ヒメキチが禍々しい大鎌を取り出して掲げる。

「おお! やりましたね!」

「これで世界大会の予選に出られるんだろ?」

「うん! やったよ! 兄助!」

 鎌を持ってぴょんぴょん跳ねるヒメキチ、危なっかしい。


 次の宝箱を開ける。また、冥月の大鎌が出てきた。ギルドで一本で十分のはず。

 次の宝箱からも冥月の大鎌が出てきた。ヒメキチとベルも大量の冥月の大鎌を持ってこっちに来た。

「ねえ、兄助、もってるのってもしかして?」

「笑えない……」

 結局宝箱からは冥月の大鎌しか出てこなかった。

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