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13 太陽の花畑

「あ、そうや」

 打ちひしがれていた影月が立ち上がった。

「この前、日ノ下が負けたことは」

「無様にボロ負けしたんだろ?」

「そ、そこまでやないで。僕と奴以外が倒れ、僕がダメージを追ってしもただけやからな。言わば、判定負けや」


「相手のギルド名はコートカオス、聞いたことある?」

 みんな首を横に振る。

「正体不明の新生ギルド、コートカオス、ギルドマスター、シューベルト。色々調べても、それ以上の情報が出てこないんや、不思議やろ?」

「それがさ、見たんだ」

「へぇ、何処で?」

「駅前」

「へぇ、駅前……駅前!?」

 影月が驚きで腰を抜かす。


「なるほどなぁ、さっぱり分からん」

 駅前で会ったことを影月に話した。

「流石似非関西人、全く役に立たない」

「いやぁ、ほんと、申し訳あらへん」

「現実にゲームの中と同じ姿の人……か、無茶苦茶にも程があるな」

「あと、たぶん、チート使っとるで」

「は?」

「自動回避っていうスキルがあるやろ? PVEかつ初心者用の」

「それを使ったってことか?」

「そうやで、攻撃が一切入らんかった。攻撃が確実に当たるって瞬間でも回避行動が発動して避けられるんや」

「でも、上手い奴なら、それくらい出来るんじゃねえのか?」

「ハイドはん、ザインはん、これ見てみ」

 影月に見せられた映像にはあり得ない体の動きで回避する様が見える。腕や足が反対に曲がり、体を貫通している。

「運営は?」

「さあ? 動いてくれへんっぽい」

 沈黙が流れる。これ以上は本当に情報が無いようだ。




「あ、そうだ。ザインはもう挑戦権は取りに行ったか?」

「挑戦権? 何だそれ?」

「世界大会の挑戦権に決まってるだろ」

 ヒメキチを見る。

「えへへ、一緒に行こうかなって思ってたの」

 てへっと舌を出してウインクをする。

「そうか」


「次合う時は、決勝か準決勝か、楽しみやな」

 この場に居る人員の目の色が変わる。次合う時は敵だ。


「行くか」

「ドウジ? あ、置いて行くな! じゃあな、ザイン!」

 銀龍旅団の二人が歩いていく。


「次こそは勝って、入らなかったことを後悔させますから!」

「おう、頑張れ」

「挑戦お待ちしてますね! カレン先輩」

 凛聖女協会の面々も行ってしまった。


「そうそう、ザインはん」

 残った影月が声を掛けてくる。

「何だ?」

 影月は俺をジロジロ見て笑った。

「次戦う時は絶対に僕が勝つからな。覚悟してや」

 影月はそれだけ言い残し歩いていく。

「だからな、絶対負けんといてな。ザインはん」




 後日、ヒメキチとベルと挑戦権を取りに行くことになった。

「酷いです。私もウィルちゃんと久しぶりにお話したかったんです。それに次は誘ってくれるって言ってたのに」

 ベルがちょっとむくれている。

「ごめんね、ベルさん、どうしても時間が合わせられなかったから」

「だってさ」

「ザイン君も教えてくれても良かったんですよ?」

「俺はそういう担当じゃない」


「挑戦権は、太陽の花畑の最深部に居るボス、ケツァルコアトルがドロップするんだって」

「挑戦権がドロップってどういうことだ?」

「今だけ特別にドロップする、冥月の大鎌、っていう武器が挑戦権の代わりなんだって」

「なるほど」

 花の匂いがし始め、花畑が見えてくる。


 見渡す限りの花畑、色とりどりの花が咲き乱れ、花弁が宙を舞う。

 白い大きな太陽が空の中心を陣取っている。

 時折流れてくる大きな雲が薄明光線を作る。

「これが太陽の花畑」

 幻想的な光景にヒメキチとベルの二人は黙って景色を堪能している。


 遠くに花に包まれた祭壇が見える。その上を優雅に泳ぐ白い蛇も見える。

「凄いね……」

「神秘的過ぎて人の世界じゃないように見えますね」

 花に紛れてモンスターの姿も確認できる。茨で出来た蛇や花弁で出来た動物。アルラウネにマンドラゴラの最上位種が花の中で見え隠れする。


「流石に裏ダンジョンの中でもトップクラスで面倒なだけはあるね」

「状態異常攻撃が多いですからね。無効アクセ付けてます?」

「持ってない」

「あ、どうぞ、私、何個か持ってますから」

 ベルから指輪を受け取る。

「ありがとう、ヒメキチは?」

 ヒメキチが頬を膨らませている。

「えっと、ベル、申し訳ないんだが」

「ははは、全然、大丈夫ですよ」

 ベルに指輪を返す。


「はい、せっかく頑張って取りに行ったんだもん」

 ヒメキチが指輪を左手の薬指にはめる。まるでプロポーズだ。

「ありがとな、ヒメキチ」

 ヒメキチを撫でる。口から空気が抜け朗らかな笑みが戻ってきた。

「本当に兄妹みたいですね」

 ベルが俺達を見て微笑む。

「そこは新婚って言ってよ」

 ヒメキチがいつものように抱き着いてくる。

「ま!? まだ早いです!」

 ベルが顔を真っ赤にして慌てているのを見てヒメキチが笑った。


 三人で慎重に花畑の中を進んで行く。

 舞い散る花弁で視界が覆い隠される。一歩間違えればモンスターの大群の中に出てしまう。丁寧にゆっくり進まなければいけない。

「綺麗だけど、ちょっと目が疲れる」

「精神の方に疲れが……」

 道なき花の中を歩くだけで疲れてくる。


「あ……」

 先頭を歩くベルが急に止まり、ヒメキチがベルに追突する。

「ベル?」

「すみません、踏んでしまいました」

「……何を?」

 ヒメキチとベルが浮いた。


「ひゃあ!?」

「す、すみませ~ん!」

 踏んだのはモンスターの蔦か、ヒメキチとベルの足に蔦が絡まって宙吊りにされている。

 ヒメキチがスカートを押さえて顔を真っ赤にしている。今日はピンクの縞パンか。

「あ、兄助! 助けて! っていうか、いつでも見せてあげるから、早く助けて!」

 スカートを押さえてジタバタ暴れている。

 ベルは力を抜いてぶらーん、と動かない。

「こんな時、格闘勢は不利ですよね~」

「確かに」

「言ってる場合じゃないよー!」


 二人の下から大きな花が出てくる。アルラウネ・オルター、中ボス扱いだが野良で出てくる。

 普通の大きさのアルラウネは俺と同じくらいだが、こいつは、桁違いに大きい。2メートル近くあるんじゃないか?


 アルラウネが蔦を振り上げ鞭のように叩きつけてくる。

「はぁ」

 溜息が出る、鞭の類は苦手だ。

 回避しながら、アルラウネ・オルターに接近する。

 そして、剣を振る。

 ダメージが体力の1割も入らない。流石ウタヒメ、全ステータスが1なだけのことはある。

「硬い! バフ!」

 ヒメキチを見る。蔦が股や胸に絡まり大変なことになっている。

 バフは無理そうだ、ラブリュスを取り出し、振り下ろす。


「むぎゅ~」

 アルラウネ・オルターが倒されても蔦は絡まったままだった。ベルは自力で出ることが出来たのだが、非力なヒメキチには無理だった。

「大丈夫か?」

 蔦をヒメキチから取り外していく。

「あっ! あっ!」

 ヒメキチから艶めかしい声が出る。

「はぅん」

「ああ! もう!」

 艶やかなヒメキチの声と戦いながら蔦を取り外した。無駄に疲れてしまった。

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