リベリオンズジョーカー

一章

12 言い訳の言い訳

「わぁ！　凄い！　兄助凄い！」

　ヒメキチは杖を抱えてぴょんぴょん跳ねている。

「引き続きバフ頼むな」

「もちろんだよ！」

　カレンは厳しい表情で体勢を整える。

「流石ですね」

「そうかもな」

「ええ、ですが、負けません、負けたくなんかありませんから！」

　カレンの闘志が燃え上がるのが見える。

「リノ！　ウィルさん！」

　カレンは槍を掲げる。

「光よ、集え！　聖女決起の時！」

　高らかに叫ぶカレン。

「プロテクト・ベール！」

　カレンとリノの防御力が桁違いに上がる。

「ウィルウィルが防バフ！？　バフは私の領分なのに！」

「ヒメちゃんだって回復するんだからいいでしょ！」

　ヒメキチとウィルが言い合いを聞いている間にカレンとリノに挟まれる。

　リノが足元をハルバードで薙ぎ払い、カレンは上段を槍で切り払う。

「良い連携だ」

　重装甲のリノを踏み台にして空中に逃げ、攻撃を避ける。

「オマエ！　鬱陶しいぞ！」

　カレンもリノを踏み台にして追いかけてくる。

「マジか……」

　声が漏れる。

　カレンが槍を振り上げる。

「負けるわけにはいかないんです！　何としてもあなた達をスカウトしたいんです！」

　カレンは空中で槍を振り下ろす。剣でガードするが、地面に無理矢理落とされバランスを崩す。

　リノが追撃でハルバードを振り下ろす。

　笑いが出る。バランスを崩したまま跳び追撃を避ける。

　剣を持っていない左手で安く売っていたナイフを取り出す。指に挟むようにして4本を持つ。

「やるじゃん」

　カレンとリノにナイフをばら撒くように投げる。リノはカレンを守るように前に出る。

　その横を走り抜ける。

　カレンからは俺が見えず、リノは守るのに必死になっている。

「ザイン君！？」

　狙い通りウィルががら空きだ。

「悪いな、ウィル。その防バフがあると厄介なんだ」

「ひゃあ！？」

　ウィルを斬り倒す。

　影が見える、後ろからカレンが来ている。

　振り向きながらカレンの攻撃を打ち払う。

「くっ！」

「甘いって言っておこうか？」

　右に剣を投げる。そして、左側からカレンの横を抜ける。カレンは剣に視線を奪われている。

　ナイフを両手に拾ってリノに向かう。

「オマエ！」

　ハルバードの叩き付けをナイフで逸らす。

　右手のナイフをリノの目の前で上に投げる。

「ヒメキチ！」

「おっけー！　アーマーブレイク・エクステンド！」

　ヒメキチがアーマーブレイクのバフを付与してくれる。

　そして、リノの胸部装甲を殴り貫く。

「装甲が！？」

　落ちてきたナイフをキャッチして装甲の無い部分を斬り付ける。

　攻撃バフと人数補正でリノを一撃で倒す。

　剣が壁に跳ね返って手元に戻って来る。

「……そこまで計算して？」

「ある程度はな、あとは感覚で覚えるしか無い」

　人数差もひっくり返されたカレンは苦笑いしている。

　呆然とするカレンを斬り倒す。

　ギルド戦終了の銅鑼が鳴る。

「お疲れ、兄助、カッコ良かったよ」

　抱き着いてくるヒメキチを撫でる。

「ありがと、バフ助かった」

「うん、私、兄助の為なら何でもやるからね」

　カレン達が控室から戻ってきた。体力が0になると控室に送られる。

「どうですか？　カレン先輩」

　ヒメキチが勝ち誇った笑顔を見せる。後ろからその頬を摘まむ。

「完敗です」

「姉様……」

「どうすれば……そんなに強くなれるんですか？」

　カレンが視線を落とす。

「それを考えることじゃないか？」

「え……」

　カレンは考え込み始めた。

「勝ちたい相手の事を知って、勝つ手段を知っていく、そうすれば強くなってるものだろ？」

「もちろん、自分の得意なことを押し付けるのも手だよねー？」

「そうだな。でも、それが対処されれば負けるんだから、その時の手も考えないとな」

　うんうん、とうなずくヒメキチ。

「強いってそんな一筋縄なことじゃないぞ？」

「いやぁ、凄い試合やったな」

　影月が何処からか出てきた。

「居たのか」

「うん、見とったで」

「気持ち悪」

　ヒメキチが冷めた目で影月を見ている。

「ウィルに影月にヒメキチにアイン、いや、今はザインか、よ！」

　突然聞こえてきた声の方を見る。

「ハイド」

　ツーブロックの黒髪の爽やかな男がやって来る。ハイドだ。その隣に短髪の男が居る。

「久しぶり、相変わらず強いな」

「ああ、久しぶり」

「こいつか？　こいつは今、俺が居るギルドのギルドメンバーのドウジだ」

「銀龍旅団のドウジはんやな」

　銀龍旅団、日ノ下に次ぐ実力を持つギルドだ。

「俺はドウジだ。よろしく」

　ドウジは影月を一睨みしてこちらを向く。

「一応、僕はドウジはんとはリアルで知り合いと言うか……その」

　影月にしては歯切れが悪い。

「そう言えばドウジの妹と影月は付き合ってるんだったな」

　ハイドの言葉にみんな絶句する。

「ハイドはん！？　言葉を濁しとるのにそんなにはっきり言う！？」

「その上、ドウジは虎助の孫だしな」

「おい！　ハイド！」

　ハイドはドウジに掴みかかられる。

「どうせ、虎助と話せばすぐ分かることだろ。それよりだ」

　ドウジは渋々ハイドを放す。

「ドウジの妹、まだ高校生なんだよな」

　空気が凍り付いた。

「影月さん……」

　ウィルがカレンとリノの前に立って、影月から守る。

「ちょ、ちょっと待ってくれへん！」

「事実なの？　事実ならティーナンに報告しないと」

「ヒメキチと同じくらいじゃなかったか？」

「分かった。ティーナンには私から言っておくから。反省してね、影月」

「事情があるんやって！　な？　聞いてくれへん？　ザインはん！」

　影月が俺に縋りついてくる。

「気持ち悪い、寄って来るな」

　影月の釈明を聞く。ドウジと影月は幼馴染で、妹さんとも昔からの知り合いだったこと、親公認ということ、相手から告白してきたことを言い訳として使ってきた。

「男らしくない、一回ティーナンにボコられれば？」

「まさか、日本一のギルドのギルドマスターがこんなのだと思いませんでした」

「キモイ」

「影月さん、私、頑張って見捨てないようにしますね」

　女性陣からの評価は散々だ。

「ザ、ザインはん」

　ゾンビみたいになった影月が俺を見ているので、視線を合わせないようにする。

「そんなぁ～」