108 最後の1
俺の言葉に怯んだアーサーの隙を突き、駆ける。
分身の間を駆け抜け、アーサーの本体が腕が届く範囲まで入る。
渾身の力でアーサーを殴る。
そして、比較的に装備の厚くない防御の出来ない首を水晶突剣で刺し貫く。
驚きの声も悲鳴も上げない、マフィアなどを壊滅させる時、いつも最前線に居るという、戦闘のプロなだけはある。
そして、分身がまた消えていった。
「人数が減ると、フレンドリーファイアー無効のスキルも意味が無くなってくるな」
呆れるような声を演じているが、焦りと憤りが声から少し出ている。
「どうした? それで止められるのか?」
瞬時に狙いをつけ、ブラックモルモットの引鉄を引く。放たれた弾丸は本体のアーサーの額に穴を開ける。
本体が倒れるのと同時に分身が消えていく。
アーサーが一瞬の事にどう対応して良いか戸惑っている。
走って他の本体に近づき、飛び蹴りを顔に叩き込む。体勢を崩したところにブラックモルモットの弾丸を撃ち込む。弾丸はメットを破壊し、本体のアーサーを貫通する。
「こうも強いと焦りも怒りも笑いになってくるな」
蹂躙されている現状を見てアーサーは苦笑している。
動く事も辞めてしまった。
回し蹴りで蹴り倒し、首を切り裂く。
「1万の軍を持ってしても、押す事さえ、出来ないのか」
嘆きが聞こえる。
それでも、無抵抗な本体を倒していく。
無力さを嘆いた所で何も得られない、何も守れない。それはアーサーだって分かっているはずだ。
アーサーが動かない間に分身を出している本体を叩いていく。
「流石だ。流石だが、俺は負けられない」
ぶつぶつと呟くだけでアーサーが動かなかった間に分身を出している本体を片付ける事が出来た。
「分身は全滅した。まだ、動かないつもりか?」
動かなかったアーサーがゆっくりとメットを脱ぐ。
金髪と整った顔が見えてくる。その目は怒りに燃えている。
「俺自身が不甲斐なく思うさ、だが、今だけは、何があっても勝たなければならない。やっとここまで来たんだ。勝たなければ、全てが無駄になる」
メットを投げ捨て、睨み付けてきた。
睨み付けられただけで、鳥肌が立つ。覚悟と憤怒がアーサーを焚きつけている。
「ああ、あの時、失敗していなければ、この大会から排除出来ていれば……」
どうやらシューベルト戦の時の事を言っているようだ。
「違うな。俺たちは最初から戦う運命にあった。ただそれだけだ」
「ああ、そうだ。だからこそ、面白い。俺を止められる可能性があるのがお前だから、面白い」
アーサーは左手でアサルトライフルを持ち、右手にナイフを持った。
「俺の痛みも苦しみも分からない、お前が俺を止められるはずがない」
アーサーは目を見開き、走り出した。
「お前が悲しんでいて、苦しんでいる事くらいは分かる。でも、お前の苦しみや怒りは分からない。だから、俺が止めるんだ。それが分かってしまえば、俺はお前を止められなくなる」
迎撃する体勢を取り、力を発動させる。
「俺はたぶん、お前に同情して、止めないだろうよ。その先が破滅しか無かったとしても! それは、俺には出来ない!」
アーサーの筋肉の動きから動きを計算する。しかし、何千何万と凄まじい数の行動パターンが出てくる。
今まで分身という形で1万人を相手にしたが、今はたった1人のアーサーの中に1万の考え、動きが存在している。
力を使えば使うほど、新たな動きが出てくる。
動きが読めない。
「俺はその覚悟は出来ている。この計画さえ成就すれば、破滅しても構わない! 多くの仲間が散ったいったのだ。俺だけ無事なんて!」
アーサーはアサルトライフルを撃ちながら、真っ直ぐ突っ込んできている。
読めなかった。
弾丸が足に当たり、慌ててガードする。
アーサーのナイフの突きを水晶突剣で防ぐ。火花が散り、ナイフが止まる。
「この怒りも憎しみも含めて楽しいさ。言っておく、これが俺の最後の切り札だ。動きは読ませる気は無い」
アーサーは目に強い怒りを宿しながら、笑った。
アーサーを蹴り飛ばし、ブラックモルモットで追撃する。
蹴りで体勢を崩されたアーサー、バク転で弾丸を避けながら体勢を整える。
ひたすらブラックモルモットで追撃する。しかし、当たらない。アーサーは左右にステップして弾丸を避けている。
ブラックモルモットから軽い音が聞こえた。弾切れだ。弾切れになる程撃つことが無かったから、気にしていなかった。
「どうした! ザイン!」
ブラックモルモットを撃たれ、ブラックモルモットがバラバラに壊れて、吹っ飛ぶ。
引鉄にかけていた指が反対方向に曲がる。少しダメージになる。
「予想以上だ。アーサー。俺を倒すのはお前かもしれないな」
ホワイトヒロインを取り出し、銃を曇って何も見えない空に向ける。
引鉄を引く。弾丸は天に昇っていく。そして、雲を撃ち破り、満月と星空が出てくる。
「まあ、負けるつもりは無いけどな」
ホワイトヒロインをアーサーに向ける。
「俺達が世界を征服しなくても、良い世界は作れるって俺は信じてる。俺とヒメキチのように互いの幸せを望めるように人はなれるから」
ヒメキチと戦ってきた今までの事を信じると力が湧いてくる。
「だから、俺はお前を倒す。行くぞ、アーサー」