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105/110

105 幾万の顔を持つ者

「兄助、おはよ。時間だよー」

 ヒメキチの声で目が覚めた。

「30分前だけど良かった?」

「ああ、うん、ありがとう」

 伸びをして、目を覚ます。少しだが頭は冴えた。

「今ね、フィクサーの手下の人達と戦いになってるの。ワープも出来ないし、闘技場にも近づけない感じ」

「はぁ!?」

「兄助以外とは戦わないつもりっぽいね」

「マジかよ」

 呆れた奴だ。そんなに俺相手とタイマンしたいのか。

「凄く嫌な予感がするの。もしも、酷い事になりそうだったら」

「大丈夫だ。もしも、俺の手に負えないようなら、降参するさ」

「うん、兄助と一緒に居られるだけでも、私幸せだからね」

「うん」

「私、行くね。みんなだけじゃ、大変だから」

 ヒメキチは泣きそうな顔を隠しながら部屋を出た。

「頑張ってね、兄助」




 ギルドハウスを出る。王都の人達の様子がおかしい。暗い絶望に支配された顔をして、こちらを見ている。

 闘技場への道を進む。誰もが悲嘆に暮れた顔で俺を見ている。

 世界の終わりでも見たような顔だ。それに、王都の外からヒメキチ達が戦う派手な音が聞こえてくる。

 世界が破滅する寸前で魔王に挑む勇者の気持ちが分かる。


「パピー!」

 道の先からマオさんが走ってきている。

「マオさん、今まで何処に? 用事が」

「パピー! 行ったらダメ!」

 言葉を遮られた。マオさんは腕を広げ、通せんぼしている。

「は?」

「何で本気で戦おうなんて言ったの! 勝てないよ」

「これでも元世界一位で、カインドさん以外には無敗だったんだけどな」

「確かに、パピーは強いのは分かってる。でも、フィクサーはパピーに負ける事は無い」

「それは最初からフィクサー側だからか?」

 マオさんが驚いた顔をしている。情報屋という相手に弱みを見せられない仕事をしているマオさんらしくない顔だ。

「何で……それを……?」

「情報屋が情報を無料にするわけ無いだろ」

 それっぽい理由を並べていたが、商品を無料にしてしまっては次からの仕事が舐められしまうし、信用が無くなる。

「バレてたんだ。パピーは凄いね」

 悲しい顔をしてヘナヘナと地面に座った。

「うん、私はフィクサーに雇われてたの」

 マオさんが俺を見上げる。

「ジャンケンで言うと、フィクサーの力はグーで、パピーの力はチョキなの」

 マオさんの顔も絶望に支配されている。フィクサーの力を知っているようだ。

「それで勝負が決まるのなら、俺は最初からここに居ない」

「フィクサーはね、世界の警察を取りまとめる事が出来る国際機関のトップなの、有馬が倒れた今、本当に世界そのものを手に入れたの。後はこの世界だけなの。それに比べてパピーは何の権限も無い高校生なんだよ! 何で戦えると思うの!」

「分からないから」

「え?」

「そんな事分からなかったし、今初めて聞いた。ついでに、実感もないしな」

「パピーのバカ」

「今ほど、知らない事、分からない事があって、バカで良かったと思える事は無いだろうな」

 マオさんは戦うつもりの俺に呆れてしまった。


「用事っていうか、頼み事があるんだけど」

「一応、聞くけど」

 ……

「パピー、流石にそれはバカだよ。依頼料だって高くつくよ? 払えるくらい持ってるの?」

「依頼料取るのかよ。刑事にも頼んでるけど、マオさんにも頼んでおいた方が盤石だからな」

「決勝に出なければ、頼む必要無いじゃん」

「ブックメーカーってどうなんだ?」

 マオさんは困惑した顔をしている。

「パピーに入れるバカは居ないよ」

「なるほど、なら、マオさんは俺に賭けてくれ」

「はぁ!?」

「それなら、優勝賞金なんて目じゃ無いくらいの額が手に入るだろ?」

「俺の依頼料は、勝つ事だ」

 マオさんが固まっている。

「あははは!」

 急に笑い出し、地面に倒れた。

「じゃあ、負けたら、その金額分、私の元でタダ働きでも良い?」

「負けないから良い」

 自信満々の不敵な笑みを見せる。

「取り引き成立ね。言質取ったから」

「ああ、しっかりやってくれよ」




 マオさんと別れ、闘技場までやってきた。誰も居ないかの様な静寂が闘技場を包み込んでいる。

 いつもなら、歓声や応援歌が聞こえてきたりするのに、本当に音が無い。


 闘技場のグラウンドに入るとフィクサーが立っていた。

「やっと来たか、ザイン!」

 PNがアンフィニティからアーサーに変わっている。

「いやいやいや、どういうつもりだ」

「タイマンだ。俺かお前どちらが世界を手にするのがふさわしいか決める戦いだろ?」

「じゃあ、何でこんなに居るんだよ!」

 グラウンドを埋め尽くす程アーサーと同じ姿のフルフェイスメットの連中が居る。

 どう考えても1対1じゃない。

「1万だ」

「ギルド戦は最高でも15人しか出られないだろ!」

「残念だが15人以外は分身だ」

「何が残念だよ、1対15でもタイマンじゃないだろ」


「この15人は全て俺でもか?」

「……は?」

 アーサーが何を言っているのか理解出来ない。

「俺1人で15人を動かしている。それならここには俺とお前しか居ないだろ?」

「そんなバカな事が……」

「それが俺の力だ。個を極めたお前と、個にして群となった俺。まさに、お前を倒す為の力さ」

「セフィラと戦った時もなのか?」

「ああ、あそこには俺とお前、シューベルトとヒメキチしか居なかった」

 だから、フィクサー以外に数人居たのにフィクサーしか話さなかったのか。それ以外の奴でわざわざ話す理由がない。

「ここに居る1万人、全てが俺だ」

 笑いも出ない。1万人と戦うなんて考えもしなかった。

「さあ、始めようか! 世界の行末が決まる戦いだ」

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