103 心残りのあなた
「病気、事故、戦争、紛争、ありとあらゆる苦痛を無に、その為にあなた達を排除します」
メタトロンの言葉で浮いている武器が全てこちらを向いた。数多の星のように宙で武器が輝いている。
「どうしよう兄助! あれが降ってきたら避けられないよ!」
ヒメキチは目を回して慌てている。
「ヒメキチ、大丈夫だ」
ヒメキチはピタッと動きを止め、冷静さを取り戻した。
ヒメキチを抱き寄せ、お姫様抱っこする。
「うわぁ、これは最高に幸せなやつだよー!」
息を整え、力を発動させる。武器の角度から落ちくる場所を算出する。
「ヒメキチ、撃てる?」
「もちろん。任せて」
ヒメキチは抱き抱えられながら、ニヤッと笑って銃を構える。
「全て無に帰す粛正を」
雨のように武器が降り注ぎ始める。
「私達はこの世界を管理する者。武器、盾、アイテム等、全てを呼び出せます」
「堂々と手の内を明かすとか、どれだけ自信があるんだよ」
手の内は分かったが、対策は見つからない。単純に戦力差が出ている。
降り注ぐ武器の隙間を通り抜け、回避する。
「ヒメキチ、撃って!」
「分かった!」
武器の隙間を縫って、ヒメキチが引き金を引く。
放たれた弾丸はメタトロンの眉間に迫る。
「可能性などありはしない」
メタトロンの目の前で弾丸が真っ二つに切り裂かれた。水晶突剣が弾丸を切り裂いていた。
水晶突剣は突如、弾丸の前に現れ、弾丸を切り裂いて消えた。
「ザイン。あなたの持つ絶望、憎悪、その全てを無に帰して差し上げましょう」
一瞬の間に持っている武器が消え、天井に突き刺さっている。
「武器が!」
全ての武器を奪われてしまった。
「苦痛無き世界はあなたを待っています」
「俺達は、絶望、憎悪、乗り越えて強くなってきたんだ」
「その強がりの強さももう必要ありません。絶望、憎悪、苦痛はありませんから」
「そんなつまらない世界要らない! でしょ?」
ヒメキチが目を合わせてくる。
「そうだな。苦しみや悲しみがあるから、嬉しさの尊さが分かるんだ」
「何故分からないのでしょう。それは苦痛に侵されているだけなのだと」
「ヒメキチ、アフターグロウを撃ってくれ!」
「分かった!」
天井に刺さっているアフターグロウをヒメキチが撃ち抜く。
何度も弾丸が直撃したアフターグロウが揺れ始め、そして、天井から抜け、落ちてくる。
アフターグロウをキャッチする。
「無駄です」
「さあな」
奪われる前にアフターグロウをメタトロンに投げる。
アフターグロウは降っている武器を破壊しながら、メタトロンに迫る。
武器破壊と盾破壊のスキルがアフターグロウには付いていて、他の武器よりメタトロンに届く可能性は高い。
メタトロンの前にクリスティーナが使っている、不滅盾イージスが現れる。
イージスとアフターグロウが直撃する。
アフターグロウは止まり、イージスは崩れた。
しかし、メタトロンに弾丸が撃ち込まれる。
「……愚か」
メタトロンはダメージを受けたリアクションを見せない。
「ダメ……全然効いてない」
「無敵だとでも言うのか」
武器の雨の勢いが強くなっている。
手元に武器が無い事が問題だ。攻撃も防御も出来ない。ヒメキチを抱き抱えたままだと蹴りも出来ない。
しかし、ヒメキチを離せば、ヒメキチが武器の雨で潰される事になる。
武器の雨のせいで全く隙が無い。
「兄助、武器なら沢山あるじゃん」
「……なるほど」
左手でヒメキチを強く抱きしめ、右手を自由にする。
「あふぅ、最高」
「苦し……くは無さそうだな」
幸せそうなヒメキチの顔を見て安心する。
降ってきた剣を掴む。
「流石兄助、それをキャッチ出来るなんて最強だね!」
剣をメタトロンに投げ返す。
メタトロンは動かない。当たっているのにダメージにならない。
「大丈夫、続けてれば、絶対に勝ち目はあるから」
「……分かった」
ヒメキチに言われた通り、降ってくる武器を投げ返す。
何度当たっても無反応だ。それでも投げ返す。ヒメキチを信じる事なんて当たり前の事だ。
20発くらい投げ返した頃、メタトロンの前に盾が現れ、武器を防いだ。
「やっぱり!」
「何がやっぱりなんだ?」
「対策してたんだよ」
「無敵チートの?」
「うん、無敵チートを使われたく無いのは、あっちも一緒なんだよ」
後ろではシューベルトがプログラムを書いている。時間を稼がれてプログラムが完成されるのもメタトロンにとっては負けだ。時間を稼がれやすい無敵チートの対策は必須というわけだ。
「兄助、ガードされた武器は何だった?」
「……ロンギヌス」
最後に投げたのは見た事ある槍、ロンギヌスだった。
「それが勝利の鍵だよ!」
「ああ、次で決める」
ヒメキチが飛んだ。武器の雨を華麗避けながらメタトロンの後ろを取った。
「ラブクェイサーストライク!」
武器の雨を斬撃で薙ぎ払った。
薙ぎ払われた武器がこっちにまとめて来た。
その中からロンギヌスをキャッチする。
メタトロンに走る。
メタトロンの周囲に武器と盾が現れる。
「演算機能に集中」
武器が動き出し、迎撃態勢を取る。
「ふっ、相手が俺なのにそれだけで間に合うのか?」
迎撃しようとしている武器をロンギヌスで叩き落とす。
「成長しましたね」
一瞬だけメタトロンと母親と父親の顔が重なって見えた。
「そうだな」
メタトロンを守る盾を蹴り飛ばす。
メタトロンを守るものは無くなった。
「俺は1人じゃなかったからな」
メタトロンは動かない。メタトロンの胸にロンギヌスを突き刺す。
「ごめんね。兎乃」
「俺は感謝してるんだ」
メタトロンは膝をついて動かなくなった。