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102 天使の望む静謐

 長い階段を駆け抜ける。ゲーム内なので疲れる事は無いが、下を見るだけで、気分が疲れる。

「広いねー、何でこんなに広くするんだろ?」

「さあな」

 答えるのも面倒になってくる。

「広い土地は金持ちの証明だからな」

「関係あるのか?」

「世界を維持するシステムを詰め込むには広さが必要だったのだろうな」

 してやった感たっぷりの声でフィクサーが答えた。

「最初から真面目に答えろよ」

「でも、寂しく無い? 私なら兄助がすぐ手に届く範囲に居られる部屋の方が良いけどなー」

「寂しいんだろうよ。奴らもな」

 舌打ちをフィクサーに聞こえるようにする。

「これ以上余計な事を言うのはやめておこう。もうすぐ着く事だしな」




 階段を登り続けると、急に景色が変わった。

 青空だけの世界からモニターが360度張り付けられている仄暗い部屋に変わった。

「気を引き締めろよ」

 フィクサーに舌打ちを返す。

「まあ、俺が心配する事じゃ無いか」

 部屋の中心で有馬とメタトロン・システムが待っていた。

「来たんだね。兎乃君とアーサー」

「大学以来か? 互いに変わらないな。有馬」

「はぁ? お前ら実年齢いくつだよ?」

 少年の見た目で70を超えるアーサーと素性はほぼ不明の有馬、まさか大学が同じとはな。同窓生にあったと言うのに2人とも楽しそうな顔にはなっていない。話したく無いという顔をしている。

「兎乃君、君はセフィラを……」

「いやいやいや、待て、あいつらは何なんだ? 何で親しげに話しかけてくるんだ? そして、ケーって何だ?」

 言葉を遮られた有馬は思案している。

「ビナーか、彼女の感性は少し独特だが、ケーか……」

「ケテルか」

 フィクサーが先に答えを言い、有馬はため息を吐いた。

「そう、ケテル、セフィラの指揮官になって欲しかったんだ」

「……俺に?」

「うん、君なら、私達の仲間になってくれると思っていたんだ」

「ホクマーも言っていたな。俺にお前の良き友になって欲しいって」

「ホクマー……そうか」


「なってやるよ」

 悲しみに暮れていた有馬の顔が驚きに染まった。

「兎乃君、それは……!」

「勘違いするなよ。俺は友人として、間違った道に進もうとしているお前の目を覚ましてやるって言ってるんだ」

 空気が凍りついたようにみんな黙っている。

「兄助、それツンデレみたいだよ……」

 ツンデレという言葉が心に刺さり、凄まじいダメージを与えてくる。

「兄助元からツンデレな所あるから、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ」

「フォローになってない!」


「私の目は覚めているよ。兎乃君」

 強い意志が目から見える。

「話し合いで解決って訳にはいかないっぽいな」

 メタトロン・システムが有馬の前に静かに歩み出てくる。武器を手に取り、臨戦態勢を取る。

「俺は最初からそのつもりで作戦を立てている」

「そうだったな」

 フィクサーはシューベルトの守りに着いた。




「何故、あなた達は、救済を拒むのですか? 誰にも平等に自由と平和と幸福を齎すこの計画の何が不満なんですか? 私達には理解出来ません」

 抑揚の無い声で救済を語っている。

「私達の幸せは私達で決めるの! 勝手に私達の生き方を選ばないで欲しいんだけど!」

 ヒメキチが珍しく感情を爆発させて怒っている。

「ヒメキチの言う通りだ。俺達はアレで幸せなんだ」

「幸せ……そんなはずはありません。ヒメキチに全てを捧げ、学校に行く事すら躊躇っていた。それの何が幸福なのですか?」

「兄助……」

「それだけが行かなかった理由じゃ無いけどな。ヒメキチと俺が一緒に居ると、ヒメキチまで不真面目扱いされるかもって思っただけだ。まあ、それも、勘違いだったけどな」

「勘違い?」

 ヒメキチが目を回している。

「だって、カレン達とみんなで行っても結局何も言われなかっただろ?」

「うん」

「間違いや苦しみだって乗り越えられる。あんた達が居ない所でも俺は幸せを掴めるさ」


 メタトロンは目を閉じた。そのまま動かない。

「苦痛など無い方が人類は幸福で居られるのです」

 メタトロンの背後に様々な武器が現れ、宙を浮いている。

「苦痛は人類を狂わせる。ヒメキチの父親もそうだったではありませんか」

「……っ!?」

 ヒメキチの顔が少し強張った。妻が死んだ苦痛から薬という快楽に手を出し、狂っていった。その結果、ヒメキチは酷い思いをしている。

 メタトロンが目を開ける。

「この世界にそんな物は無く、そんな事は起きない。その素晴らしさを何故理解出来ないのですか?」

 ヒメキチが震えている。

「誰にも苦しめられる事なくあなた達2人で生きていけます。少し手を伸ばせば、苦痛の無い世界で仲間達と生きていけます」

 ヒメキチがうつむいたまま顔を上げない。

「さあ、私達と共に」


「やめてよ!」

 浮いている武器の1つに穴が空いた。ヒメキチの銃からは煙が上がっている。

「嫌な思いだってしてきた、でも、その度に兄助は私を助けてくれたから、私はこの世界の誰よりも幸せだって言える。あなた達がくれる幸せなんかより何倍も幸せだって胸を張って言えるの」


「ヒメキチ」

「兄助」

 2人で見つめ合う。ぱっちりとした大きな目で澄んでいる。

「流石にそこまで言われると恥ずかしい」

「ちょっと!?」

「なんて、ツンデレのお返しだ」

「もぉ!」

 ヒメキチが頬を膨らませている。

「そういう訳だ。俺もこれ以上無いくらい幸せなんだ。その幸せの押し売り、お断りだ!」

 メタトロンに銃の照準を合わせる。

「仕方がありません。排除します」

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