教会にて
俺たち四人は教会に向けて歩いた。
時には人通りの多い大通りを歩き、時には人気のない路地裏を通り、最終的に辿り着いたのがボロボロで今にも崩れ落ちそうな、いつ崩れ落ちてもおかしくなさそうな小さな建物だった。
「教会って初めて見るが・・・・・・本当にこれが教会なのか?」
「僕も違う気がしてくるよ」
ライオン兄妹が何か言ってる。
「教会ってのは見た目よりも中の空間の方が大事なんじゃねえの?」
俺は二人に言った。二人は小さく頷いたが、まだ疑いの眼差しを向けている。
しかし、確かにこれでは教会というよりも廃屋だ。ギルドを探しに来た奴らがこの建物を見つけたとしても、瞬間にして違うと判断してしまうだろう。
「さすが雅さんですね。教会は中の方が大切で、中にはこの見た目からは信じられない程の広い空間が広がっています。さらに!教会の中では一部の認められている人以外の特体質は使えなくなっているんです!」
「「へー」」
兄弟は、次はティアに疑いの眼差しを向けた。その気持ちも分からなくはない。
ただ、ティアの話が本当だとすれば―――なるほど。空間の広さは知らないが、特体質を使用不能にするのは賢いな。教会が数多くの場所に存在するならギルドに多くの者が訪れるだろう。その中に暴れてやろうと考える奴がいないとは限らないからな。
「信じてないですね!百聞は一見に如かず・・・・・・って言っても分からないでしょうが、とにかく入ってみてのお楽しみです!」
「そうだな。早く行こうぜ!」
「僕も早く入りたいよ!」
それにしても何故こんな見た目になってしまったんだろうか。今までの戦闘を重ねた結果か?それとも―――
俺が一人で考えていると。
「止まれ!!!!!!」
一人の男が教会の扉を大きな音を立てて開き、大声でそう叫んだ。
「何だ!?」
ナギが驚き、ティアは困惑し、リリアはナギの後ろに隠れる。三人が各々の反応をする中、俺はというとそいつを警戒していた。
その男の見た目は、明らかに危ない輩だ。筋骨隆々でとにかく大きい。2Mは必ずある。服は自分の体を見せつけるためか若干布一枚で、体中に傷跡が目立つ。強面で睨みつけてくるあたりからして、向こうもこちらのことを警戒しているのだろう。
「ね、ねえ!ギ―――」
「止まれと言っておるのだ!!!!!!」
ティアが近づきながら何かを言いかけたところで男は再び叫んだ。
男の喚声にティアは体をビクつかせる。
「よお大男さんよ。なんのつもりか知らねえが、俺たちは教会に用があるんだ。そこどいて俺たちを通らせちゃあくれないか?」
ティアが怯えているのを見てか、それとも腰のあたりにしがみついているリリアに格好いい所を見せるためか(ちらちらとリリアの方を見ているところから見て後者の方が正解だろう)、大男に向かってナギが啖呵を切る。
そのナギは手に、見せつける様にビリビリと電気が流した。
そんなもの関係ないと言わんばかりに大男はナギを睨み、言った。
「なんのつもりかだと?それはこちらのセリフだ。素性も知れぬ者共め。さっさと平和でぬるま湯の日常に戻れ!!」
このセリフで明らかにナギとリリアの空気が変わった。
「待て、早まるな。相手がどんな奴かも分からないうちに仕掛けるんじゃない。ましてここは教会の前だ、仕掛ければどうなるかくらい分かっているだろう?」
俺はすかさず二人に声を掛け、制止しようとした。が、
「あいつは俺たちの何一つも知っちゃいねえ。のくせに、必死に生きてきた俺たちを馬鹿にしやがった。これは決して許されたもんじゃねえ。確実にぶっ殺す!」
ナギには確かな殺気があった。こいつは人を殺す覚悟がちゃんとある。制止したって無駄だな。
「あの。お二人に雅さんまで加勢しませんよね?」
ティアが聞いて来た。ティアの顔には不安が滲んでいる。
ティアの言わんとしていることは痛いほど分かる。いや、実際痛い。腕をつねられている。
でも。
「俺は確かに二人を止めようとした。でもまあ、だからと言ってこいつらが止まるわけじゃないし。それに」
「「「それに?」」」
「人を馬鹿にする奴の味方をするつもりもねえからな」
はあーーー
ティアの大きなため息が空気に広がり、消えていく。
ライオン兄妹はニヤリと笑い、一気に飛び出した。
「リリア!いつもの行くぞ!」
「おうよ兄貴!!風に乗りな!!」
リリアが走っているナギに手をかざし、そのまま上空に振り上げる。すると、ナギの場所に突然上昇気流が現れ、ナギの身体は上に吹っ飛ばされた。
その場のリリア以外の目がナギに向く。つまり上に向く。
「よそ見してる場合じゃねえぜ!!――【風刃】――」
その隙にリリアは両腕を十字に同時に振った。まさに風刃の言葉のごとく風の刃が男に超スピードで向かう。
「今日の天気は風時々雷で御座います。十分にご注意くださいませ!!――【雷閃】――」
そして、今まで上空にいたはずのナギが雷の残像を残して消えた。
俺は二人の勝ちを確信した。
真正面からは十字の風の刃。上空からは光速の蹴り。これは避けようがない。勝った、そう思った。
「そんな攻撃よける必要すらない」
男は仁王立ちしたまま。静かにそういった。
「なんだこれは」
この日、俺は初めて自分の目を疑った。