クエルという世界
第三話、編集しました。
最後の方のナギのセリフを変更しました。
「なるほどな。お前の住んでいた地球という世界についてはわかった」
俺は俺の世界、ナギにとっての異世界について説明をした。
はじめは俺の話も半信半疑に聞いていたナギだったが、最後には理解してくれた。
「でも、確かに。俺たちの住む世界、クエルにも魔法では説明できないものあるもんな」
「魔法ね」
ナギの言葉を聞いて俺は咄嗟にナギとリリアの力を思い浮かべた。
ナギの雷を操っているように見える力。リリアの風、空気、もしくは空間を操っているように見える力。
「お前たちのあの力もそうなのか?」
「馬鹿言うんじゃないよ。魔法と俺たちの『特体質』を一緒にするんじゃない…って、お前は『特体質』についても知らないのか」
特体質?
俺には何のことかわからない。いや、体質と名前につくくらいだ。もしかすると誰にでもある、一種の力なのか。
「人種、つまり俺やお前のような存在には差別なく『特体質』が宿っている。内容は様々だし、力の大きさも使いやすさも様々だがな」
「そうか」
大体予想通りか。
「もちろん。普通って『特体質』もあるぜ。お前はそれかもな」
「この世界の住人のお前がそう言うんだ。きっとそうなんだろう」
(別に特別な力なんていらないしな)
しかし俺はこの世界のことを知らなさすぎる。
「なあ、ナギ。今度はこのクエルという世界について教えてくれ」
「おお、いいぞ」
――――――
ナギ曰く。
この世界の名は【クエル】
クエルには5種の生き物が存在している。
1つは動物。これはいわずもがな、地球に存在する動物と同じだ。
1つは魔物。空想上の生き物だと思っていたドラゴンやペガサスや見たことも聞いた事もない思考を持たない生き物を指す。
1つは人間。これも言わずもがな、理解できるだろう。
1つは亜人。ナギやリリアのような、動物と人間が融合したような生き物。人間と動物の比率は様々で極端に言えば2足歩行のトカゲにしか見えない人もいるらしい。
1つは魔人。亜人とは違い、魔物と人間が融合したような生き物。
下三つは、まとめて人種と呼ばれるらしい。
クエルには四つの国と一つの領域が存在する。
・【シャングリラ】
クエルの中で一番大きな国。理想国と言われており、鐘・武力・政治的影響力も最も大きい。人種が大体同じバランスで住んでいるが、これは珍しいケースで普通なら戦争が起こってもおかしくないらしい。理想国の力ってことか。
・【ユーフ国】
シャングリラに隣接するとても小さな国。頭の悪い亜人の国で、表向きでは同盟関係にあるが、王も頭が悪いためにシャングリラに寄生するかたちで成り立っているようだ。シャングリラに助けてもらう代わりに、働き手を出しているらしい。
・【シイライ】
未開拓の地。開拓されていない土地が95%に上り、今なお腕に自信のある冒険者たちが挑んでいる。噂では数多くの、強大な力を持つ魔物や宝が眠っているらしい。
・【アラカム】
魔人のみの国。暴力的な魔人が数多くおり、盗賊、チンピラ、危ない薬の密売人、殺し屋などなどの危ない連中が密集しているらしい。できれば訪れたくないものだ。
・【魔界】
魔人だけの領域。国ではない。世界地図にも載っていない。何処にあるか分かっていない。しかし、存在していることは確かな土地。この場所に行くためには特殊な道具を使うしかないようだ。
ここの魔人たちはアラカムとは違い、シャングリラやユーフ国のようにしっかりとした政治的権威をもった者、つまり魔王が存在し、国ではないにしてもシャングリラの次に力を持っている。どうやらここの魔王は地球の、魔王という認識とはだいぶ異なった存在らしい。
【特体質】
地球人でもクエル人でも持っている特殊な体質。例えばナギの『雷纏い』やリリアの『風纏い』のような。高木さんの特体質は、ナギ曰く『癒し』系の上位の部類だとか。
しかし、地球人でも持っていると言っても、地球ではこの【特体質】の力がクエルに比べて大幅に小さくなってしまうらしい。理由はまだ判明していなく、研究が続けられている。
【教会】
教会と言っても宗教的な施設ではなく、二次元の世界でいうギルドと理解して相違ない。主に暴走している魔物の討伐や危険な地域に生息する薬草や動物の確保などの依頼を請け負っており、多くの冒険者たちが教会を拠点にして活動を行っている。数年に一度、魔物が暴走することがあるらしいが、その時は教会総動員で鎮圧にかかるらしい。
多くの地域に存在しており、そのすべてが一つの空間に繋がっている。その空間と施設をまとめて教会と呼ぶ。
そして一番大切と言っても過言ではない存在。
【繋門】
この門は、俺の世界、『地球』とこの世界『クエル』を繋ぐ門。俺もこの門を通ってクエルに連れてこられたようだ。
地球とクエルは秘密裏に貿易に近しいことが行われているらしく、この世界にも日本刀や銃などの武器を主に輸入しているようだ。確かにこの世界なら需要は高いだろうからな。
因みに地球がクエルから輸入しているのは、主に作物の種らしい。
(ナギは、魔法では説明できないものはどこかからの輸入品だとは知っていたらしいが、地球からとは知らなかったようで、俺から聞いて初めて理解したそうだ。)
―――――――
「ってとこかな」
「なるほど」
ナギのおかげで自分がどんな場所にいるのか大体把握できた。
それにしても不思議な世界だ。空想の世界が実在するなんて―――いや、待てよ。地球に存在する異世界系の小説の作家はこの世界の事を知っている可能性が?ありえなくはないな。
「おーい。雅さーん。買ってきましたー」
「兄貴ー。ただいま」
俺が余計なことを考えていると、高木さんとリリアの声が聞こえてきた。二人の手元には俺の衣類だと思われるものがしっかりと握られていた。
「ひとまず着てください。ついでに上の服も買ってきましたから」
「ありがとな」
俺は服を受け取り、下から身に着けていく。
薄手で薄肌色の、ゆったりとしたズボンにほぼ半裸のような格好になる上着。ナギと似たような格好だ。
「お似合いですよ雅さん」
高木さんが言った。
気付けば高木さんも服を着替えていた。この世界にあった格好というのか、露出の多い服になっていた。
「高木さんも着替えたんだな」
「ええ。それと・・・・・・」
「ん?」
高木さんが言葉を詰まらせる。言いたくないとか言いにくいとかではなく。言葉を選んでいるみたいだ。
「私は、ですね。実は高木由美という名前ではなく、ティアという名前なんです。どういうことかっていうと――――」
ああ。なるほど。
「ティアさんは元々こちら側の人間で高木由美というのは日本人としての偽名ということか」
「え?まあ、はい」
ティアさんは凄く困惑していた。どうして、なんで、そんな感情が目まぐるしく回っているのが分かる。
「物分かり良すぎだろお前。すげーな」
ナギが俺に言った。そんなにいいだろうか。ただ少し頭の回転は人より早いと思うが。
ナギの隣のリリアはまだ事情が分かっていないようで、首をひねっている。
「とにかくそういうことです。あと、私の事はティアでいいですからね」
「おう。分かったよティア」
俺が答えると、ティアは嬉しそうに笑って返事をしてくれた。何か嬉しいことがあったみたいだ。
「よし!それじゃあ皆さん。教会に行きましょう!雅さんに会わせたい人がいますので」
「「おー!!」」
会わせたい人か。誰だろう。
「さあ。雅さんも」
「「「おー!!」」」
恐らく俺をこの世界に連れてきたがった張本人だな。俺の疑問を直接ぶつけさせてもらうとしようか。
「兄ちゃんノリ悪すぎだぜ?」
こうして、俺のクエルの放浪の旅が始まる。
ご拝読ありがとうございました。天樹菜々です。
いよいよ冒険の始まりの予感。御門雅とその一行はどのように成長し、またどのように変化していくのか。見守っていただけると幸いです。