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順応性高い系男子の放浪記  作者: 天樹菜々
序章
3/5

下半身の行方

 「なん、で。お前はまだ生きてんだよ」


 再び視力が戻った時。耳に入って来たのは男の驚きの声だった。

 男の顔は真っ青とはいかないまでも、何か恐ろしい物を見ているような顔をしている。男だけじゃない、少女も高木さんもそうだ。


 何がどうなってるんだ?


 とにかく現状を確かめようと、俺は立ち上がろうとした。が、足に力が入らない。

 そうだ足は折れていたな。

 仕方ない。とりあえず上半身だけでも起こそう。そう思ったが、起き上がれない。どころか、下半身に力が一つも入らない。


 「おい待て待て!どうしてそんなに平然としてられるんだ!?」


 男が俺に怒鳴り散らす。

 何か驚くべきところがあっただろうか。あぁ、あの雷の球か?


 「あーー。なんかすっげ―光ってたな」

 「は?」


 とりあえず感想を述べる。

 あの球の事で間違っていないはずだけど、もしそれ以外の事なら・・・思いつかんぞ。


 男の反応を見る。

 男は驚いた反応をしたと思うと、すぐにニヤッと笑う。


 「いやぁ、光ってただなんてそんな。俺なんてまだまだだしよ~」

 「兄貴っ!」

 「痛っ」


 嬉しそうにくねくねする男を少女が叩く。少女は怒ったように頬を膨らませ、腰に両手を当てて男を下から睨み上げた。


 「今の別に褒められてないからな!それ、兄貴の悪い癖だぞ。それと、今はそんなことしてる場合じゃない。早くこの人治せるところに連れて行かないと。兄貴この人殺そうとしただろ!」

 「え?あーっと。殺すだなんて。あはは」

 「兄貴のあれ喰らって生きてたの、この兄ちゃんくらいだろ。少なくとも僕が見た中ではそうだ!」

 「よし!リリア。出発だ。急げよ、時間との勝負かもしれん!」


 男は少女の、男曰くリリアの言葉攻めから逃げる様に、両腕で俺を持ち上げて歩き出そうとする。

 だがそれにしてもおかしい。高木さんは一言も喋らず顔を青くしているし、男の見た目からして片腕で俺を軽く持ち上げられるはずがない。

 あ、もしかして。


 「なあ」

 「あ?なんだよ」


 俺は男に問うことにした。


 「もしかして俺の下半身。今、無い?」

 「はぁ?今更気付いたのかよ」


 予想通りだった。


 「リリア!こいつの頭側もって!」

 「あいさ!」


 男は俺の下半身があったはずの側を持ち、リリアと呼ばれる少女は俺の頭を、自分の頭の上に乗せるう様にして持った。 


 「よし。それじゃあ出発!」

 「おー!」


 と、二人が俺をどこかへもっていこうとした瞬間。


 「ま、待ってください!」


 高木さんが言った。

 高木さんは困惑した様子で、今目の前で何が起ころうとしているのか分からない様子だ。ちなみに俺も分かっていない。


 「なんだよ姉ちゃん。こいつ、助けなくていいの?」


 リリアが首を傾げて聞く。男はリリアの姿を見ながら頷いた。

 

 「いえ、そういうわけではなく。えーと、取り敢えずその人は私に任せてくれませんか」


 お?

 高木さんは予想外の返答をした。俺は高木さんにどうされるのか、予想が付かない。

 いや、待てよ。目の前のライオン兄妹は魔法に似た何かを使っているようだったし、もしかしたら高木さんも使えるのかもしれない。


 「姉ちゃん。大丈夫なのか?」

 「ええ。見といてください」


 そう言って高木さんは二人に俺の体を地面に降ろさせ、静かに俺の下半身のあるべき場所に向けて手を伸ばす。

 暖かい。まずそう感じた。しかもないはずの下半身で感じた。そして、その暖かみが段々と輪郭をなし、触覚へと変わっていく。


 「できました」


 気付けば俺の下半身は元通りに戻っていた・・・・・・そう、下半身『は』戻っていた。


 「えっ?」

 「リリア見ちゃいけません!」


 すぐに男はリリアの目を手で隠す。そして治した本人の高木さんも目を手で覆う。隙間は空いているが。


 とにかく…


 「なあ。パンツとズボン用意できない?」


 このままじゃ俺は露出狂の変態だ。



 * * *



 話し合った結果、服を買いに行くのはリリアと高木さんの役目になった。

 話し合いと言っても、リリアの兄が、女性を下半身丸出しの男の傍に置いておくわけにはいかないと言い張っただけだったが。

 ひとまず俺と男で、二人の帰りを待つ。


 「ナギだ。俺の早とちりで大変な思いをさせてしまった。すまない」


 男が右手を俺に差し出してきた。どうやら握手を求められているようだ。

 差し出された右手は既に高木さんに治してもらっている。


 「御門雅だ。別に気にしなくていい。お互い様だ」


 俺は握手に答えた。男の手はやけにごつごつとしていて常人の手とは思えない。この類の手は格闘技を、特に立ち技系の格闘技をしている男の手だ。それよりも堅いかもしれない。

 まあ俺には関係ない。こいつとももう会う事は、俺の服が手に入ったら無くなるだろうしな。


 「ん?」


 俺が手を放そうとすると、男が俺の手を通よく握った。


 「お前、闘っている最中にも思ったが、どこで闘い方を学んだ?相当闘いに身を投じたんじゃないのか?でないとあんな動きは出来ないと思うんだが」


 どこでと聞かれても。

 俺はたくさんの場所で武術を学んだ。だから特定の場所なんてない。それにすぐに辞めてしまったから。


 「別にどこでなんてない。時間もそんなにかけたことないよ」


 正直に答えた。なのに男は笑った。


 「そんなに強いのにそんなわけがないだろう。ま、いつか聞かせろよ。付き合いは長くなるだろうしな」

 「は?」


 付き合いが長くなる?どういうことだ。


 「お前、ギルドに所属するだろ?俺も所属するつもりだからな。試験、頑張ろうぜ!」


 へへへっ。と、ナギは陽気に笑った。

 ナギは笑っているが、俺には知らない単語が多すぎる。


 「なあ、ギルドとかマスターとか試験とか。なんのことだかさっぱりだ」

 「へ?何ふざけてんだよ。常識の範疇だろ?」

 「いや、常識も何も、この世界に来たのついさっきだぞ」

 「はぁ!?」


 ナギは何言ってんだこいつ、なんて引き攣った顔で笑った。

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