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順応性高い系男子の放浪記  作者: 天樹菜々
序章
2/5

獣臭さと人生の終焉

こんにちは。天樹菜々です。

第二話ですね。お楽しみくだされば幸いです。

 いつの間にか此処にいた。

 ひびが入り、苔やごみやらで汚れた建物の壁が作る路地裏。地面はレンガタイルでできている。

 どちらも日本ではあまり見ない光景だ。となると考えられるのは、ここが外国だということか。それとも・・・いや、まさかな。

 そんなことよりもまずは高木さんだ。


 「あ、あの」


 探そうとすると、後ろから服の袖を引っ張られた。

 後ろを向くと、申し訳なさそうにする高木さん。


 「怒ってます?」


 高木さんはそう聞いた。

 俺が何に対して怒るというのだろうか。


 「いいや。どうして?」

 「たぶん、雅さんならもう察しがついていると思うんですけど。ここは異世界です」

 「異世界」


 辺りを見渡す。しかし、見えるのは壁、それとレンガ。

 これだけ見ると、どこに異世界要素があるのかと突っ込みたくなる。それでも、異世界と言われて少し納得してしまっている自分がいた。

 それに、『雅さんなら』。これはどういう意味だろうか。

 いろいろと聞きたいことがあったが、とりあえず第一優先で聞きたいことがあった。


 「まず俺は何をすればいい?」


 ここに来る直前。高木さんは、世界を救ってくれないかと問うてきた。そして出現したのはこの異世界。ならば救うべき世界はこの『異世界』というわけだ。

 この状況で聞くべきはただ一つだった。


 「ふふっ。さすがですね。それでは私についてきてくださ―――」

 「おい!お前たち!!僕たちの寝床に何か用か」


 高木さんの話を聞いていると、突然後ろから怒鳴り声がした。

 その声は少し幼く、かわいらしい声だった。少女だろうか。


 「寝床?」


 少女の言葉に、あたりを見渡す。周りに寝床らしき建物はどこにもない。


 もう一度少女を見る。すると彼女は俺たちの足元を指さした。

 促されて足元を見る。なるほど、地面には何度も踏まれたのであろう汚くなった布のようなものが落ちている。これが彼女の言う「寝床」なのだろうか。


 「おっとすまない」


 とっさに足をどかし、持ち上げて汚れをはたく。


 「こんなことしか俺にはできない。すまないな」

 「別にいいけどよ。どうせこことはもうおさらばだしな」 

 「おさらば?それは…良かったな?」

 「いいかどうかは僕が決めることだ。あんたが決めることじゃない」

 「確かにそうだな」


 なるほど。

 少女は賢い子のようだ。それとも、小さな子に納得させられる俺が相当馬鹿なのか。

 俺は少女の顔を見てそんなことを考えいた。すると、


 「やっぱり。雅さんは気にならないんですね」


 高木さんがあきれたように言ってきた。何のことかさっぱりわからない。


 「その子の耳、変だとは思いませんか?」


 変?言われてみれば確かに俺たち人間とは違って猫みたいな、いわゆるケモミミが生えてはいるが、なにかおかしいだろうか。それとも、俺が見慣れていないだけで彼女の耳はおかしいのだろうか。


 「どこがおかしいんだ?形?…大きさか?」

 「違いますよ」


 また高木さんはあきれる。一体何なんだ。


 「まず、獣の耳を持っているということ自体がおかしいでしょう?あなたの住んでいた世界では」

 「…あー」


 なるほど。いわれるまで何も思わなかった。

 確かに、俺たちの住んでいた世界。少なくとも地球にはこんな人間は存在していなかった。

 小さな女の子の髪はきれいな金髪で、頭の上にはちょうどライオンのような耳が生えている。本来耳がある場所は髪で隠れてはいるが、おそらく俺たちのような耳は存在しないのだろう。それに、手足もどこかライオンっぽい。


 まじまじと少女を見つめる。

 見ていると細かいところに気が付いた。

 ほほに三本のひげが生えている。八重歯が特徴的。髪がたてがみみたいに生えている。少し獣臭い。最後のはただお風呂に入っていないからかもしれないが、やはりライオンみたいだ。

 いや待て、コスプレという線もあるな。


 「ちょっとごめんよ」


 そんな考えがよぎるとやりたくなってしまうじゃないか。

 俺はあぐらをかいて、少女を膝の上にのせる。「なんだよ」と嫌がってはいるがあまり抵抗しようとしない。人懐っこい性格なのか。

 膝に乗せると、頭がちょうどいい位置に来た。これで触りやすいぞ。


 右手の人差し指を立て、彼女の耳を――ツン――と触った。すると彼女は、ビクッっと体を跳ねさせたが、嫌がる気配はない。

 もう一度触る。今度は少し体が震えるくらいで跳ねたりはしない。

 次は撫でてみる。すると、彼女の体の力が一気に抜けた。俺の体に全体重を預けてくる。

 俺はそのまま両の耳を撫でた。もう完全に彼女の体重は俺のものだ。


 「あの、雅さん。私にも…」


 高木さんも撫でたそうにこちらを見ている。その時、


 「お・・・うとに、な・・・をした!」


 遠く方誰かの声が聞こえてくる。

 まだ距離があるからうまく声が聞き取れない。どうやら怒っているみたいだが。


 「おれ・・・とに」


 さっきよりは近づいたが、まだ分からない。


 「なあお前ら」


 今度は自分の膝の上から可愛らしい声が。

 しかし、その声はどこか焦りを感じられる。


 「逃げた方がいいと思うぞ」

 「え?」

 「ん?」

 「まあ、もう遅いと思うけど」


 少女は何を言っているのか。俺たちに何を伝えようというのか。分からない。


 「俺の・・・もうとに!!」


 また聞こえてきた。

 今度はなんとなくわかる。

 『俺の妹に』か?


 「何をした」

 「!?」


 俺はその場を飛び退いた。

 男の声は、聞き取れたといえどまだ遠くにいたはずだ。なのに、『何をした』の声は耳元で聞こえた。


 俺は俺の耳元で囁いた男を見る。

 見た目は少女と似ている。頬に三本の髭、特徴的な八重歯、たてがみのような髪。漂う獣臭さ。そして、彼の周りには、稲妻のようなものが見えた。

 見た目からすると、どうやら彼は少女の兄のようだ。


 「兄貴!この人は―――」

 「リリア。怖がる必要はない。お前は俺が・・・」


 その瞬間、男が消えた。男がいたはずの場所には、代わりに男のシルエットの形を成した稲妻。

 それに目を奪われていると、気づけば俺は吹き飛び、壁に叩きつけられていた。


 「俺が守る」


 腹に少しの痛みを感じる。体を動かすのが少しダルイ。

 しかし動かさないとまたこの男にやられてしまうだろう。

 すぐに体勢を立て直し、立ち上がる。が、そんなことはさせてくれなかった。

 男は俺の胸ぐらをつかみ、空中に持ち上げる。うまく呼吸ができない。喉が痺れる。


 「どうやって死にたい?どのみち楽には死ねないと思えよ」


 この男、完全にいかれてしまっている。

 こんなところで、訳も分からずに殺されたくはない。


 「今死にたくはないな」


 俺は宙に浮かぶ足を思いっきり振り上げ、胸ぐらをつかむ男の腕を絡めとる。


 「何!?」


 男の肘に手を掛け、そのまま力を入れて・・・折る。


 ――ボキッ――


 男の手は離され、俺は解放された。喉のしびれはもう感じない。

 それに、骨の折れた音がした。完全に折れた。もう戦意は削がれただろう。


 「あ、兄貴!!」


 少女が右腕を抱える男に駆け寄る。やはり彼は少女の兄か。

 そんなこと俺には関係ない。


 助走をつけ、体をひねり、男の顔面に回し蹴りを放つ。

 男の体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。


 「グアッ!」


 男の悲痛な叫び。それも、また俺には関係ない。

 壁にもたれかかるように座る男に向けて再び蹴りを入れようとした。その時、俺の体は再び宙に浮かんでいた。

 しかし、俺の体を持ち上げる何かは見えない。代わりに見えるのは、俺の方に掌を向け、鋭い目を向けてくる少女の姿。


 「お前、兄貴に何すんだ!!」


 彼女が怒声を上げる。それと同時に俺を締め上げる力が強くなった。

 成程、俺を持ち上げている何かは彼女の怒りに連動しているのか、それとも彼女がコントロールできるのか。

 後者の方が有力か。


 そんなことを考えている間も、だんだんと締め付ける力が強くなっていく。

 少しまずいかもしれない。何もできない。


 「み、雅さん!」 


 気が付けば高木さんが動いていた。

 高木さんが少女を突き飛ばすと、俺を締め付ける力がなくなった。

 空中から解放され、地面に着地する。


 「お、ま、え、らぁ!!!!!!!」


 男が叫んだ。倒れる少女を見ながら。

 次の瞬間には男の姿は稲妻に変わっていた。


 「キャア!!」


 高木さんは吹き飛ばされ、そして俺はその場に転ばされる。

 立ち上がろうとするが、足に力が入らない。見ると、両足が折れてしまっていた。


 男を探す。高木さんは、無事。少女は、泣いているが無事。

 男は何処だ。


 「よお」


 男は俺の足元に立っていた。

 男は左腕を天に掲げ、その手のひらから電気を発生させている。その先には電気の球のようなものが発生していた。


 成程、彼は雷を操れるのか。

 今更気が付いてももう遅いか。


 「じゃあな」

 「雅さん!!」


 男が腕を振り下ろした瞬間。俺の視界は白に染まった。

お疲れさまでした。天樹菜々です。

いよいよ異世界にと思いきや、雅は人生終焉を迎えましたね(笑)

言うてる場合かと。安心してください。主人公ですからね。

次回はどうなることやら。


ご拝読ありがとうございました

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