幕間その10 第五皇子の幸運
遅れた割に短くて申し訳ありません。
エリギナ帝国第五皇子ハーマインにとって、将来の目標を立てることはなかなか難しいことであった。
物心ついたときには第一皇子カレロミムがすでに国政の一部を担っており、皇太子としての地位に揺らぎはなかった。
第二皇子もすでに成人し国務を果たしていたし、第三皇子はまだ学生だったが学業優秀だった。
つまり余程のことがなければ少なくとも皇帝の位が自分に廻ってくることはない、ということは早々にして理解していた。
皇室に生まれたものとして、与えられている選択肢はそう多くはない。
とはいえまったく自由がないというわけでもない。結婚をあきらめればある程度選択肢を増やせるし、皇室を捨てる気になればさらに選択肢を増やすことも可能だ。
少なくとも学園を卒業するまでに決めればいい話だと考えていたが、それが突然覆ることが起きた。
「今度新たに準男爵への叙爵が決まったメイリン・パッテナ嬢だが、可能なら皇室へ迎え入れたい。
そこでシーベルかハーマインのどちらかを彼女の婿へと考えている」
彼が父である皇帝に、兄のシーベルと一緒に呼ばれて何かと思ったら、突然そう言われた。
皇族だから政略結婚もあるとは教えられてきたが、さすがにこんなに早く来るとは思っていなかったので、ハーマインも驚いた。
「わたしはエリナ・ジャナハン男爵令嬢との結婚を考えておりますので、その件は辞退したく思います」
シーベルはそう言って辞退を伝えたが、ハーマインは別のことを思っていた。
「準男爵家への婿入りとは、どういう意図なのでしょう?」
余り物の皇子が跡継ぎのいない貴族家に養子に入ったり、婿入りすることは別段珍しいことではないが、普通は伯爵家以上、少なくとも子爵家以上の家が対象であり、男爵家以下へというのは皆無ではないとはいえかなり珍しい。
例外は隣にいる兄のように相思相愛という場合なので、今回のように政略結婚ともいえる仕方で一代貴族への婿入りを積極的に進めるからには、当然しかるべき理由があるはずだった。
「メイリン・パッテナ嬢は現在強力な従魔を二体従えている。特に一体はランク5はある魔獣だ。
当然ながらこれだけの力を市井に置いておくわけにはいかない。誰かの目の届くところにいてもらわねばならない」
父親である皇帝の言葉に、ハーマインも納得した。
そして同時に強い興味を抱いた。なぜなら彼はもともと魔獣に関心があり、可能なら魔獣の研究者になりたいと思っていたからである。
叙爵式後のパーティーの席で顔合わせをすることになったが、当日になって皇帝に急な用事が入ったため、パーティーへは皇太子によって話題の女性と引き合わされた。
しかしハーマインの視線は彼女ではなくその隣にたたずむ巨大な従魔に釘付けだった。
話には聞いていたがその巨体と美しさは、確かに皇家が取り込もうと画策するのも頷けるものだと彼は思った。
結局その場で婚約が決まることはなかったが、もう一人の皇族の候補だったシーベルはジャナハン男爵令嬢との婚約を宣言したため、皇家からの候補は彼一人に絞られることとなったのである。
そしてそのことについて彼自身に不満はなかった。
皇家に生まれた以上、政略結婚もありえることは教えられてきていたし、あの従魔とも一緒に過ごせるなら悪くないと思ったからである。
ただ家族はそうは思わなかったようで、きっかけはどうであれ互いに知り合う機会は増やすべきだと考えた。
ただ相手もまだ学生で寮住まいであり、そうそう行き来することはできない。
そこで今回の調査依頼に当たり、彼の同行が認められた。本来なら年齢的にあり得ない話なのだが、皇族としての責務の一環として認められたのである。
彼自身は間近で魔獣を見るチャンスが巡ってきたことに喜んだ。フィールドワークのための訓練はしてきているので、少なくとも自分の身を守ることくらいはできるはずである。
ただその彼も、いきなり従魔を持つことになるとは思ってもいなかった。




