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指名依頼編その6

ナナコ視点


 まさか顔なじみとこの世界で再開するとは思わなったよ。

 村林とは中学時代は同じクラスだったし、それなりに会話もしている。そしてわたしよりもオタ度は高かったりする。


 で、さっきまでこちらの世界について説明したり、村林がこちらに来た経緯を聞いたりしていたのだけど、どうやらこちらに来たタイミングはわたしと同じだったらしい。


 ただわたしが馬鹿みたいな魔力を持っていたせいで森の中でほかの魔獣に出くわすこともなかったのに対して、村林はそこそこ出くわして戦ったらしい。

 おかげで死にそうにもなったが魔力の使い方も覚えられたそうな。


 すでにわたしよりも魔法がうまかったよ……。


 まあそんなこんなで森をウロウロしたせいで、比較的弱い魔獣を森から追い出す形になったんだね。そこはわたしと同じだ。


 ただそこから違うのが、村に魔獣が襲われているのを見て彼が魔獣を退治したことで、村の人々に近くをうろつくのを見逃してもらえるようになったという。


 うん、見た目が小さいからできたことだな。わたしだったら絶対に傭兵ギルドに通報されていたよ!


 で、今はレーリーがわたしにもした従魔契約についての説明をしている。


“つまりこのままこの世界に留まるうえで、従魔契約を交わした方が良いということなんですね”


“はい、そのとおりです。そうすることで少なくとも契約主とは会話できますし、従魔であれば人の中でも問題なく生活できます。

 ただ先ほども伝えた通り従属契約を解除する方法は今のところないということなので、後で気に入らないからやめるということはできません。

 あなたはこの村では受け入れられているようですから、このままこの村の近くで過ごすという選択肢もあるかと思います“


“うーん、ここも悪くはないけどやっぱり話が通じる相手がいたほうがいいかな。知り合いが近くにいるのも心強いし”


“あまり軽々しく決めることはお勧めしませんが”


“いやあ、こういうことは思い切りが肝心かなあと。どうせ考えたところで元の姿に戻ることも、元の世界に戻ることもできないということだし。せめて人と話せる環境は確保しておきたいんです”


 ああその気持ちはわかる。

 わたしも森の中で数日人と会わなかっただけで人恋しくなったし。


“じゃあ、誰の従魔になる? メイリンは駄目だよ、わたしのせいで大変だから”


 一応、念を押しておく。

 そして彼の視線がメイリン以外の女性に動くのを見た。


“……エッチ”


“え、いや誰がいいか見ていただけでなんでそんなことを言われるの?”


“サシャ様とエリナ様に目が行っていたでしょう。あんたは男なんだから、男性の従魔になりなさいよ”


“そんな決まりがあんの?”


 こいつ、さては本気で考えてたな!


“そもそも魔物にとって人間の男女の違いが判っているのかは知りませんが、おそらくそのような決まりはないと思います。

 ただし本当に魔力の相性が良いということでなければ、同性の相手を選ばれた方が無難であろうと思います“


 レーリーもそんな真面目に答えなくてもいいのに。


“うーん、魔力の相性ねえ……”


 再び彼が部屋の中の人物を見廻した。


“……相性かどうかはわからないけど、あいつの魔力はさっきから何となく気になっている”


“「あいつ」とか。ここにいるのはみんな皇族とか貴族子弟ばかりなんだから言葉遣いには気を付けなよ”


“今は言葉は通じないですし、言葉が通じた後も所詮こちらは見た目は魔獣です。そこまで気にすることもないでしょう”


 レーリーはもともとそっち側の人みたいだから自然に対応できるでしょうけど、こちらはド庶民なんだから意識しないとダメなんだよ。


 わたしは振る舞いさえ気をつけておけば、声はメイリンにしか聞こえないから大丈夫だけど。


 とそんな話をしていたら、そのメイリンの説明も終わったようで、誰が村林を従魔にするかという話が始まったみたい。


 まあ確かにこっちで魔力の相性が良いと思っても相手が必要としていなければ契約してもらえないしね。


“正確な数値はわかりませんが、わたしの感覚ではムラバヤシさんもそれなりに多い魔力をもっているようなので、よほどの理由がなければ断られることはないとは思います”


 なんかわたしの考えがさっきからレーリーに否定されてばかりいる気がする。


“気のせいですよ。ナナコの言うことも一理ありますが、あまり脅してばかりでも仕方がありませんからね”


 う、従魔の先輩としてちょっと脅してやろうと思っていたことに気づかれてた!




マサト視点


 実際、この世界に飛ばされてきて森の中を彷徨っていた時はかなり参っていた。


 だからこの村にたどり着いて久しぶりに人と会ったときは本当にうれしかった。

 しかも村人はエルフ7割、獣人2割、そのほか一割という感じでいかにも異世界!とテンションが上がった。


 しかしこちらは猫の姿なのに村人からは恐れられているっぽく、村の中には入れてもらえなかった。


 仕方がないので村の外で森から出てくるほかの魔獣を倒したり追い払ったりして、やっとある程度慣れてもらうことができた。


 でもやはり村の中には入れてもらえないし、そもそも言葉が通じない。こちらがしゃべれないだけでなく、相手の話す言葉もわからない。


 このままここにいてよいのか考えていた時に、ナナコたちと会うことができた。


 うっすらと想像はしていたが、元に戻るのは難しいらしい。それなら言葉の通じる相手と一緒にいる方がよほどいい。


 レーリーさんによれば魔力の波長が近い人がいいということだったが、実を言えば最初から気になる魔力をもつ人物はいたのだ。


 俺はこの場で一番若く見えるエルフの前に進み、その前で止まって、相手の顔を見た。


 相手は俺に何かを話しているが、何を言っているかわからない。だがレーリーが自分で本当にいいのかを聞いていると通訳してくれた。


 俺は力強く頷く。


 すると相手は俺に対して魔法を使った。なるほどこれが従属魔法というやつか。

 受け入れれば俺はこいつに従属することになるが、ナナコやレーリーさんの扱いを見る限りそこまで悪いことにはならないだろう。


 俺はその従属魔法を受け入れることにした。




メイリン視点


 マサトが選んだのは第五皇子ハーマイン殿下だった。


 順当といえる相手を選んでくれた、わたしもほっとした。


 皇族は基本魔力が多いし、おそらくマサトの魔力はレーリーと同じくらいであろうからナナコのときのような問題も起きないだろう。


 そしてもう一つ、皇族の一人が白い従魔を得られれば、わたしとの婚約話についても下火になるかもしれない、という期待がある。


 ただそうすると、今度はアルドア様の実家の方がライバルが減ったと考えるかもしれないし、皇家がわたしとの婚約話を忘れるかもしれないというのも、あくまでわたしの願望なので手放しで喜べるわけではない。


 とにかく今は婚約の件は忘れて依頼をこなすことだけ考えよう。


 明日は念のため森の調査をして、明後日には次の目的地に向かうのだし。


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