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指名依頼編その3

前回、間が空いた割に短かったので少し頑張ってみました。

 今回、指名依頼された3件の調査について、わたしたちどの順番で回ったらよいかも検討した。


 まあ緊急性の高そうなものから行うか、それとも近い順や遠い順など移動効率を考えるかということだ。


 ただこれについてカイル先生からは、緊急性はどれも高くないとは言われた。

 確かに緊急性が高ければわざわざ私たちの休みを待ったりはしないだろう。


 そのため結局は近い順に回っていくことになった。といってもどれも魔獣が出る森なので学園からは魔導車でも1日以上はかかる距離だ。


 そして、調査に当たってやはり学生だけに向かわせるのはさすがに無理があるということで傭兵ギルドからの助っ人もあった。


「チーム『鼠の牙』だ。よろしく」


 紹介されたのは3人組でランク4の傭兵チーム。

 『鼠の牙』なんて弱そうな名前なのに、見た目からトップレベルの傭兵だとわかる人たちである。もっと強そうな名前にすればいいのに。


 と思ったら、そういう名前は大体先につけられているし、そもそも最初にチーム名を決めるときは大体ランク1か2の時だから、あまり大仰な名前を付けるのも恥ずかしいので大体こうした大したことなさそうな名前を付けるそうだ。


 それならそれで、強くなってから名前を変えればよいのにと思ったけど、そのころにはその名前がギルド内でも定着してしまうので、変更しづらいという事情もあるらしい。


 そしてさらに予想しなかった同行者がいた。


「皆さん、おはようございます」


 苦虫を噛み潰したような顔をしているシーベル様の隣でそう元気にあいさつしたのは第五皇子のハーマイン様だ。


「いろいろあって弟も同行することになった」


 なぜか私を睨みながらそう言われた。まあ私以外に理由はないのだろうけど。


 婚約者の件はしばらく静かだったからすっかり忘れていた。


「お久しぶりです、メイリンさん。ナナコを触ってもよいですか」


 皇子なのに礼儀正しいし、悪い印象はないんだけど、どう見ても私じゃなくて従魔目当てなのがなんというか、婚約者候補に名前が挙がっていることは本人も理解しているはずなんだけど、それに対してどう思っているんだろう。


「殿下、皇族が二人も同行するというのはあまりお勧めできない状況と思いますが」


 さすがにアルドア様がシーベル様に確認した。

 この国は今はおおむね平和だけど、だからといって不満分子がいないわけじゃない。皇家に反感を抱いている者たちも当然存在する。

 腹に一物抱えるような者たちにとって、この件は絶好の機会ともいえる。


 しかしシーベル様は気にしていないようだった。


「俺もハーマインも皇族と言っても将来は臣下に下るのがほぼ確定している程度の存在だ。それに家族からは愛されているとは思うが、同時に何かあった場合は国民を優先するとも言い聞かされてきている。

 逆に言えば人質として大きな価値はないということだ」


 それはそれで寂しい気もするけど。


“国の頂点に立つということは、そういう覚悟も必要だということです。それに人質としての価値を減らすことで、狙われる可能性を少しでも減らすという意味もあるのでしょう”


 そういえばレーリーも元王族だったっけ。


“王族として過ごしたことはほとんどありませんが。ただそういう方々の近くで過ごしていたので、理解はできます”


“だけど危険がゼロになるわけじゃないし。大丈夫かな”


 ハーマイン殿下にモフられながら、ナナコが心配そうにしている


“おそらくランク4の傭兵チームは護衛も兼ねているのでしょう。あとナナコの存在と”


“え、わたし?”


“あなたはランク5の従魔と思われているのですから。もしも何かをやらかそうと考えている人がいるとしても、ランク5の従魔への対処も同時に考えないといけないわけで、よほどの手練れをそろえた上で入念な準備が必要と判断するでしょう。

 つまりナナコが存在するだけで相手側にとって難易度が勝手に上がっているわけです“


“うーん、いっつもそういわれるけど、いまだにその実感がない……”


“ナナコは自分の強さを客観的に判断できる機会が必要ですね”


 というか、実感する機会でもある模擬戦で毎回ナナコの反撃を完封しているレーリーがそれを叩き折っているんじゃないだろうか。




 人数も多いので魔導車は3台用意された。

 しかも1台は荷台付きだが残り2台はナナコも乗り込めるサイズである。というか車内で宿泊できるタイプの魔導車だ。


 運転手込みで用意したのは依頼者である皇家だそうだ。しかも費用は依頼者持ちとのこと。


 シーベル様が言っていた愛されているというのもあながち強がりでもないようだ。


「さすがは国からの依頼だけある。こんな宿泊型魔導車を2台もポンと用意するなんてな」


 『鼠の牙』のリーダーというシラバタスさんがそう言って感心していた。


「ランク4でもこのタイプの魔導車は持てませんか?」


「持てないことはないが、維持費も嵩むからな。宿代は浮くが、このタイプは意外と素材を運べないから高ランクの傭兵で魔獣討伐を中心にしている奴は荷台付きの魔導車を持つことの方が多い。

 このタイプは護衛依頼中心で受けている連中が持っていることが多いな。それでももう少し小さいタイプだろう」


 アルドア様とシラバタスさんがそんな話をしている。


“キャンピングカーですね! 乗ったことないからなんだかワクワクしますよ!”


 なんだかナナコのテンションが高い。




 その後、最初の目的地に着くまでは特に大きな事件もなかった。


 ここでもわたしたちがナナコと遭遇したときと同じような事象があったという。

 何日か前から、森から魔獣が現れるようになったため、傭兵ギルドへ討伐依頼を出したところ、やってきた傭兵チームでは対処しきれないほどの魔獣が森から出てきたそうだ。


 結局、近くの村は畑のほとんどがあふれてきた魔獣によってダメになったらしい。

 それでも人的被害はでなかっただけよかったともいえる。


 魔獣のほとんどはその後森に戻ったようだが、最初の傭兵チームが魔獣の群れの後方に白い小さな魔獣を見たそうだ。


 傭兵チームはそのことを村長に報告、改めて村長より白い魔獣の討伐依頼が出されたが、彼らのチームでは対応が難しいため、状況報告と新たな討伐依頼のため、彼らが傭兵ギルドへと向かった。


 ところがその後、討伐依頼を受ける人員を募っていたところで当の村から討伐依頼の取り下げがもたらされた。

 それによるとその後新たな魔獣氾濫の気配もなく、村の復興を優先したいため白い魔獣の討伐依頼は取り下げるということであった。


 あるいはそれは事務的に受理されてそのまま膨大な報告書に埋もれることになったかもしれないが、小規模とはいえ魔獣氾濫が起きたことを重視した受付担当者は支部長にその旨を報告した。

 そして丁度その時、支部長のもとには、ナナコという白い虎の魔獣により同じように魔獣氾濫が起きたという報告が届いたばかりであった。

 しかもその白い魔獣はランク5という強さにもかかわらずあっさりと従魔になったという。


 そこで支部長はすでに依頼は取り下げられたこの件について、念のために本部へと報告を出した。

 こういった報告は出しておけば、後で何かあったときにも少なくともこちらからは連絡済みだと主張できる。多少余計な手間がかかるとはいえ、保身という意味でも無意味ではないのである。


 実際、その白い魔獣に関する目撃情報は上層部の目に留まり、最終的には傭兵ギルドの実質的なオーナーでもある皇帝にも報告されることになり、今回改めて国より調査依頼が出されたというわけである。




 まず今日は村で聞き取り調査をしてから、森に行くのは明日になる、そう考えていた。


 しかしその予想は見事に覆された。


 なぜなら、村の入り口付近には幼い子供と戯れる白く小さな魔獣がいたからである。


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